サザエさん―面白い落ち(156)

 

芸は身を助くと言うのがありますが、才能は身をおとしめることもあります。ご用心!

 

朝日文庫版44巻〔124頁〕・昭和48年

『星も出ている真夜中です。制服制帽の警察官が、店頭に置いてある公衆電話の受話器を握り、「ホシがあがりましたいま連行しまス」と報告しています。かたわらには、逮捕した横縞模様のセータを着て、無精髭を生やした角刈りの男が立っています。丁度そこへ、サザエさんのお父さんが通りかかり、その模様を見て、つい、「名月をホシ(星)もあおぐや虫の声」と余計な一句捻り出し、詠み上げています』

『それを聞いた警察官が、また才能のある男で「オヤ!やりますネ「名月にやじ馬いななく夜長かな」と返しました。ホシと言われた男はポカーンと立っています。サザエさんのお父さんは、やるなと言わんばかりの顔をしています』

『サザエさんのお父さんと警察官のやりとりを聞いていたホシと言われた男は、突然、「返句「名月や交番までを大(お)まわり」」と詠み、ニコリとしました。それを聞いた警察官は思わず「うまい!!」と感心しています。サザエさんのお父さんも、ニッコリと微笑んでいます』

『警察官は、受話器を持って、悲壮で悲しげな顔をし、冷や汗を流しながら、「名月や取り逃がしたる・・・・」と詠んで報告すると、受話器の奥から「バカきん急たいほせよ!!」と大声の雷が落ち、指令が帰ってきました。ホシと言われた男の姿はなく、サザエさんのお父さんもいなくなりました』

 

サザエさんのお父さんは、余計なことをやってしまいました。

時たま、下手な俳句を詠んでいましたが、その俳句が、警察官にとんでもない迷惑をかけたのです。

 

警察官と逮捕したホシとの間に入って来て、下手な俳句のような5・7・5の文句を

「名月をホシ(星)もあおぐや虫の声」

と並べるものだから、少し俳句の才能があった警察官は、「このオジサン俳句を詠んでいる」と思ったのでしょうか?

多分このやじ馬やろうと思いながら、ならば、俺も俳句で返してやろう。

こんな非常時に、詠まなくてもよい5.7.5を

「名月にやじ馬いななく夜長かな」

と並べたのです。

 

下手の横好きと言いますか、上には上があるもので、

ホシと言われた男も、俳句の才能があったのでしょう、スラスラと

「名月や交番までを大(お)まわり」」

と5.7.5を並べました。

上手いものですね!たぶん長い道のりを連行されて来たのでしょう。

その長い道のりの大回りをお巡りさんのおまわりとかけ、笑店の木久翁さんのような余り上手くないダジャレを入れた一句を即座に詠んでしまったのです。

警察官は、その一句に

「うまい!!」

と気を許した隙に、ホシを逃がしてしまったようです。

 

下手な俳句を持ち込んだ、野次馬のオジサンも何処かへ消えてしまった。

 

そんな成り行きを本署に報告しても

「バカ野郎、直ぐに逮捕しろ」

と叱られるのは当然です。

 

芸は身を助く、と言いますが、下手な才能は身をおとしめることもあります。ご用心!