歌織がオレンジジュースを入れていると隣に実果がやってきた。
「あ、歌織ちゃんだ偶然だねぇ」
「え゛、実果?!なんでいるの!?」
「なんでって、今日安いから食べに来たんだよ。歌織ちゃんは
ちがうの?」
「え?あ、うん!そう!!そうなの。わたしよくここ来るからさ。あはは」
「やっぱり?歌織ちゃん甘いもの好きだもんねぇ」
「うん!アハハハハ・・・ハハ」
「あ、歌織ちゃんオレンジジュースなんだ!じゃあうちもオレンジにしよー♪」
「あ、先行くね!」
「うん、ばいばーい」
席に戻ると先輩は座っていなかった。
(トイレにでも行ったのかな・・・)
歌織が座って待っていると先輩が戻ってきた。
その手にはケーキがあった。
「あっ!!さっきのタルトじゃないですか!!!また食べるんですか?」
「いや、これは歌織ちゃんに」
「え!!いいんですか?!いただきます♪」
先輩は遠慮なくフォークで食べようとする歌織を見てほほえんだ。
「あ、すみません・・・」
「いいんだよ。食べて食べて」
そう言われると止まらない歌織は大きな口でタルトを食べた。
「やばい!!激ウマっ!!」
「ハハッ 激ウマか」
「はいっ。めっちゃおいしいです♪またこよう!!」
「次は歌織ちゃんがさそってよ」
「いやです。1人で来ます。」
「はっきり言うなぁ」
その会話を実果は背中越しに聞いていた。
(なんなの、一体。歌織ちゃんは佐藤先輩のこと好きじゃないんじゃ
なかったの?)
おもわず手に力が入った。
「あ、歌織ちゃん。もう電車の時間だから行こうか。」
「あ、はい。」
先輩と歌織が店を出た後、実果はそのまま座ってガラスごしに
2人を見ていた。
「このまま行くとちょうどいい時間になるね。」
「はい。でもこの時間だと混んでるかも」
「う~ん・・・・・・・。通勤ラッシュってやつ?」
「はあ・・・。すいてますように。」
そうなささやかな願いは叶わず、学生、社会人で電車の中は
ごった返していた。
「最悪だ・・・」
「でもポールあたりがちょうどすいてる・・・行こう」
最初はまだマシなほうだったが、次の駅で学生が多く
乗り込んできたため、すごくきつかった。
「歌織ちゃん、こっち。」
「え・・・」
先輩はわたしの手を引いてポールのところまで移動してくれた。
「うわぁ 混んでるね」
周りの人はみんな他人に押しつぶされそうだった。しかし、歌織は
全然苦しくなかった。なぜなら先輩が守ってくれていたからだ。
「ありがとうございます」
「ん?なにが?」
「なんでもなくないですけど、なんでもないです。」
「どういう意味だよ、それ。」
先輩はまたあの笑顔をみせてくれた。
歌織たちが降りる駅の2つ前の駅のアナウンスがながれた。
「もうすぐだね。」
人に押しつぶされそうになっても平然とした顔でわたしを守って
くれる先輩。でも時折つらそうな顔を見せる。そのたびにキュンと
する。
(ダメだなぁ、わたし)
そう思いながら2人を載せた電車は、ゆっくりと駅のホームに
滑り込んだ。