電子契約、電子署名サービスにはクラウドサインを始め、Docusign、みんなの電子署名、NINJASIGN、GMOサイン等々、多くのサービスが存在します。
現在はクラウドサインがトップシェアであると言われていますが、立会人型電子署名の機能面だけを考えると、その差別化は困難なため、将来的に競争激化、価格競争が起きるのではないかと懸念する声もあります。
結論から言うと、企業が電子契約を開始するには、システム導入以外に業務フローの整理や社内規程の改定などが必須であり、大企業ではそういったノウハウの提供も含めて総合的に判断するので「機能面の差別化が困難だから価格競争が起きる」と考えるのはちょっと安直だと思います。
電子契約の導入は、単純なシステム増強で済む話ではないので、社内のシステム部門や出入りのシステム会社から勧めれたものを導入しておけばよいといった案件とは次元が違います。総務部門や法務部門が関与せず、システム部門が安直に判断して導入サービスを決めてしまうと、使う場面で混乱するリスクが高くなります。
さて、電子契約サービスで先行しているアメリカでは、最大手はDocusignで60~70%程度のシェアと言われています。電子署名のシェアの概念はかなり曖昧(送信件数や導入企業数の多寡だけで判断できるビジネスではないため)ですが、最新データではトータル顧客数82万、従業員10人以上の顧客11.3万、年間契約額30万ドル以上の顧客が542社と、実数で他社を大きく引き離している模様です。多くの大手企業がDocusignを採用しており、Google、Microsoft、Salesforce、SAP等、名だたる大手IT企業はDocusignの顧客とのことです。
ちなみにDocusignは、従業員10人以上の顧客11.3万からの売上が総売上の87%を占めているとのこと。これは電子契約サービスは、ある程度の規模の会社が採用することが売上増かつ安定的な売上のカギ、ということ。大手企業の採用を増やしているクラウドサインの戦略は、理に適っているわけです。
アメリカには他にもAdobeSignやHelloSignなど、数十以上の電子契約サービスが存在しており、その中でDocusignがトップですが、熾烈な価格競争を勝ち抜いてDocusignがトップシェアをとったというわけではありません。また、Docusignの牙城を崩すための価格競争とかも起きていません。
電子契約サービスで派手な競争が起きないのは、BtoB中心のビジネスであって低価格化や広告宣伝だけで顧客を増やせるようなビジネスでないことを各社理解しているから、と考えます。逆に顧客企業も、電子契約サービスはトップシェアのサービスに寄せなくても、自社の使いやすいサービスを是々非々で選んで導入すればよいことを理解しているように思います。現代はSNSとかで評判が調査できるし、「うちがナンバーワン」といくら喧伝しても、ネット検索でほとんど導入企業が出てこないようなサービスだと、却って怪しまれて信用をなくすことにもなりかねない世の中ですしねw。
Docusignの優位性は、グループウェア等の企業のシステムとの連携が容易なことに加え、特定のネット企業グループに属さない中立性、健全性が強みと言われていますが、このことはクラウドサインの強み、競争優位性と重なる部分もあります。
クラウドサインの競争優位性としてはまず、日本の企業が使うメジャーな顧客管理システムやグループウェア等とのシステム連携が容易で、既存のシステムへに迅速な導入が可能なことが挙げられます。これはDocusignと同様の特長です。
ただし、電子契約サービスの導入は、社内システムを整備すればうまく切り替えられるような単純なものではありません。
電子契約サービスの導入には、業務フローの抜本的な見直しや社内規程(契約管理規程とか業務分掌規程等)の改定、社員への研修など、多くの付随的な業務が発生します。クラウドサインには電子契約サービス導入のための知見が蓄積されており、企業に適切なアドバイスをできることが大きな強みとなっています。
例えば日本では、上司が部下に通常の決裁で使うハンコを預けていたり、緊急時には総務部に預けてある鍵を借りて社長の机の引き出しを開け、ハンコを出して押印したりする会社も実際に存在するのが実情。ある意味ハンコは「便利な存在」ですが、いきなりシステムが電子署名に置き換わって、こうした実務的にやむを得ないと目を瞑ってきた無権代理的な行為が突然できなくなれば、決裁実務が混乱するだけです。どのように移行させるのか、すでに電子署名を行っている会社の実務的ノウハウや経験が貴重、ということです。この点は、クラウドサインに一日の長があります。
また現在、電子署名、電子契約の利用促進を図るため、法律改正や法解釈の変更が頻繁に起きています。導入企業は、自社の電子契約の仕組みに法的な問題はないのか、将来的に問題となる可能性を孕んでいないのか、といった点が気になるところですが、法律が流動的ななかでは自社の顧問弁護士に照会しても的確な回答が得られないことも考えられます。
クラウドサインの運営母体は弁護士ドットコムであり、法改正等の情報収集に長けていて「サインのリデザイン」などの自社サイトに電子署名にかかわる法律の解説記事を出すなど、情報発信を積極的に行っていることも、導入企業から信頼されるポイントです。
Docusignも世界的に使われている安心感はありますが、もともとアメリカのサービスですし、日本の法律にかかる情報提供等のサービスが未知数なところもあります。利用料の支払いがドル建てという点だけみても、ドメスティックな日本企業は一抹の不安を覚えるかもしれませんw。
クラウドサインは、契約ファイルから、契約先企業名、契約開始日、終了日、取引金額等々を自動的に判別して管理する機能「クラウドサインAI」など、電子契約にかかる管理機能を有しています。Docusignはアメリカでは契約全般を管理する、契約ライフサイクル管理のシステム"Agreement Cloud"の販売に力を入れていて、クラウドサインよりはるかに充実した機能を持っています。しかしながら、アメリカと日本ではそもそも言語が違うし、契約の作り方や構成がまったく違うので、契約内容を自動的に判別するような機能があったとしても、日本語版に簡単に移植できるのかは、ちょっと疑問です。
クラウドサインはDocusign同様、大手ネット企業のグループ企業ではない弁護士ドットコムが運営している安心感があります。クラウドサインの責任者の橘さんは弁護士資格を有していますし、中立性、健全性に関する法的リスクは低いのではと感じる人も多そうです。
立会人型電子署名の場合、認証局と呼ばれる企業に電子証明書を発行してもらいますが、GMOサインの場合、もともと電子証明書を発行する立場の認証局であり、認証局を運営している企業が電子署名サービスも行うかたちです。
自社の電子署名サービスには自社の認証局は使えない(自己署名証明書の禁止)ので、他社の認証局を使っているとは思いますが、認証局自ら行う電子署名サービスは、健全性という点で海外の企業等からネガティブな評価を受けるリスクはあるように思います。(無論、GMOサインが自己署名証明、いわゆるオレオレ証明みたいなことを行うとは思いませんが。)
電子契約はようやく端緒についたばかり。未だに導入を検討している段階の大企業も数多く存在するし、政府機関や地方公共団体、学校などはまだほとんど手つかずの状況ですから、電子契約市場はこれから何十倍にも拡大していくと思われます。
電子契約サービスは、高いシェアを持つ会社の1社総取りになるようなビジネスではないので、クラウドサインが将来的にも安泰というわけではありませんが、それでもクラウドサインは上述したような競争優位性を持っていますから、さほど容易にクラウドサインを脅かすような企業は出てこないと思います。
導入検討企業の担当がクラウドサインにしておけば安心と感じるのは、上述したような理由からで、電子契約サービスに「1社総取り」的なことは起きないことを理解していれば、現在の導入企業数の多さは、自社の導入決定にはあまり重要な要素ではないことはわかります。日本ではまだ普及期ですから、クラウドサインからみても確かに導入企業数の多さや送信件数の多さは重要とは思いますが。
実際の売上につながるのは大きな企業や自治体ですから、こうした大口顧客にいかに評価されるかが最も重要なポイント。大口顧客をどれだけ増やせるかがこの事業の成功のカギですから。
