マッチングアプリ vol.2
私たちはLCの中に入り、Cの店舗に入った。
Cはいくつかラインがあり、女は比較的リーズナブルなラインの服を見ていた。
前見頃が十字になったデザインのとXになったデザインのTシャツを広げて、鏡を見ながら体に合わせて真剣な表情で確かめていた。
女は166cm近く身長があり、痩せ身でスタイルが良かったので、フィッティングルームに入って試着しても似合っていた。
『どちらの方がいいかなー』
と、独り言を言うような感じで私に意見を求めた。
どちらも似合っていたが、私は十字の方がいいと直感で言った。
女はそれでも考えている様子で、
『うーん。とりあえず他の階のブランドも見てみよう』
と言った。
特に私は苛立たなかった。
時間はいくらでもあったので、女に誘われるがまま他のブランドを見に上の階にエスカレーターで上がっていった。
女がアプリで教えてくれたSの店があり、私たちは早足で入った。
SはCとも繋がりがあるブランドで、後で知ったことだが、デザイナーがCで昔パタンナーをやっていたらしい。
女は目を輝かせて店内を歩き回り、しばらく色々物色して
『これがいい!』
と言って、黒のコットンベストを選んだ。
6月でも下にTシャツなど合わせて来れるサマーベストだ。
ちょうど、セール品で2万足らずの額だったので私は一緒にレジに行き、買ってあげた。
女は嬉しそうにして感謝の言葉を私にかけた。
そういえば、女とショッピングするなんて久々だな、と私は思い、不思議な感覚になった。
それから私達はLCを後にし、とりあえず街をぶらぶら歩くことにした。
7、8分歩いていると昔からあるようなレトロな喫茶店が見えたので、私はそこで話をしよう、と言い中に入った。
扉を開けるとすぐカウンターでマスターと妻なのか同年代くらい50歳代ほどの店員が「いらっしゃい」と出迎えてくれた。
店内の真ん中ほどの2人掛けのテーブルに私達は座り、店員がお冷を持ってくるとメニューを広げ、どれにしようか話し合った。
ピザトーストとコーヒーを2人とも頼むことにし、コーヒーだけは私はアイスで女はホットにした。
天気の話などをしつつ、共通の趣味の服の話をし始めた。
私は服、アパレルの話なら時間を忘れていくらでも話していられる。
持ってるハンドバッグを褒めると、アレクサンダー・ワンというブランドだと教えてくれた。
それから女は元モデルで、服好きが高じてショップの店員もやったことがあると私に告白した。
どうりで、何を着ても似合うと私は理解した。
それから女はバツイチで、今は親とマンションに住んでいると言った。
子はいないようだった。
-続く
マッチングアプリ
その女と知り合ったのは昨年の6月だった。
私は、某マッチングアプリに4年前から登録していて、実際に会うのは二人目だった。
一人目は、夫に先立たれていて小学校6年生の娘を養っている一児の母だった。
彼女とは全部で5回ほど会ったが、結局うまく続かなかった。
同い年で近くの町に住んでいるということもあり、話が合うかな、と考えていたが、相手に何だかんだ理由をつけてデートの約束をドタキャンされることが多く、いわゆる自然消滅をしたのだ。
1番初めに会った時は、街の駅の近くの居酒屋だった。
チェーン店だが、半個室状態なので他人の目を気にすることなく気軽に話せると思い、そこに指定した。
2回目は街とは反対の西の方にある海沿いの割烹料理屋風の海鮮料理屋で食事した。
3回目は、三日日にあるハンバーガー屋、4回目は朝のコメダ珈琲だった。
私達はなるべくお互いのことを知りたいと思っていて、多少の緊張をしながらも仕事のこと、生活のこと、趣味など分け隔てなく話し合った。
飲食代は私が3分の2を持つことになり、そのことに対しても彼女は特に負い目を感じてる様子はなかった。
仕事をしていると言えど、親と同居している一児の母だ。
経済的に豊かなわけではない。
そんなある日、別れがきた。
ドタキャンの理由は大体が生理などによる体調不良だったが、それが何回も続いたので私は連絡を控えるようにした。
私は相手の身体の弱さを考えるよりも怒りを通り越して呆れ返っていた。
それで破綻を迎えた。
私は不動産関係の会社に勤めていて、自分の土地・テナントもそこで管理してもらっていて、アプリにもそのことを載せていた。
派遣会社時代に知り合った友人から、なるべく誇大化してプロフィールを記載しない方がいい、写真は控えめだがこだわった撮り方の方がいいと言われたので、敢えてそうした。
ただ、趣味の欄だけは相手と合う人物と知り合いたかったのでなるべく多くコミュニティに入り、分かりやすくした。
私は音楽の他に服が好きで、主にデザイナーズブランドのコミュニティに入りそこで相手を見つけようとしたのだ。
入って最初の半年くらいは反応がなかった。
こんなのに意味があるのか、私は不安になっていた。
そんな矢先、Cというブランド好きのコミュニティの女から、いいねボタンが押された。
相手は46歳、顔写真は厚化粧で正直好みのタイプでないし、なにしろ40代の年上のということもあり気乗りしなかったが、虫の知らせか連絡を取ってみようと思った。
「私もCが好きで、よくショップで買ってます。
Aさんもよく買われるんですか?」
そんなような内容のメールを送った。
すぐ
『はい、そうです。
昔から好きです。Sというブランドも最近注目してます。』
と返信がきて、
私は
「よかったら一緒にショッピングに行きませんか?」とメールした。
少し早い展開だったが、ダラダラと世間話をしても仕方ないと思ったので、そう決意した。
2時間も経たないうちに、OKのメールがきて交通費を私の負担ということを条件に私たちは会うことになった。
6月某日に。
京都に女は住んでいて、私は浜松だったので中間の名古屋で会うことにした。
6月なので、気温も高めになってくる時期だから私は冬に比べるとあまりお洒落はできないなと思いつつも、試行錯誤しイッセイミヤケのレーヨン製のアロハシャツを選んだ。
1年前にデパートのショップで買ったものだったが、青と白のコントラストで見栄えは悪くないと思った。
コレクションラインということもあり、多少なりとも自信があった。
私は鏡を見ながら自分に大丈夫だ、と言い聞かせ家を出た。
女とは栄で会うことになっていた。
LCという商業施設の前で待ち合わせることにしていたのだ。
横断歩道の横に建物はあり、人の行き交いが絶え間ない。
私は所在なさを感じながらも、ぼーっと立ち尽くし、じっと来るのを待った。
私が到着してから20分後、女は現れた。
女はマッチングアプリのプロフィール写真と全然違く、そこまで厚化粧ではなく、どちらかというと美人の部類だった。
年齢はプロフィールの紹介の46歳とさほど変わらないようだったが。
「はじめまして。もしかしてAさんですか?」
『そうです。〜さんですか?』
私は頷き、女の表情が微かに明るくなるのがわかった。
「私、ここによく来るんです。待ち合わせで使ったのは初めてだけど。よかったらLC見てきませんか?」
『ええ、Cも入ってるし丁度いいですね。見てきましょう』
女は
話を聞いたところ女は49だった。
3歳違ったわけだが、マッチングアプリなんてそんなものだろうとたかを括った。
-続く
RYU’s novel remix 4
カフェ・ドゥ・マゴ。
サンジェルマン通り、デ・プレ教会に面したところにそのカフェはある。
そこで私は老作家に出会った。
始め、私はその老作家を見た時首を傾げた。
初めて見る気がしなかったのだ。
どこかで見たことがあるな、そう思いながら老作家がティーカップを口に傾けるのを見ていた。
そして、それが雑誌LIFEの片隅で紹介されていた作家と合致してふと我に返った。
「Excusez-moi」
と、私は老作家に声をかけた。
あなたは、もしかして…さんではありませんか?
『そうですが』
あなたは誰?、と私に当たり前のことを言った。
「ファンなんです」
と、私は半ば嘘を言って微笑みかけた。
それから、持ってたノートにサインを書いてもらった。
老作家は私を彼の常駐しているホテルへ連れて行ってくれた。
窓際にデスクが1つ、対角線上の壁にベッドが縦に置かれている部屋だった。
この部屋は東に面しているので、おそらく日の出と共に起きることになり、目覚めは悪くないはずだった。
さて、と老作家は私の方を振り返り質問した。
君は、最上級のシャトーマルゴーを飲んだことがあるかい?
私はそれを飲んだことがあるのはモーツァルトだけだと思っている。
『芸術のすべての頂きはモーツァルトにある』
モーツァルトの旋律はまさに聞いた瞬間にすべての印象を消し去りまったく何も残すことはない。
だからモーツァルトは私のようにシャトーマルゴーを三日三晩飲みつくしたりはしないだろう。
あの奇妙な完全なワインの味を生まれながらにして知っているからだ。
私は、モデルにした者と必ず寝ることにしてるんだよ、そのような意味合いのことを私に話した。
これまでに30人は寝た、と老作家は言った。
『君は私と寝るかい?』
私は、急いでバッグを持って部屋の外に出た。
扉に手をついて肩で息をして立ち尽くしていた。
『ジョークだよ』
と、老作家は笑い、独り言を呟いた。