『アサドの祈り』 【特捜部Qシリーズ】3  ユッシ・エーズラ・オールスン作 | ミステリ好き村昌の本好き通信

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『アサドの祈り』(特捜部Qシリーズ)

 

 プロローグは少年時代のアサドの、ある日のことが書かれている。

 本文に入ると、ジョアンという三流ジャーナリストが登場し、話は地中海を渡り、ギリシャ等へ脱出しようとする中東シリアの難民の話になる。(本作での主人公アサドはシリア人である)

 

 今回のストーリーは一気に読ませる力を作品に内包している。

 なぜなら、カールの相棒アサドの、謎めいた人生の過去と現在が描かれる作品であるからだ。読みだしたらやめられない。さすがオールスン。ストーリーテリングの力が、今まさにピークという感じがする。

 カールの上司ビャアンが急死し、その兄も、その日のうちに自殺してしまうという事件が起きる。

 そこで、アサドの口から、彼の過去が語られる。

 それは、劣悪な船(ボートやカヌーに近い船)で地中海を渡り、ヨーロッパ大陸へ脱出しようとして、途中船が難破するなどして溺死した、その年2117番目の女性難民の事が報道され、それが、アサドのごく近しい人であり、アサドの妻子の近況も知っている女性だったという驚くべき事実であった。

 また、アサドが十数年間妻子と別れて生きてきたこと。イスラム過激派の最大危険人物とアサドの因縁。そして、その男のアサドに対する殺意の強さ等々。

 移民の死にまつわる様々な新事実が、アサドの告白により明らかになる。

 我々読者は今まで謎だったアサドの過去を知ることになるのだ!

 アサドとテロリストの対立と戦い。テロリストの手中で、生殺与奪状態にあるアサドの妻子の運命は?

 物語の舞台は、デンマークを離れ、テロリストの思惑に引っ張りまわされるように、ドイツ各地を転々とする。

 アサドとマークは、ドイツの情報機関と協力してテロリスト一味を追う。

 一方デンマークのストックホルム警察では、ビャアン亡き後カールの上司として、マークス・ヤコブソンが赴任する。

 また2年間休職していたローセも復帰し、ゴードンと二人で、若いオタクのサイコパスを逮捕しなくてはならない事件も起こる。

 

 かくして、シリーズ史上最高のノンストップアクション小説は展開する。

 内容、構成、文章、すべての点において、Qシリーズ最高傑作と言っておこう。本を読む楽しさを知っていてよかったと、改めて思った。

 今までQシリーズ未読の読者でも、充分楽しめる事を保証する。必読本である。