駄洒落的には、
「マブしい世界」が
待っているか否か?
どうかな~、
極めて懐疑的。
朝日新聞より。
認知症の根本治療薬
はいつ完成するのか
ときどき、認知症患者さんのご家族からこんな質問を受けます。「先生、なにか認知症の根本的な治療薬はないのでしょうか?」
以前もお伝えしたように、残念ながらまだ根本的といえる治療薬はありません。ただ、徐々に明るい兆しも見え始めています。
今回は、治療薬の標的として研究者たちが最も注目している「βアミロイド」という物質についてもう少し説明したいと思います。
●認知機能の低下を遅らせた
今年の夏、米国ワシントンDCで開かれたアルツハイマー病の国際学会において、ある臨床試験の結果が発表されました。
βアミロイドを攻撃するたんぱく質(抗体医薬)を使うことで、「軽度アルツハイマー病患者の認知機能が低下する速度を、抗体を使わない場合と比べて約30%遅らせることができた」とする内容でした。
それを受けて、世界的に著名な科学誌Nature誌にも「新薬の開発進む」としてこの話題が取り上げられました。
前回も触れましたが、βアミロイドはアルツハイマー病を起こす原因物質ではないかと考えられています。
そして、これをやっつけるための抗体治療薬の開発が世界中で進められてきました。
1999年の夏、βアミロイドそのものをワクチンのように打つことで、マウスの脳の老人斑が消えることがNature誌に報告されました。
根本的な治療につながる可能性を示す最初の成果で、我々も非常に驚きました。さらに驚いたことに、この抗体を使ったヒトのアルツハイマー病への臨床試験がすぐに始まりました。
残念ながら、最初のワクチン療法は髄膜脳炎という副作用が一部の患者におこり、臨床研究はいったん頓挫しました。
しかし、その後も開発者たちの粘り強い研究により、「βアミロイドそのもの」のかわりに「βアミロイドに対する抗体」を用いたより安全な治療法が開発され、15年後の今も綿々とその改良・改善が続いています。
ではなぜ、研究者たちはそれほどまでにβアミロイドにこだわるのでしょうか?
説明するためには「家族性」と「孤発性」のアルツハイマー病についてお話ししないといけません。
家族性のアルツハイマー病は遺伝します。親から「ある変異」を持った遺伝子を受け継ぐと必ず発症します。
家族性アルツハイマー病は患者全体の3~5%以下で、それ以外のほとんどは遺伝と直接関係なく起こる孤発性のアルツハイマー病です。
家族性アルツハイマー病の原因遺伝子のひとつは「アミロイド前駆体たんぱく質(Amyloid Precursor Protein, APP)」という遺伝子です。この遺伝子に変異があると、βアミロイドが脳でたくさんつくられてしまい、老人斑として蓄積しやすいのです。この発見は1991年に発表されました。
もう一つの家族性アルツハイマー病の原因遺伝子は「プレセニリン」と呼ばれます。
1995年、カナダ・トロント大学のセント・ジョージ・ヒスロップ博士らの研究成果により、14番染色体と1番染色体に原因遺伝子があることがわかり、それぞれ「プレセニリン1」「プレセニリン2」と名付けられました[5-7]。
さらなる研究の結果、このプレセニリンというたんぱく質は、アミロイド前駆体たんぱくからβアミロイドを切り出す酵素(=はさみ)であることがわかりました。
プレセニリンの遺伝子に変異があると、この酵素の働きがおかしくなり、脳の中でβアミロイドがつくられるのが促進されてしまうのです。
●発症リスクが上がる遺伝子タイプ
一方の孤発性アルツハイマー病ですが、実はこちらも遺伝子が大きく関係しています。
親から直接遺伝して必ず発病するわけではなくても、あるタイプをもっているとアルツハイマー病になりやすくなる遺伝子があります。
これが「APOE」("アポイー"と発音します)という遺伝子で、「APOEε(イプシロン)4」というタイプだとふつうの人よりも3~10倍程度もアルツハイマー病になりやすくなります。
なぜ発病しやすいのかというと、
APOEε4があるとやはりβアミロイドがたまりやすくなるためです。
すなわち、家族性においても孤発性においても、たくさんのβアミロイドが集まって老人斑がたまりやすい特徴は共通していることになります(図1)。
写真・図版図.
家族性および孤発性アルツハイマー病はともに老人斑(βアミロイド)がたまりやすい
従って、βアミロイドを抗体によって取り除くことができれば、家族性にせよ弧発性にせよ、アルツハイマー病の原因そのものに働きかける効果的な治療法につながる。
研究者たちにはそんな期待があります。
だからこそ、βアミロイドにこだわって治療薬の開発に邁進しているのです。
では、この手法を用いた治療薬はいつ完成するのでしょうか? 確実な予測はもちろん不可能ですが、これまでの研究の進み具合や、現在いくつかの臨床試験が進んでいることなどから、早ければ5年後、それが無理でも10年後くらいには何とかなるのでは? と考えています。
なお、糖尿病においては、これほどまでに病気の発症と直接的に関係していると思われるたんぱく質や遺伝子は知られていません。
このあたりからも、
糖尿病と認知症は共通している面が多いものの、同一ではないことが言えると思います。
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(文献)
1.Reardon, S., Antibody drugs for Alzheimer's show glimmers of promise. Nature, 2015. 523(7562): p. 509-10.
2.Schenk, D., et al., Immunization with amyloid-beta attenuates Alzheimer-disease-like pathology in the PDAPP mouse. Nature, 1999. 400(6740): p. 173-7.
3.Orgogozo, J.M., et al., Subacute meningoencephalitis in a subset of patients with AD after Abeta42 immunization. Neurology, 2003. 61(1): p. 46-54.
4.Goate, A., et al., Segregation of a missense mutation in the amyloid precursor protein gene with familial Alzheimer's disease. Nature, 1991. 349(6311): p. 704-6.
5.Sherrington, R., et al., Cloning of a gene bearing missense mutations in early-onset familial Alzheimer's disease. Nature, 1995. 375(6534): p. 754-60.
6.Rogaev, E.I., et al., Familial Alzheimer's disease in kindreds with missense mutations in a gene on chromosome 1 related to the Alzheimer's disease type 3 gene. Nature, 1995. 376(6543): p. 775-8.
7.Levy-Lahad, E., et al., Candidate gene for the chromosome 1 familial Alzheimer's disease locus. Science, 1995. 269(5226): p. 973-7.
8.Strittmatter, W.J., et al., Apolipoprotein E: high-avidity binding to beta-amyloid and increased frequency of type 4 allele in late-onset familial Alzheimer disease. Proc Natl Acad Sci U S A, 1993. 90(5): p. 1977-81.
9.ClinicalTrials.gov