以下は「埼玉元義父殺害事件」の公判における被告人質問でのやり取りである。

 

石崎「腕と足はフリーザーに2~3日入れて、その後は足の肉赤みの部分をムチの素と寄せ鍋の素を入れて、食べることにしました」

弁護人「なぜですか?」

石崎「征服感です! とにかく、社会悪の人間を食ってやろうと一心不乱でした」

裁判官「肉はどのくらい食べたのか?」

石崎「一般的なステーキ肉、200~300グラムを3~4枚ほどです」 

 

このように、石崎は法廷でしきりにTさんに対し、『社会悪』と悪態を繰り返してきた。しかしながら、周囲の人たちからは逆に石崎自身がそう思われていたようである。公判のなかで読み上げられた関係者の調書から、それをうかがい知ることができる。石崎の元妻は調書なかで「石崎のせいで心身共にボロボロでした。もう二度と石崎とは関わりたくありません」と元夫への拒絶感を見せながら、石崎との結婚生活から離婚に至るまでの壮絶な経緯を明かしている。

 

「石崎との結婚生活は地獄でした。すぐにだらしない面や暴力的な面を見せました。定職に就かず、生活費も入れず、光熱費を払えず止められた。私が身重でも家にろくに帰らず、1000円などを置いて数日戻らないこともありました。食べるものに困り、妊娠中は貧血で倒れたこともあります。石崎はいつも酔っては切れていました。首を絞められました。首を絞めるとき『生きてるのが嫌になったなら、俺がお前を(殺して)救ってやる』と暴力を正当化してきました」

 

子供と暮らしているアパートに浮気相手を連れ込んで、隣の部屋で性行為をする。普通の家庭で考えられることではない、本能をむき出しにした男だった。「離婚したのは当時、私と子供と石崎とその浮気相手の4人で住んでいたアパートに、浮気相手の夫が乗り込んできたことがきっかけでした。その人に事情を話すと『あんた、それでいいのか』と言われて、私も我に返り、浮気相手の夫とふたりで役所に離婚届をもらいに行き、それぞれ離婚届を突きつけました」

 

また、石崎は普段からことあるごとに「俺は山口組の直系の組のNo.2秘書の知り合いだ」や、「九州にいる時、ストーカー被害に遭っていた女の男に、天ぷら油をかけた。だから九州には行けない」などと、怪しげな武勇伝を吹聴しており、元妻はそれを信じて石崎を恐れていたとようだ。「結婚と離婚でこれまでにないほどボロボロになり、離婚後は子供を石崎が引き取りました。その後も首を絞められた恐怖などを思い出し、心が沈んでいました」(元妻の調書)

 

「石崎は私の財布からカネを抜き取ったりもしていて、よく思っていなかった。夫がいなくなった後、しきりに石崎が将来のことを語るようになったり、月に2~3万円置いていったりするようになった。ところが、警察に行方不明届を出して以降、突然石崎の態度が変わった。『俺がこんなにしてるのに、誰がお前の面倒見るんだ』、『お前は誰とでも寝る女なんだろ。やってくれるんだろ』などと言い出したり、酔って自宅に来て大声で怒鳴ったりしていた」(Tさんの妻の調書)

 

石崎の娘が暮らす施設で、娘との面会に立ち会ったことで暴行や脅迫の被害に遭った職員は、もともと石崎の娘が面会に恐怖していたことも明かした。「石崎の子供から学校の担任に『父親から叩かれたり、つねられたりされる』と被害報告があり、施設に入所した。当時から現在に至るまで、子供は石崎のことを怖がっている。両親が離婚して石崎とのふたり暮らしになってからは特に叩かれたり、お風呂で両足を捕まれ、逆さ吊りにされ湯船に沈められたりしていた」

 

「通常、施設での親族との面会は人目につかない和室で親子ふたりだけで行われる。しかし、石崎の子供は石崎とふたりだけになることを極端に怖がっていた。そのため、石崎と子供との面会は他の職員もいる職員室で、さらに職員の立ち会いのもと行われていた。過去にも例がなかった」つまり、それだけ石崎が豹変すると何をするか分からないと職員らも警戒していたことになる。「普段は低姿勢だが、意に反すると威圧的になるところがあった」(施設の職員の調書)

 

こうして周囲の人々の人生を狂わせ、恐れさせていた石崎に対して検察は「殺人の犯行は計画的であり、Tさん殺害は強い殺意に基づく犯行。遺体を『煮込んで食べた』という話は真実だとしても、強い憎しみを抱いていたTさんを征服しようとしており、異常だとはいえない」などとして懲役23年を求刑した。また、検察側は石崎が長々と述べていたTさんの『不正行為』についても「行為を見ていながら仕事を辞めていない」ことなどから、信憑性は薄いと主張した。

 

判決では「強固な殺意に基づく犯行」として、石崎に懲役22年が言い渡された。石崎は本当に「Tさんが不正行為をしている」と思い込んで殺意を抱いたのか。これについて裁判所は「Tさんの会社を思い通りに動かしたいという意図」があったと認定した。結局、私利私欲から殺害を実行したのだ。だが、公判で石崎はTさんに非があったかのような証言に終始した。最終意見陳述で「遺族や被害者に申し訳ない」と石崎は述べたが、信じることなどできないだろう。

 

【参照:文春オンライン】