日本経済新聞に、弁護士ドットコムがいわゆる「40%ルール」で「『投資ライン』未達」という記事が出ました。
40%ルールは「SaaS企業では、売上高成長率と利益率の値が40%を超える企業が健全」というような考え方。記事では弁護士ドットコムは34%(増収率+FCFマージン)で、この40%に到達していないため市場が失望している云々、とあります。
しかしながら40%ルールというのは、多種多様なSaaS企業を一つのものさしで測ろうとする指標で、かなりざっくりした考え方です。現時点ではまだ、立ち上がり始めたばかりの日本の電子契約サービスを、40%ルールで見るのはあまり意味がありません。
電子契約サービスは、契約が取れたらすぐにフルで課金が発生するようなSaaSビジネスではないし、売上が立てばすぐに利益が出るようなビジネスでもありません。SaaSビジネス全体を見れば、契約すればすぐに一定規模の売上に繋がるようなビジネスも多く存在するんですが、電子契約サービスは売上が増えて、損益分岐点を越えてくるまでに、少し時間がかかります。つまり、電子契約サービス市場がしっかり収益を生むビジネスになるのは、日本では正にこれから、ということです。
ちなみに、先行しているアメリカでも電子契約サービスは急成長を続けていますが、最大手のドキュサインの決算などを見ると、大企業の利用者が増えて、電子署名のビジネスだけみれば、すでに安定的な利益が出るフェーズに入っているようです。ただ、ドキュサインの場合、電子署名だけではなく契約周りの業務を中心に据えた「契約ライフサイクル管理(CLM)」を行うビジネスプラットフォームを販売する企業に変容すべく、システム開発への先行投資を積極的に続けているので、クラウドサインと単純な比較はできませんが。
クラウドサインがメインターゲットに据える、比較的大きな企業の場合、電子契約サービスの導入を決めても、システムの改修、社内の決裁フロー業務の見直しや社内規程の改定、取引先への周知、社員教育等、準備に一定の期間が必要です。大企業の場合は、特定の部署から始めて、段階的に拡大していくように慎重に導入を進めるところも多そう。契約は相手のある行為だし、ビジネスの根幹でもあるわけですから、社長が全面導入を決めて号令をかけた次の日から全社で使う、みたいなことにはなりえません。
電子契約サービスは、この1年で急激に立ち上がってきたビジネス。クラウドサインのような事業者型電子署名(クラウド型、立会人型)が、電子署名法に準ずるとの判断が出てから1年も経っていないわけで、今は半年前ぐらいに導入を決めた大企業が、ようやく本格利用を始めたところといった感じでしょう。
つまり、クラウドサインの売上は、大企業向けが今期から急激に伸びてくるはずで、営業キャッシュフローが大きく伸びてくるのはほぼ確実でしょう。
日経は40%ルールを以て「弁護士ドットコムは『投資ライン』未達」と言っていますが、電子契約サービスのような急激に立ち上がってきたビジネスに、この日経の言うところの「投資ライン」に達成してから投資を決めるというのは、成長企業中心に投資してきた投資家としては、ちょっとのんびりし過ぎているように思いますw。
電子契約サービスのように急速に立ち上がってきたビジネスの企業に投資する場合、近い将来、40%ルールを超えてきそうな企業を見つけることがポイントです。記事では株価低迷云々と書かれていますが、小型株かつ浮動株が非常に少ない弁護士ドットコムのような株は株価は上にも下にも大きくブレるのは当たり前。去年は、電子契約、電子署名が何かと話題になって個人が群がっていた印象があり、株価が加熱したのも無理はありません。地合いが悪くなり、「電子契約ビジネスで、すぐに利益は爆増」と勘違いしていた個人の投げとかが増えて、株価が下落したというだけのことだと思います。
電子契約サービスは、まだ本格的に始まってすらいないのに、日経は以前「将来的に競争激化、レッドオーシャン化の懸念がある」なんて記事を出してたし、今回の40%ルールがどうのこうのなんて、ただの後講釈でしょうね。最近の日経は、短期勝負の人が食いつきそうな薄っぺらな記事が増えていて、ちょっと残念ですw。
成長企業に中長期スタンスの投資を行う投資家は、株価が倍以上になることに期待して投資しているわけで、たとえ1万円で買った株が8千円に急落しても、ビジネスの本質や市場でのポジションに変調をきたしていない限り、保有する(場合によっては買い増す)のが基本でしょう。
短期勝負で高値で売り抜け損ねた人はお気の毒ですが、そうした売買は投資ではなくギャンブルに近い行為、というのが自分の考えです。ギャンブルを全面否定しているわけではありませんが、そこは切り分けないと投資判断を誤ります。
短期勝負で儲けた人は知ってますが、短期勝負を繰り返して資産を十分に増やせた人は、少なくとも自分の知り合いにはいませんw。