サザエさん―シルバ(32)
魚のスズキを鈴木さんと言うような人は、多分、サザエさんの外は、いないと思います。
朝日文庫版43巻〔106頁〕・昭和47年
『サザエさんの家の近くに、白髪を結いあげ、着物姿に襟巻をした、迷子になったお婆さんがいました。外に出ていたサザエさんが、そのお婆さんがなんだか変だと気付いて近づくと、お婆さんが、メモ用紙を持ち、「ハーテどこにいくんじゃったかなナ」と頭を搔いています。サザエさんは、お婆さんが持っているメモ用紙に気づき、「メモをおもちですね」と尋ねています』
『サザエさんは、お婆さんと一緒に交番に行きました。お巡りさんが、お婆さんが、持っていたメモ用紙を見ています。その用紙には「スズキ」と大きく書いてありました。それを見たお巡りさんは、「スズキという名は多いからなァ」と困ったような顔をしています』
『お婆さんを交番の入口に待たせ、お巡りさんは、分厚い住所録を机の上に広げ、「スズキ スズキここにもある」と鈴木さんの家の住所を調べ始めました。サザエさんは、お巡りさんが広げた住所録を、首を長くして覗き込み、住所録を指さし、「これかしら?」と割り込んでいます』
『暫くすると、お婆さんは思い出したらしく、「アそうだ!!魚屋にスズキを買いに行くんだった」と言うと、頭を叩きながらサッサと交番から立ち去りました。お巡りさんとサザエさんは、呆れた結末に、ポカーンとして、立ち去るお婆さんを見ています』
お婆さんのように年老いてくると、物忘れが酷くなるのは間違いありません、それにしても、このお婆さんの物忘れは、酷いようです。大きく「スズキ」と書いたメモ用紙を持っているんですよ。きっと、お婆さんは、息子の嫁に「オバアチャン、魚屋さんに行ってスズキを買ってきて~、忘れたらいけないから、紙にスズキと書いたから、このメモを持って行って」と頼まれたはずです。
お婆さんは、家を出て暫く「スズキ、スズキ」と繰り返しながら歩いていたと思います。それなのに、ポカポカと天気が良かったのか、「スズキ、スズキ」とつぶやくのも忘れてしまい、その内、あー鈴木さん家に行くんだったと間違って思い出し、「鈴木さん家はどこかいな~」、「鈴木さん家はどこかいな~」と繰り返し言いながらブラブラと歩き、魚のことはすっかり忘れてしまいました。更に、歩く内に、「鈴木さん家」も消えてしまい。「どこえ行くのか分からなくなりました」、お婆さんは、完全に認知症の症状が出てしまったのでしょうか?
このままだと危ない。偶然、サザエさんが、「あのオバチャンなんだか変だ」と気付いた容易です。「どうしたのオバアチャン」と尋ねると、[どこに行くのか、すっかり忘れてしまって]いたお婆さん]は、「ハーテどこへ行くんじゃったかなァ」と答えていたのです。
「オバちゃん!メモ用紙持っているじゃありませんか!どれどれ!スズキと書いてあるわ、鈴木さん家に行くのでしょう」
と言うことになり、親切なサザエさんは
「お巡りさん、このお婆ちゃん、鈴木さん家に行きたいらしいだけど鈴木さんの家が何処だか判らないそうです」
と交番にお婆さんを連れていったのです。
2人が懸命に「住所録」を調べているのを長時間見ている内に、お婆さんは少しずっ思い出しました。
「そうだ、私は、嫁に頼まれて美味しい魚〈スズキ〉を買いに行くこところだったんだわ。だから、メモ用紙には〈スズキ〉と大きく書いていたんだ。それなのに、あのお節介な奥さんが、スズキを鈴木さんと「さん付け」で読むから、おかしくなったんだ。お巡りさんも鈴木さんと思ってしまい住所録を調べている」
お婆さんは
「メモ用紙には鈴木さんとは書いてないよ!スズキとハッキリ書いているよ。魚のスズキを鈴木さんと言うような人は、あんた達の他はいないはずよ」
と認知症と疑われたお婆さんは、すっかり正常のお婆さんに戻り、交番でまだ鈴木さん家はどこかなと調べている2人を置いて、立ち去りました。
少し大きな声で、「アそうだ!!魚屋にスズキを買いに行くんだった」と言ったのが聞こえたのか、二人は、唖然として腰を抜かしていました。
「あ!これですっきりした。まだまだ、私は健忘症なんかではないわ!ハッハッハッ!」
と健忘症と疑われた、元気なお婆さんは、嫁の言いつけ通り、颯爽と美味しい魚〈スズキ〉を買いに行きました。