RYU’s novel remix 4
カフェ・ドゥ・マゴ。
サンジェルマン通り、デ・プレ教会に面したところにそのカフェはある。
そこで私は老作家に出会った。
始め、私はその老作家を見た時首を傾げた。
初めて見る気がしなかったのだ。
どこかで見たことがあるな、そう思いながら老作家がティーカップを口に傾けるのを見ていた。
そして、それが雑誌LIFEの片隅で紹介されていた作家と合致してふと我に返った。
「Excusez-moi」
と、私は老作家に声をかけた。
あなたは、もしかして…さんではありませんか?
『そうですが』
あなたは誰?、と私に当たり前のことを言った。
「ファンなんです」
と、私は半ば嘘を言って微笑みかけた。
それから、持ってたノートにサインを書いてもらった。
老作家は私を彼の常駐しているホテルへ連れて行ってくれた。
窓際にデスクが1つ、対角線上の壁にベッドが縦に置かれている部屋だった。
この部屋は東に面しているので、おそらく日の出と共に起きることになり、目覚めは悪くないはずだった。
さて、と老作家は私の方を振り返り質問した。
君は、最上級のシャトーマルゴーを飲んだことがあるかい?
私はそれを飲んだことがあるのはモーツァルトだけだと思っている。
『芸術のすべての頂きはモーツァルトにある』
モーツァルトの旋律はまさに聞いた瞬間にすべての印象を消し去りまったく何も残すことはない。
だからモーツァルトは私のようにシャトーマルゴーを三日三晩飲みつくしたりはしないだろう。
あの奇妙な完全なワインの味を生まれながらにして知っているからだ。
私は、モデルにした者と必ず寝ることにしてるんだよ、そのような意味合いのことを私に話した。
これまでに30人は寝た、と老作家は言った。
『君は私と寝るかい?』
私は、急いでバッグを持って部屋の外に出た。
扉に手をついて肩で息をして立ち尽くしていた。
『ジョークだよ』
と、老作家は笑い、独り言を呟いた。