サピ雄・再起編② | 2022中学受験(息子)と2027中学受験(姪) -A stitch in time saves nine-

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2022中学受験を終了した男子を持つ父のブログ
淡々と息子の学習(主にテスト)の記録をつけていたブログです。
息子は開成・筑駒をはじめ受験校全てに合格しました。
現在は2027年組の姪っこの中学受験アドバイザーです。

サピ雄のA校入学試験

サピ雄のA校合格発表

サピ雄・再起編①

 

こちらの続編です。物語調で書くのに少しはまっています。長いですが、上のリンクの記事をご覧になってからの方がわかりやすいと思います。単なる素人の雑文ですので辛口の論評はお控えください。

 

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2月3日 夜

サピ雄はA校の合格発表から帰宅すると、気を紛らわせようと、X校について調べてみることにした。急遽受験することになったので、X校のことは何も知らないのだ。

 

母が学校説明会でもらってきて以来、自室の机の上に放置していたX校の学校案内をめくる。X校の敷地はとても広く、校舎も改築したてでとてもきれいだ。それは昨日受験した時にも感じた。自分の受験会場まで行くのに敷地内をかなり歩いたし、教室はまだ新築のように綺麗だった。

 

学校案内をさらにめくると、広々とした人工芝のサッカーグラウンドの写真に目を奪われる。え、こんな凄いグラウンドがあるんだ。サピ雄はどこの中学に行ったとしてもサッカー部に入るつもりだった。A校をはじめ、志望校の文化祭や説明会などで在校生と話す度に、サッカー部の活動について尋ねていた。戻ってくる答えは、だいたい「サッカー部も盛んだけど、野球部や他の部活動もあるから、グラウンドは曜日毎に譲り合って使ってる」というものだ。しかしX校にはサッカーグラウンドだけでなく、ハンドボールコートや野球練習場が整備され、テニスコートも何面もあるようだ。まるで郊外にある公共の屋外スポーツセンターじゃないか。これなら他の部活をあまり気にせず毎日めいいっぱいサッカーができそうだ。

 

学校案内を手に持ち、小走りにキッチンに向かう。夕食の準備をしている母に言う。「ちょっと、お母さん!俺にX校のグラウンドのこと隠してたでしょ!」口調は強いが、その言葉に怒気はない。むしろ嬉しそうだ。「隠してなんかないわよ。去年の秋の学校説明会の後、X校にすごいグラウンドがあったわよって言ったじゃない。覚えてないの?」そういえばそんな話されたかもしれない。その頃はA校に夢中だったから、きっと上の空だったんだ。

 

母からスマホを借りてX校のサッカー部について検索してみた。するとサッカー部はかなりの強豪で、首都圏の進学校ではずば抜けた実績をあげていた。首都圏の私立中学のサッカー大会で毎年のように優勝・準優勝している。ちなみにA校の名はベスト8にも見かけない。3年間のブランクを経たサッカー少年は、X校のサッカー部の活躍を報告する記事を、目を輝かせて読んでいる。サピ雄は次第にX校も悪くないかも、と思いつつあった。

 

2月4日 午前6時

 

X校の合格発表は、学校掲示ではなく、朝9時にX校のウェブページで発表される。サピ雄は朝6時には目を覚ましてしまった。早く起きる必要はなかったが、朝型にするため1月に入ってからずっと6時に起きていて、その癖で起きてしまったのだ。少しベッドで天井を見上げながら考える。A校、やっぱり行きたかったなあ。昨日の今日だ。当然まだ未練はある。机を一瞥すると、そこにはA校の過去問集や、A校の名前を冠したプリント類が山積みになっている。A校合格に向けて、あれだけ対策したのにな。どうしてもそう思ってしまう。

 

そうだ。サピ雄は思い立つ。まだ9時まで時間がある。机を片付けよう。そうすることで、サピ雄は気持ちの整理が付けられるような気がした。A校の文字の入ったものは、しまうか捨てるかしてしまおう。サピ雄はプリント類を整理するために購入してあった段ボール箱を組み立て、そこに次々と過去問集やプリント類を入れていく。

 

ふと見ると、昨年の「さぴあ」がプリント類の山から出てきた。X校の特集記事が載っている。サピ雄は思わず読み始める。校舎の紹介、校長先生のインタビュー記事に加え、サピックス出身の先輩たちのインタビュー記事が載っている。その中の中学1年生のD君の言葉が印象に残る。

 

「正直に言うと、僕の第一志望は御三家の一つで、X校ではありませんでした。でもX校に入学して、本当によかったと思います。X校の特徴は、生徒同士はもちろん、先生と生徒がすごく仲が良いことです。先生は一人一人僕たちのことを目にかけてくれますし、悩みがあるときに担任の先生から受けたアドバイスは本当にありがたかったです。また、部活動が盛んなこともX校の特徴です。『部活動が盛ん』と言っている学校はたくさんありますが、X校は、そのどの学校よりも盛んです(笑)。僕はサッカー部に所属していますが、毎日人工芝グラウンドを全面つかって練習できる環境です。今の目標は、強豪と言われるうちの学校のサッカー部でレギュラーをとることです。勉強ですか?今は勉強はほどほどになってますが、先生や両親は高校生になってから頑張ればいい、と言ってくれるので、その言葉に甘えています(笑)。」

 

写真のD君は、すらっとした体格で真っ黒に日焼けし、にこやかに笑っている。サピ雄は颯爽としていて格好いい、と感じた。D君はいま中1だから、一つ上か。俺がサッカー部に入ったら先輩として会えるな。憧れに近い感情を持つ。サピ雄の中でX校の印象はかなりよくなっていく。こんなことなら文化祭にいってよく見ておけばおけばよかったな、と少し後悔する。

 

同日 午前8時30分

 

父は会社に遅れていくと言って、家族全員で遅めの朝食を取りながら9時を待つ。15分前になると、そそくさと父はダイニングテーブルにノートパソコンを持ってきて電源を入れ、X校のホームページを開く。そして、サピ雄を正面に座らせ、父、母はその横に腰掛ける。

 

まだ時間まで10分ほどある。サピ雄は更新ボタンを押してみるが、さすがにまだ変化はない。サピ雄の緊張感は増していく。X校の試験は抜群の手応えだった。偏差値的にも十分なはずだ。落ちているわけがない。サピ雄はそう言い聞かせる。でもみんなにとっても簡単だったのかも知れない。サピ雄はX校の過去問をほとんどやっていないので、どの程度できれば合格点なのかの感覚がない。やはり不安になる。シーソーのようにサピ雄の気持ちは揺れ動く。母につい「大丈夫かな?」と聞く。母は「絶対大丈夫よ。今日は合格する予感がするの」とサピ雄の肩に手をかける。父は「そんな弱気になるな。努力してきた自分を信じろ」とサピ雄の背中をぽん、と叩く。

 

設定していたアラームがなる。9時だ。サピ雄はキーボードの更新ボタンを押す。アクセスが集中しているのか、なかなか画面が現れない。ものの数秒が何分にも感じられる。ようやく現れた合格発表のページへのリンクをクリックする。出た。合格者の受験番号だ。画面には受験番号が並んでいる。サピ雄はゆっくりと画面をスクロールさせる。

 

そして、サピ雄は真っ先に自分の受験番号を見つけた。「よしっあったよ!」「おめでとう!」父と母は大喜びだ。父は「よかったな!実はお父さんの会社にもX校出身の若手がいるけど、スポーツマンですごく仕事のできる奴だぞ。あいつを育てた学校なら、いい学校に違いない。」とサピ雄にいう。母は続ける。「学校説明会の先生方の印象は、正直A校よりも全然よかったわよ。内緒だったけど、お母さんが一番気に入っていたのはA校よりもX校よ。ほんとよかったわね!」サピ雄は、気を遣ってくれているのかな、と一瞬思い「ほんとに嬉しい?」と聞いてしまった。

 

父がいう。「サピ雄、嬉しくないわけないだろう。お父さんもお母さんも、サピ雄が頑張っていたことはよーく知ってる。A校の不合格なんて、事故みたいなもんだよ。縁が無かっただけだ。A校の試験の後、サピ雄は暗い顔をしていただろ?でもお父さんはサピ雄なら気持ちを切り替えて乗り越えてくれると信じていた。そしてX校では順当に結果が出た。これはサピ雄が自分の力でたぐり寄せた合格だ。お父さんは、合格ももちろん嬉しいけど、サピ雄がこんなにも成長してくれたことが一番嬉しいんだ。サピ雄はお父さんの自慢の息子だ。」母も横で頷いている。

 

内心、X校に合格しても両親はあまり喜んでくれないのではないか、と危惧していたが、それは良い方向に裏切られた。3年間勉強してきて本当によかったと感じた。

 

「あとな、サピ雄」父は続ける。「中学受験なんて、長い人生の中ではほんの1つのハードルに過ぎないんだよ。そして、第一志望に行ったから楽しい学校生活が約束されるわけでもないし、第二志望だからつまらない学校生活になるわけじゃない。全て自分次第なんだ。自分がその学校で、何を目標にし、その目標に向かって何をするか、どんな友達を作るか、先生から何を学ぶか、自分で考えて過ごしていくかが一番大事なんだよ。サピ雄は中学受験の経験を通して、自分で物事を考え、目標に向けて努力することができるようになったね。そして、A校の合格発表で、サピ雄がお母さんを悲しませないように、涙を堪えていたって聞いて、人に対してすごく気を遣うことができるようになったと感じたんだ。サピ雄はもう立派な青年になりつつあるよ。だから、お父さんはサピ雄はどこに入学したって楽しい学校生活が送れると思っているよ。」

 

「実はな、サピ雄」父はさらに続ける。「お父さんも、中学受験では第一志望に落ちて、母校は第二志望だったんだ。でも、心の底から母校に行って良かったと思っている。そこで出会った友達はいまでも大親友だし、お父さんの宝物だ。そしてお父さんは、大学受験の勉強を一生懸命がんばったんだ。中学受験の時のように、悔しい思いをしたくなかったからね。それこそ高校3年生の時は死ぬ気で勉強した。あそこまで頑張れたのは、中学受験で第一志望に落ちたからだと思うよ。その甲斐あって、第一志望の大学に合格できたんだ。もちろん、サピ雄が将来どうしたいか、目標をどうするかは、中高生の間にゆっくり考えればいい。だけど、中学受験の勉強を一生懸命頑張ったこと、X校に合格できたことはもちろん、A校に合格できなかったことも含めて、きっとサピ雄の人生にとってプラスになる経験だと思う。」

 

父がそんな経験をしていたなんて、サピ雄が初めて聞く話だった。父に中学受験の経験があることは何となく知っていたが、具体的な話は知らなかった。聞いてもはぐらかされていたような気がする。父はおそらく、サピ雄が不本意な結果しか得られなかった時にだけ、この話をしようと考えていたのだろう。サピ雄は父のその言葉に勇気づけられた。X校、今はまだよく知らないけど、きっと良い学校のはずだ。大学進学実績だって、全然悪くない。自分はそこで楽しい学校生活を送れるかもしれない。いや絶対に楽しく過ごしてやる。サピ雄はそう決意する。

 

サピ雄は両親に向かってはっきりとした口調で言った。

「お父さん、お母さん、この3年間、本当にありがとう。ずっとサピックスに通わせてくれて、受験勉強をサポートしてくれて、すごく感謝してる。俺、X校でがんばるよ。だから、もう俺のことは心配しなくて大丈夫だよ。」

 

A校の合格発表の時、不合格を告げても泣かなかった母の目から大粒の涙が流れた。母は何も言わず、サピ雄を抱きしめた。父は「よし、がんばれよ!」といいながら、サピ雄の頭を手でくしゃくしゃにすると、「あ、もうこんな時間か。じゃあ俺会社いくよ。お母さん、入学手続はよろしくな」とそそくさと背中を向けた。そして、その背中は少し震えていた。

 

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ここまでお読み頂きありがとうございます。

ここで終わりでもいいんですが、サピ雄の中学での様子をいずれ少しだけ書きたいと思います。蛇足になるかも知れませんが。

 

サピ雄の再起の姿は、こちらのO君を少しモデルにしています。

数十年前に開成不合格だったある友人の話

 

 

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