その夜は私が泊まることにした。

お母さんは身体休めて、次の日お母さんが泊まることにした。


お父さんには、なんとかお願いしまくって泊まっていいよって言われたと伝えた。

苦しい中で、帰って大丈夫だよ、といった。

前の日、お母さんに、

一人になりたくない

死にたくないと泣いた父。

私にはそんな姿を見せられないのかなと

亡くなったあとに気づいた。

一度家に帰り荷物を取って病院に来るねと約束した。


車の中で、お兄ちゃんが

「親父には、あんまり頑張れって言うなよ。

もう十分頑張ってるんだからな」

といわれた。

「そうだよね、そうだよね…」

ほんとにそうだなって思った。


病室へ向かうと昼より苦しそうな父がいて、

歯を磨きたいという。

もう無理すると60台にさがる。

でも口の中気持ち悪いって。

何かの副作用?口の中がものすごく荒れている。


歯磨き粉はつけないで歯ブラシを渡したけど

やっぱり苦しくなってしまう。

夜とても優しい看護師さんがいて、氷水につけたスポンジを持ってきてくれた。

気持ちいいでしょと、話しかけてくれると

父は頷いた。

この人が担当なら少し心強い。


とにかく父の近くにいる、ひとりじゃないよと、

不安だけでも取り除けたら。

でも、まだ手を握ったり、なんか照れくさくて

足を擦ったりしていた。

お父さんはタオルを目の部分に当てて呼吸も苦しそうだった。泣いてるのかな…

今日の夜は後悔ないよう、お父さんのそばにいれるから、しっかりしようと思った。

お父さんの命がけのお昼ご飯の途中、先生の話でよばれる。


お兄ちゃんと私で行く。

お母さんが、私がカッと怒ったらなだめてね、

なんて心配していたけど、それどころの話ではなかった。


チャラ男先生がお兄ちゃんに挨拶をしていた。

別室へいき、婦長さんらしき人も同席していた。


院内感染したコロナ。

症状はたいしたことなかったけれど、

やはり肺炎は重症化していた。

だいぶ肺がわるくなっている。

ハイフローではもう追いつかない

酸素が苦しくて、今日明日でどうなるか、

なので、会いたい人にはあわせてあげて。

今日もご家族が泊まってもいいから。


怒る気分にもなれず、溢れる涙が止まらなかった。

今から考えれば

院内感染なんてしなければ

たすかってるんじゃないの?!

と、チャラ男先生に、噛みついていたかもしれない、

そうできたら、どれだけよかったか。


とにかくお父さんの苦しみを和らげるにはもう、モルヒネしかないみたい。


あの日のやりとりを思い出すと苦しくて苦しくて

だから断片的にだけど、


お父さんが苦しくないほうがいいって言っていたから

そうしてほしい、あと、本当に、延命望んでないのか、ききたい。精神的にも、本当につらいと思う、

と話した気がする。


実はお父さんから相談があって

精神科の先生ともお話して安定剤など、

処方されていたみたい。そんな話を初めて聞いた。


延命は、本当に苦しい、と。おすすめしない、と。


今日明日って、今日明日でなんとかなっちゃう可能性があるってことですか?ときいた。


先生は、その可能性が高い、だから、

会いたい人には会わせてあげて。

面会時間とか関係なく誰かご家族が病室に泊まっても良い、と。


涙止まらなかった。

お兄ちゃんも。


お兄ちゃんから、

お前はもう聞きたいことはないのか?と。

もうわからなくって、首を縦に振った。


婦長さんらしきひとが、

落ち着いたらでいいですよ、この部屋から出るの。

あと、説明聞いた用紙にサインを書いてくださいとのこと。


お兄ちゃんが、

本人には言わないで

悟られないようにしてください、

そう伝えた。


チャラ男先生はこの後お父さんと話すとのことだったから、わかりました、では、簡単な状況のみお伝えします

といった。


目の前がまっくらだった。

電車でつづっていると涙が出る。



その日の朝会社近くのコンビニでいろはすの

シャインマスカット味を見つけていた。

新しい味見つけてお父さんに飲ませてあげるつもりで買っていた。


会社帰り実家最寄り駅で拾ってもらい

お母さんとお兄ちゃんと3人で病院へ行った。

お兄ちゃんは、お父さんに自分が会いに行くことで

自分はダメなんじゃないか?と心配かけるかもと

会っていなかった。

先生の話を私も聞きに行くその日、入院後に初めて顔を出した。


私が少しおくれて受付から戻ると、お母さんとお兄ちゃんが待合に座っていて

今点滴中だからって少し待たされていた。


お母さんが

「お父さんが、遅いじゃないか!」ってすごく怒ってたのよ、と言っていた。

私が残業なんてしちゃったからだ。

ごめんね、お父さん。


点滴が長引いていた。

もう、刺す場所がないくらい腕は青くなっていた。


部屋に行くといつもより苦しそうで

酸素が80前半。70台になると、ピコピコなる。


海苔巻き待ってた、お腹すいたと。

お母さんが食べさせてあげると

酸素が60台になるけど、夢中で、

少し意地らしく食べていた。


あんまり食べると苦しいからと、

なだめながら見守った。

入院して初めて見る父の姿、お兄ちゃんの目が

赤くなってた。


だいぶ悪くなっている

先生の話を聞くのが怖い。


でもお父さんは、お昼の好きなフルーツに手を付けず、2時前まで

海苔巻き、待っていたんだね。


新しい味のいろはすをのませたかったけど、

むせているしお水と苦しそうにいうお父さんに

冷蔵庫にあるもも味のいろはすをコップに入れて飲ませた。


それがさいごの食べたもの

飲んだもの。