鴨が葱を背負って来た
医師が「レントゲン撮影の結果、肺に異常があるようだ、精密検査が必要だ」と言う。最近、何となく、胸と肩が痛むので、総合病院に行く予定であると言うと、総合病院宛ての紹介状を書いてくれた。その内容は判らないが、多分、「この患者が胸部と肩に痛みがあると言っている。当院で胸部レントゲン撮影をした結果、フイルムの肺の下部が白い、石灰化と思われる」とでも書いてあったのであろう。1.5ケ月位前から、肩甲骨の周りと胸が痛む、ヅキヅキとくる時がある。「筋肉痛だろう」と自己診断し、「この程度の筋肉痛であれば、しばらく安静にしていれば治る」と、高を括っていた。ところが、3週間ほど安静にしていても、一向に治る気配はなく、特に胸部の痛みは、筋肉の奥から伝わってくる。そこで、インターネットで「胸の痛み」と検索すると、種々の情報があり、その中に、「痛みが大きいと、それは狭心症の危険な痛みである」と出ていた。数日後、たまたま、テレビを視ていたら、畏れ多くも、皇后陛下が「心筋虚血」の疑いがあると報じられていた。そして、この病の症状は、胸部と左の肩部に痛みがあると報じている。「アレっ!自分の症状と同じだ、これは、病院で診てもらうしかない」と思った。
近くの総合病院に出かけた。病院での診断は、調べていた「循環器内科」に診察を申し込む。しかし、当日は、「内科の先生だけしかいない」と言う。病院には、朝早く来たと思ったのに、受け付け後の診察番号は、既に、47番でかなり混んでいた。既に沢山の人達がソファーに座って、順番を待っている。やっと、狭い、ソファーに座って、約1時間半くらい待って、やっと「○○○○様、0番の診察室にお入りください」とお呼びが掛かった。重たそうで部厚いが、よく滑る引き戸を開いて、診察室の中に入る。部屋の奥に白衣を着た、細長い、河童のような顔の大人しそうな医師が、椅子に座って待っていた。「今日は、よろしくお願いします」と言いながら、横に置いてある篭にバッグを入れ、医師の前に置いてある丸椅子に腰掛けた。医師は、甲高い声で忙しそうに「どうしました」と聞くので、胸を抑えて、「ここら辺が痛むのでス」と答え、続けて右の手で左の肩を押さえて「肩甲骨の周りも痛むのです」と教えてやった。医師は、「何でしょう」と言う。何であるか知りたいのは、私の方で、医者が、「何でしょう」と聞くのも妙なものだ。医師の首には、聴診器も掛っていない。通常、内科の医師でなくても、聴診器を耳に当て、「シャツを上げてください」と言うのだが、その医師は、何も言わない。残念ながら、上半身の裏にも表にも聴診器を当てて貰わなかった。ただ、医師は、私の症状は、単なる筋肉痛ではなく、紹介状を信じて、胸部に疾患があると判断したらしく、「徹底的に調べましょう」と各種の機器検査をするように看護婦に手配した。
血液検査、エコー、呼吸検査、レントゲン、CTなどの各種の検査で、終わるまでには、相当の長時間を要した。病が何であるかを詳しく調べる必要から検査するのだろう。しかし、なんだか、私は葱を背負ってきた鴨になったのではないだろうか。
同じような鴨達が検査室の前に腰かけて順番を待っている。沢山の葱を背負った、年老いた鴨たちばかりで、若い鴨は殆どいない。