俺達はスカイ・ヘイヴン聖堂に戻った。世界のノドでパーサーナックスの協力の下でドラゴンレンドを習得し、アルドゥイン討伐の目途が立ちそうなのでその報告のためだ。デルフィンさんにその報告をしたら、普段の様子と何かが違う。どうやらグレイビアードのマスターであるパーサーナックスの存在自体が許せないらしい。彼は自分の本性を乗り越えようと頑張っているし俺達のために尽力してくれたのに、それはあんまりではないだろか?
デルフィンさんはパーサーナックスのかつて犯した罪を清算すべきだと主張した。アルドゥインの右腕であったからという事実は今知ったが、そうしなければならないのだろうか?彼女はその行為が断罪されるべきであるとし、何千年経った今も人々の記憶に残る忌まわしいものであると豪語した。
そして、デルフィンさんはパーサーナックスは当然の報いとして死ななければならず、俺にその抹殺を命じたのだ。
ブレイズの正義
ドラゴンに協力するのはブレイズを辱める行為であるとして、デルフィンさんは絶対にパーサーナックスを認める事はないとした。いつ裏切るかが分からないという意見もあったが、かつての罪はやはり清算すべきという姿勢を崩さず、ドラゴンボーンとしてブレイズの味方となるか敵となるかを選べと言った。
俺としてはそれをやる事でとんでもない事態に発展すると思うけど、どうなんだろうな?ミラークもこれに難色を示し、セラーナに至っては珍しく額に青筋を立てていた。彼等もこの決定に不服なのが伺えた。
エズバーンさんもデルフィンさんの意見に賛同していた。正義は時には無情ではあるが、それもまた正義であると持論を述べ、パーサーナックスが悔い改めたか保身に走ったにしても、自らの命を以て償いをしてもらうと断言した。それは本当に正義なのか?俺には判断がつかない。
スカイ・ヘイヴン聖堂を出る前にセラーナが俺を引き留めた。パーサーナックスは昔はともかく、今はグレイビアードの長であると警告した。それは分かっている。その長を殺す事は彼等と敵対するという事だ。それは絶対にしてはならない。
それとパーサーナックスが理性を失う可能性はゼロではないとも言った。セラーナの父、ハルコン卿の時の事を思っているのだろう。悠久の時の流れの中で志を貫くことが出来る保証はどこにもないからだ。それ故に難しい問題でもあるのだ。俺はどうすべきなのか?
パーサーナックスの葛藤
気が重いままでありながらも俺達は世界のノドに向かった。パーサーナックスの意見と本心を聞くためにだ。彼はブレイズの意見はもっともであると理解を示した。なぜなら自分も信じることが出来ないと言ったのだ。
それはドラゴンは支配する存在であると魂に刻み込まれて生まれてくると教えてくれた。力を求める心がその血に流れており、それは俺にも流れていると言った。う~ん、そうかもしれない。何だかんだ言っても俺は吸血鬼の力に魅力を感じるし、ドラゴンが使うシャウトやデイドラのアーティファクトも使えたら便利だと思っている。その理屈は俺の今までの旅で証明されていると言っても過言ではないだろう。
パーサーナックスはそれでも自分は信用出来ると俺に訴えた。ひたすら瞑想を重ね、長きに渡り声の道を学ぶことによって、自らの本性を克服したと言った。しかし、生れつきの本性に立ち戻らんとする欲望に駆られない日は、1日たりともないと打ち明けた。
パーサーナックスは多大な努力で邪悪な本性を乗り越えるのと、初めから善の心を持って生まれるのとどちらが良いのだろうかと自問していた。俺にはその答えを知ってはいないが、彼が誠実なのは分かった気がする。
力を振るいたいという渇望は確かにあるとパーサーナックスは認めた。しかし、欲望のままに振る舞うよりも、衝動を否定する方が良いとした。善の道を進みたいのだろうと感じた。彼は自分のやってきた事を信じるが、最終的な判断は俺に委ねられた。信じるか殺すかをだ...。
その判断材料をもっと欲しいと思っていたらパーサーナックスの周りに何体か飛んでいるのを見かけた。それは彼の友人のドラゴンで、深き理解を求めていると言った。憂鬱はドラゴンが陥りやすい罠だと言っていた。とても嬉しそうだった。やはり同族がいるのは心が落ち着くのだろうと思う。
アルドゥインの支配体制が崩壊し、解放された彼等なら自分の教えも響くのではないかとパーサーナックスは考えていた。世界のノドでの決戦でそこまで影響力が出ていたとは思わなかったが、良い兆候ではないかと思う。
パーサーナックスはこの先何が起きようとも恐れないという。遥か昔からシャウトを教えてきたという自負と罪を償って生きる真心を俺は感じたのだ。ドラゴンの今後は彼無くしてあり得ないだろう。
パーサーナックスは長話に付き合ってくれたお礼を言った後、俺に判断を委ねた。俺は決心した。彼とこれからの道を信じようと思う。
俺は「信じよう。貴方は真の友人であり味方だ。その行動が全てを物語っている」と答えた。パーサーナックスはそれを聞いて喜んだ。グレイビアードと彼の助けは今後のスカイリムを左右するだろう。それを破壊するようなことはしたくないし、彼等は素晴らしい方々だ。だからこそ、ブレイズの彼等にもこの事をしっかり伝える必要がある。誠を尽くして...。
誠(まこと)
俺達はスカイ・ヘイヴン聖堂に戻った。まず最初はデルフィンさんを説得する事から始めた。彼女にはパーサーナックスは変わったから願いは聞けないと伝えると、いつ裏切るかもしれないからその機会を与えるべきではないと反論してきた。
俺はもう決めた事だからパーサーナックスは生かしておくと再度伝えたが、それならこれ以上の協力はしないとデルフィンさんは断言した。俺はブレイズの存在意義思い出せるかと持ち出した。彼女はそれは皇帝の守護者であり、ドラゴンボーンと共にあると答えた。
それならばその刀剣は何のためにあるのかと問うと、言葉に詰まりながらもドラゴンボーンであるとデルフィンさんは答えた。こんな尋問めいた事はしたくはなかったが、俺はパーサーナックスを殺したくはなかった。だからこそ、ここでしっかり意思表示するしかないのだ。
俺は「ならば俺の判断を尊重して下さい。パーサーナックスは脅威ではないんです。彼は生かしておくべきなんですよ...」と俺の精一杯の真心を込めて説得した。吸血鬼が精一杯の真心なんてふざけるなと正体が知られればそう思うだろうが、これが俺の答えだ。
デルフィンさんはそれを聞き、信じてもいいのかと問い返した。その判断が間違っていない事を祈ると言い、ドラゴンは憎むべき存在ではあるが、問題はそこではなく、自分はブレイズの一員であると再認識した。
答えは最初から決まっていたと悟り、刀剣をドラゴンボーンである俺に捧げるとデルフィンさんは言った。最後に俺はこの判断を信じてほしいとお願いした。
デルフィンさんは「分かったわ。今までごめんなさい。ドラゴンボーン」と言って今までの諍いを謝罪した。周りで聞いていたセラーナとミラークは安堵した。
俺としても彼女のおかげで助けられた事は沢山ある。それを無かった事には出来ない。俺はその謝罪を受け入れた。後はエズバーンさんのみとなる。彼との対話もこの調子で行えればいいのだが...。
エズバーンさんにパーサーナックスは昔とは変わったので命は取らないと伝えると、その危険性を理解していないからそんな判断が出来るんだと怒られた。
俺はパーサーナックスは味方であり、彼がいなければこの場にいない事を伝えたがその考え自体が危険だから考え直せと咎められた。今は良くても、何千年後はどうなるかは分からないと反論し、アルドゥインの後釜に座らないとも限らないと言った。そうなれば人の身である俺は既に死んでいるので、殺すのは不可能になり、最悪の未来を受け入れるしかないとエズバーンさんは言った。
正体を明かしてはいないとはいえ俺は吸血鬼なので、上手くいけば生きていけるかもしれないがそこまで自分を保てるか自信がない。的外れのようでいて的を得ていると思う。だがここでも俺の意見は変わらない。
俺は「パーサーナックスを信じる。彼は声の道の果てに辿り着いたんです」と答えた。エズバーンさんは呆れながらもそれを受け入れるしかないと思った。諦めたと表現した方が良いのかもしれない。それでも、パーサーナックスを殺して世界の危機を摘み取るのは俺しかいないと反論した。
ブレイズの理念は分かる。しかし、ドラゴンボーンである俺が決めた事だ。考えを変える気はないと答えると、エズバーンさんは「...仕方あるまい。その判断が間違っていない事を祈るよ、ドラゴンボーン」と言ってパーサーナックス抹殺を取り下げた。
ブレイズとして生きることがエズバーンさんの心の拠り所のようだったので、それを揺るがしたのは悪いと思っている。だけど、パーサーナックスが今後俺達が死んだ後もドラゴン達を導いていけると信じられると思ったから、俺はブレイズである彼等と口論する事になろうとも守りたいと思ったのだ。
この判断が間違っていたならば、エセリウスだろうがオブリビオンだろうが、どこかも分からない次元であろうが、死んだ後は彼等に深くお詫びするだけだ。それ位の覚悟が無ければいけないと俺は思うのだった。





























