『天国と地獄、あるいは至福と奈落 ネーデルラント美術の光と闇』(2021,ありな書房)の第5章動物たちの楽園 7 コラボレーションが生み出すハーモニー

いよいよルーベンスが描いたアダムとエヴァを見よう。

The garden of Eden with the fall of man. detail     Peter Paul Rubens  (1577–1640)
Jan Brueghel the Elder  (1568–1625)Figures by Rubens, landscape and animals by Brueghel (I)   circa 1615 oil on panel 74.3 cm ×114.7 cm Mauritshuis  

 

 本を読む前に自分で思った事を書く。

この二人の描写(※ルーベンスの担当)でまず思うのは,内側から輝くようなエヴァとアダムの肌の色。銅板に描いた絵はこのように明るいことがあるがこれはパネルに描いている。どういうテクニックでこんなにも光り輝く肌が描けるのだろうか?

 エヴァの屈託のない微笑み。右手でアダムにリンゴを手渡し,左手はリンゴの方向を見ることも無く,すっと左手を真上に伸ばし,そこにリンゴをある事を確信している風情。罪の意識も感じていないだろうな。まっすぐアダムの方へ顔を向け,リンゴを食べよと促す。左足をやや曲げて立ち上半身もややひねっている。タイトルをみなければ美の女神と言ってもおかしくない。その姿は,確信犯のエヴァ! アダムはおずおずとしかし抵抗もせず手渡されるがままに受け取ってしまう。アダムは大きな岩に腰をおろして、両膝は軽く曲げられている。デューラーの時は二人とも立っていたのだが,ラファエッロのあたりからアダムが座るのは何か意味があるのだろうか? 視線はエヴァの方へまっすぐ注がれている。天を指す身振りも全くなく,これは二人の間で完結したことのようだ。

 エヴァの左手を上げ右手でアダムにりんごを渡すスタイルに一番近いのは、ヒューホ・ファン・デル・フース。ヒューホ以前にもモデルとなる画像があったのだろう。

ティツィアーノとの関係も。

ティツィアーノの模写もあったが,これは1629年の作品で,ヤンとの共作よりも後である。

むしろミケランジェロからの発想?

しかしこれはかなり上体を捻っている。蛇からりんごを与えられているし,アダムも蛇に体が向かっていて,二人が視線を合わすこともない。

真っ直ぐアダムとエヴァが向かい合うということが,ルーベンスのユニークなところ。蛇は真ん中にいるけれど,二人の間の情感を強く感じさせる。ルーベンス作品の根底にいつも流れている生への肯定をここでも感じる。