悶々としていると、不意に懐かしい気配を感じた。
(バリア?!)
心の中で呼びかけると、どんどん気配が近づいてくる。
(あれ?もう夜?)
あくび混じりのその声は紛れもないバリアのものだった。
(もしかして今までずっと寝てたの?)
(あぁ、久しぶりに外にでて疲れたからさぁ。思い切り寝たんだけど、さすがに寝すぎたわ)
心配して損した。
ただ寝ていただけじゃないか。
やっぱり僕が意識を失う前のことは気にするほどのことではないみたいだ。
(そういえばキルアは?)
意識を集中してみるが、バリアの気配しかしない。
(キルアはあんたが起きるまで寝てなかったんだ。だからあんたが起きたのとほとんど同時に寝ちゃったんだよね)
心なしかバリアの声のトーンが落ちる。
なんだかキルアに悪いことをしてしまったような気がした。
(たぶんキルアもしばらく寝ると思うよ。私よりもかなり力を使ってたから起きるまでだいぶかかるんじゃない?)
(そっか)
それならお礼を言うのはかなり先になりそうだ。
なんだか結局僕が誰かの世話になってばかりだ。
僕が誰かのためになろうと思っていたのに。
(ま、さ、そんなうじうじしないでさ。次がんばればいんじゃない?)
バリアにしては優しいことを言う。
やっぱり何かあったのか?
キルアと喧嘩したとか。
(なにもないって!キルアとは今まで通りだし。とにかくあんた早く寝なよ。疲れてんじゃないの?)
そう言われて初めて眠気がしてきた。
いくら明日の予定が得にないからって、あまり遅くまで寝ていたらニーアさんの迷惑になるだろう。
僕はバリアにもう寝るよ、と一言、あっと言う間に眠りに落ちてしまった。
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次の日はすっきりと目が覚めた。
みんなと一緒に朝食をとり、僕はマオ君と一緒だったり、クイットと二人になったり、ニーアさんといろいろと話してみたりして、午前中は家の中で過ごした。
午後、昼食をとった後は一人別行動をした。
まずデーダの元へお見舞いに行き、暇なら船の様子でも見てきたらどうか、と言われたので、デーダとのお喋りを早々に切り上げて、修理中の船の元へと向かった。
船はやはりぼろぼろで、その周囲にはたくさんの人がうごめいていた。
船員らしい人が半数だったが、冒険者風の人もたくさん働いていて、船で戦っているときに見た顔をちらほら見かけた。
きっと傷の軽かった人たちが修理を手伝っているのだろう。
僕も手伝おうかと思ったがローブ姿でいかにも非力そうな僕に仕事を頼む人はおらず、僕としても働いている人の中に割って入って仕事の邪魔をするわけにもいかないと思い、少し船の様子を見るだけにした。
そこで、ふと思ったのだが、船には血の跡が見あたらなかった。
少しは木の床に染みてでもいそうなものなのに、どこにはそういった染みはなく、最初船に乗ったときのままの色合いをしていた。
ただ、床板がはがれていたりという損傷は残っていたし、わざわざ血の痕を残さないためだけに床板をすべて変えたりなんてしないだろう。
帆の方は全て外されていたので、帆の部分の血痕についてはわからなかったが、バリアに血の痕なんてこと気にしてどうするのかと聞かれ、それもそうかと考えるのをやめた。
染みが付いていようが関係ないし、そもそもついていない方が乗ったときいいに決まっている。
僕はそう思い、港を後にした。
その後はキトンの元に寄って、クイットたちと合流。
ニーアの家に帰って夕食をとり、風呂に入って、就寝。
それから次の日もお見舞いに行ったりして時間をつぶしたのだが、だんだんと暇になってきた。
そしてその日の夜、たまたま果物を差し入れにきたクレディーにそのことを言うと、メイルのところに行ってみな、という返事が返ってきた。
メイルとは誰だったか頭をひねると、クレディーにこづかれた。
メイルとは船でクレディーと一緒にいた目の見えない無口な人のことだ。
体中に奇妙な文様があり、四肢が人間と比べて細長い、独特な種族。
彼女もここに滞在しているらしい。
今まで話題に上らなかったが、クイットたちはたまに彼女の元を訪れていたそうだ。
僕はほとんど接する機会がなかったが一緒に戦っていたクイットとはちょっとした信頼関係ができあがっているようだった。
僕はクレディーに礼を言い、次の日彼女の元に向かうことにした。