メールは先輩からだった。


 

  『さっきは楽しかったよありがとう音譜


  あしたの朝一緒に学校行かないはてなマーク



   (女子みたい・・・)


   断る理由もなかったから、歌織はしょうがなく返信を打った。



  『いいですよ(・∀・)


  何時に家出ますか?』



   1分後にすぐ返事がきた。



  『6:45の電車で行きたいから

  6:30に家出たいんだけど、大丈夫?』



   歌織は朝は強い方だから余裕である。



  『了解しました(`・ω・´)ゞ』



   歌織は、自分のベッドの上に顔を伏せた。


   (明日どんな髪型にしよっかな・・)


   「あ」


   歌織は、あることに気がついた。


   いつもこの時間帯に来る愛華のメールが1つもきてないのだ。


   (体調でも悪いのかな?)


   気にしながらもメールは打たなかった。


   歌織はうすうす気づいていたのだ。



      愛華に避けられている



   しかし、自分では認めたくはなかった。認めたくないというより、


   親友を失ってしまうことが怖かったのかもしれない。


   (・・・まさかね。愛華はそんな子じゃないし。)


   と、自分に言い聞かせていた。


   

   

    翌日

   

   予定通り、早めに先輩と家を出た。


   「ふわぁぁ・・・やっぱ眠いなぁ」


   「・・・・・・・・」


   「毎日早起きとかメンドくせー」


   「・・・・・・・・」


   先輩の言葉は耳には入らなかった。


   (先輩と行って 愛華に嫌われないかな・・・)


   そんなことばかり考えていた。


   「歌織ちゃん?」


   「・・・・・・・・」


   「歌織ちゃーん?」


   「おい!」


   先輩がいきなり腕を引いた。


   「わっ・・・」


   目の前には電柱の黄と黒の模様が見えていた。


   「え」


   「あぶねーだろ!ちゃんと前見ろよ」


   「すいません・・・。ありがとうございます。」


   「どうしたんだよ」


   「えっと・・・・愛華のこと考えてて」


   「なんで?」


   「昨日いつもの時間帯にメールが来なかったので、体調でも悪いのかなと」


   嘘。本当はそんなこと気にしているわけではない。


   でも、歌織は本当のことを話せなかった。


   「・・・・・・別にそんなに気にしなくてもいいんじゃない?もしかしたら

   なにか用事があっただけかもしれねーじゃん?」


   「・・・・・・・・」


   「それに今、歌織ちゃんがそんなに気にしたって何もできねーだろ?」


   「・・・そうですね。」


   「そうそう」


   先輩はそう言っていつもの笑顔を見せてくれた。


   その笑顔を見るたびに複雑な気持ちになる。


   (話したいけど・・・心配されたくない・・・・・)


   歌織は気にしていないフリをして、その話からそらした。


   そして、複雑な気持ちのまま、駅に着いた。


   「おっちょうどいい時間だな」


   「あ、佐藤ーーー!!」


   「おお!!小川じゃん!おまえも朝連かよ」


   小川とは、佐藤先輩と同級生の小川先輩。


   先輩とは結構仲がいいらしい。


   「え、女子じゃん!なになに彼女?」


   「ちげーし、友達だし。な?」


   歌織に話を振ってきた。


   歌織はうなずくことしかできなかった。


   「なんだよ、つまんねーなー」


   「つまんねーってなんだよ」


   (仲いいな・・・)


   わたしの知らない先輩の顔を見ると、なんだか寂しくなる。


   (わたしって全然先輩のこと知らないんだな・・・先輩からしたら


   わたしは、この世界にいる友達の一人なんだろうな・・・・・)


   ――えーまもなく、○○方面への電車がまいります。


      黄色い線の内側へお下がりください。――


   アナウンスの声とともに近くの踏切の音が聞こえてきた。


   そのうち、電車がホームにすべりこんできた。

  

   「よし、乗るか!!」


   小川先輩が乗り込もうとしたのでわたしも乗ろうとした。


   その時、後ろから腕をとられた。

 

   「わりぃ、小川。おれ朝連休むわ」


   「おまえはいいけど、その子はいいのかよ」


   「大丈夫。この子はおれに付き合ってくれてるだけだから」


   「ふーん・・・了解。じゃ」


   「おぅ。すまねーな」


   小川先輩を乗せた電車はホームから出て行った。

 

   「よかったんですか?」


   「ん?何が?」


   「え、だって電車・・行きましたけど」


   「あぁ うん いいの、いいの。てゆーか歌織ちゃんのほうがだめじゃん。」


   「へ?」


   「・・・・・ああ・・おれのほうか・・・・・・まぁ、気長に次の電車を待ちますか!」


   「・・・・・・・・」


   多分分かっていたのだ。歌織が嘘をついていることに。


   2人はホームのベンチに腰掛け、無言で電車を待っていた。








   「ありがとうございました。わたしはこれで・・・・」


   「おくってくよ?」


   「いえ結構です。では」


   「ばいばい」


   「さよなら」


   もうこのあたりはすっかり暗くなっていて、街灯がよく目立つ。


   (この時間は人通りが少ないんだよなぁ・・・)


   歌織の通学路は住宅街で、街灯も少なく、人もあまり通らないのだ。


   

   ザッザッザッ


   ザッ・・・・ザザッ



   (え・・・)


   歌織の足音のほかにもう1人の足音が聞こえる。


   (だれ?)


   不安になりながら後ろを振り向くと、うっすらと人影が見える。


   (少し速く歩こう)


   

   ザザザッザザザッ


   ザザザッザザザッ


   

   (え・・・・)



   タッタッタッタッ


   ダッダッダッダッ 



   (つけられてる!!)


   どんどん足音が近づいてくる。



   タタタタタタ


   ダダダッダ


   

   もう足音は後ろにせまってきている。すると腕をつかまれた。


   (ヤダッ!!)


   そう思ってカバンをふりまわした。


   「いって!!」


   「やだやだ!!こないで!!」


   「ちょ、おれだって」


   「やだ や・・・え?せ、先輩!?びっくりしたぁ・・・・・・・。もう、なんで


   こんなところにいるんですか?」


   「追いかけてきた。」


   「え、じゃあさっきのも先輩の陰だったのかな?」


   「いや、たぶんあのオジサンだよ。」


   「そうだったんですか・・・。」


   「あいつ、駅からかおりちゃんのことつけてたから、これは


   あぶないなぁと思って☆」


   「・・・・・・・ありがとうございます」


   「じゃ、家まで送ってくよ。」


   「え、いやもうすぐそこですから」


   「またつけられて涙目になったらダメだろ?」


   「涙目!!?・・・・・・おねがいします。」


   「じゃ、行こっか。」


   (駅からって・・・気付かなかった。)


   「先輩って家はこの辺なんですか?」


   「うん。おれもこの住宅街に住んでるよ」


   「あ、そうなんですか・・」


   「じゃ、朝一緒に行く?あ、でもおれ朝練で早いんだった!!」


   「あ、わたしも朝は早いんですよ。朝練あるんで」


   「え、強制?」


   「いえ、自主的にです。」


   「そうなんだ~えらいね」


   「そんなことないですよ!先輩も自主練でしょ!!」


   「あは☆知ってたの?」


   「そりゃー見えますから・・・」


   「見えてたんじゃなくて、見てたの間違いじゃないの~?」


   「何ふざけたことを言ってるんですか・・・あ、わたしの家、こっちの道

  

   なので」


   「あ、おれもこっちだから大丈夫」


   「ホントですか・・・?」


   「ホントだって!!」


   「あ、見えた。」


   「え、あれ?」


   「はい。そうですけど・・・」


   「おれん家あそこなんだけど」


   先輩が指さした家はわたしの家の目の前だった。庭は花が咲いていて


   すごくきれい。


   「え!!目の前じゃないですか!!」


   「うわぁ すごい偶然だね」


   「知らなかった。」


   「おれも・・・朝は大体同じ時間に出てるはずなのに」


   「てか先輩の家大きっ!!」


   「そう?」


   先輩の家はわたしの家の1.5倍はある。


   「なんかやだなぁ」


   「なんで?」


   「いえ、別に・・・じゃ、失礼します」


   「あ、待って!!」


   わたしがドアを開けようとしたときに先輩が叫んだ。


   「なんですか?」


   「メアド交換して」


   「・・・・・・はい?」


   「だから、メアド交換してって言ってるの」


   「え、でも・・・先輩とはそんなに親しくないし・・・」


   「今日一緒にケーキ食べたじゃん、一緒に帰ったじゃん


   助けてあげたじゃん。」


   「助けていただいたのは感謝しますけど、一緒に帰ったのだって


   1回きりだし・・・」


   「いいじゃん。もうおれら友達だろ?」


   「友達・・・」


   「そう!!だから交換して」


   納得いかない心には気づかず、「友達なら・・・」とメアドを交換した。


   「よし!!じゃあまた明日」


   「さよなら・・・」


   先輩が家に入ったのを見たあと、歌織も家のドアを開け、部屋に入り


   ベッドにうずくまった。


   「はぁ・・・・友達・・か」


   そう思っているとカバンの中でメールの着信音が鳴った。







    歌織がオレンジジュースを入れていると隣に実果がやってきた。


   「あ、歌織ちゃんだ偶然だねぇ」


   「え゛、実果?!なんでいるの!?」


   「なんでって、今日安いから食べに来たんだよ。歌織ちゃんは


   ちがうの?」


   「え?あ、うん!そう!!そうなの。わたしよくここ来るからさ。あはは」

   

   「やっぱり?歌織ちゃん甘いもの好きだもんねぇ」


   「うん!アハハハハ・・・ハハ」


   「あ、歌織ちゃんオレンジジュースなんだ!じゃあうちもオレンジにしよー♪」


   「あ、先行くね!」


   「うん、ばいばーい」


   席に戻ると先輩は座っていなかった。


   (トイレにでも行ったのかな・・・)


   歌織が座って待っていると先輩が戻ってきた。


   その手にはケーキがあった。


   「あっ!!さっきのタルトじゃないですか!!!また食べるんですか?」


   「いや、これは歌織ちゃんに」


   「え!!いいんですか?!いただきます♪」


   先輩は遠慮なくフォークで食べようとする歌織を見てほほえんだ。


   「あ、すみません・・・」


   「いいんだよ。食べて食べて」


   そう言われると止まらない歌織は大きな口でタルトを食べた。


   「やばい!!激ウマっ!!」


   「ハハッ 激ウマか」


   「はいっ。めっちゃおいしいです♪またこよう!!」

   

   「次は歌織ちゃんがさそってよ」


   「いやです。1人で来ます。」


   「はっきり言うなぁ」


   その会話を実果は背中越しに聞いていた。


   (なんなの、一体。歌織ちゃんは佐藤先輩のこと好きじゃないんじゃ


   なかったの?)


   おもわず手に力が入った。


   「あ、歌織ちゃん。もう電車の時間だから行こうか。」


   「あ、はい。」


   先輩と歌織が店を出た後、実果はそのまま座ってガラスごしに


   2人を見ていた。


   「このまま行くとちょうどいい時間になるね。」

  

   「はい。でもこの時間だと混んでるかも」


   「う~ん・・・・・・・。通勤ラッシュってやつ?」


   「はあ・・・。すいてますように。」


   そうなささやかな願いは叶わず、学生、社会人で電車の中は


   ごった返していた。


   「最悪だ・・・」


   「でもポールあたりがちょうどすいてる・・・行こう」


   最初はまだマシなほうだったが、次の駅で学生が多く


   乗り込んできたため、すごくきつかった。


   「歌織ちゃん、こっち。」


   「え・・・」


   先輩はわたしの手を引いてポールのところまで移動してくれた。


   「うわぁ 混んでるね」


   周りの人はみんな他人に押しつぶされそうだった。しかし、歌織は


   全然苦しくなかった。なぜなら先輩が守ってくれていたからだ。


   「ありがとうございます」


   「ん?なにが?」


   「なんでもなくないですけど、なんでもないです。」


   「どういう意味だよ、それ。」


   先輩はまたあの笑顔をみせてくれた。


   歌織たちが降りる駅の2つ前の駅のアナウンスがながれた。


   「もうすぐだね。」


   人に押しつぶされそうになっても平然とした顔でわたしを守って


   くれる先輩。でも時折つらそうな顔を見せる。そのたびにキュンと


   する。


   (ダメだなぁ、わたし)


   そう思いながら2人を載せた電車は、ゆっくりと駅のホームに


   滑り込んだ。