ミステリ好き村昌の本好き通信

ミステリ好き村昌の本好き通信

ミステリー中心の私的な書評を書いています。

 今年度の直木賞受賞作である。

 東京上野にある寂れた「カフェー西行」を舞台にして、そのカフェーで、女給として、大正〜昭和25年まで、働いた女性たちの人生の一断面を丁寧に、そして真摯に描いた連作短編集である。


 5作の短編集に描かれた女給たちの日々の暮らし、職場での様子や客との交流、私生活、そして生き様・・・

 5つのエピソードは、各々独立しているが、登場人物は、各々のエピソードで年齢を経て、他のエピソードの中心人物と「カフェー西行」で一緒に働いたり、たまに来店するなどして、マスターや元同僚である女給さんと関わり合って、人生を歩んでいく。

 5つのエピソードを読みおえると、読者である私たちは、大正〜昭和25年までの、日本の女性たちの生き様を感じ、心に、その時代の日本と日本人の思いを追体験して、心が慄えるのである。

 読後のなんとも言えない、同じ日本人として共通する思いの、リアルで、心に響く感銘は言葉にならないほどである。

 日本人ならば、やはり読んで感じる作品であると思う。


 収録作品について

 ①「稲子のカフェー」

 関東大震災から2、3年後、初めてカフェーを訪れた主婦稲子の感 

想。そして、そこで働く看板女給タイ子との関係。タイ子のその後の人生。

 ②「ウソつき美登里」

 昭和4年の「カフェー西行」の女給同士「美登里」と「セイ」の交流。そして、新人「園子」の入店と、その顛末。

 ③「出戻りセイ」

 10年ぶりに「カフェー西行」の女給になったセイは、35才。病気の母と妹を養う、キャリヤウーマンである。カフェ常連客の「ヒゲ面男」にアドバイスされて、ヘアスタイルや服を変えると、10年前以上に、客のウケがよくなり、「セイ」と「ヒゲ面男(向井)」の交流が続いた。やがて、向井に、召集令状が来て・・・。(わたし(村昌)は5篇のエピソードの中で、このエピソードが、一番心にグッと来ました)

 ④「タイ子の昔」(昭和20年頃のエピソード)

 ①の中心的な人物タイ子は、40を過ぎ、タバコ屋を買いとり、細

々と生活していた。一人息子の豪一は、出征し、手紙のやり取りで安否の確認をしていた。タイ子は近所に住む豊子と親友になっていた。

(若い頃、字を書けなかったタイ子が,出征した息子と手紙をやり取りするところは、特に心にジンと来た。)

 ⑤「幾子のお土産」

 このエピソードのヒロインは、「カフェー西行」で働きはじめて2カ月の、国民学校高等卒後3年間、病気の母を助け、3年間家事をして

今度初めて、仕事をする幾子である。

 幾子の母は、戦士した息子を諦めきれず、日々の生活もままならない、心と体を病んだ人だった。

 この頃、週に一度は「西行」に顔を出す「タイ子」は、そんな幾子にある物を渡し、彼女の母親に効果があればと考える。そして・・・


 本作は、日本人であるならば、読んだ人誰もが、心に大切なものをもらったような思いがする良作である。

 直木賞受賞作・・・当然の結果であろう。