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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

第21章 不利益事実の不告知の要件緩和(4条2項)

誤認取消の1類型である不利益事実の不告知の要件が緩和されました。改正前は、事業者が消費者に有利な事実を告げ、かつ、不利益な事実を「故意に」告げなかった場合にのみ誤認取消が認められていたところ、2018年改正法では、「故意」を「故意又は重過失」と改正することで、消費者の立証の困難さを緩和し、消費者被害の救済範囲の拡大を図りました。

1 不利益事実の不告知の要件の緩和

(1)「重大な過失」の追加

旧法4条2項は、消費者は、事業者が故意に不利益事実の不告知を行ったことにより誤認をし、それによって当該消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示をした時は、これを取り消すことができるものとしています。しかし、現実には、消費者が事業者の故意を立証することは困難です。そこで改正法では、事業者に重大な過失があった場合でも取り消し得ることとしました。

 

(2)「重大な過失」の意味

「重大な過失」とは、わずかの注意をすれば容易に有害な結果を予見し、回避することができたのに、漫然と看過したというような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態をいいます。

 

例えば、宅建業者である事業者が、日照良好と説明しつつ、隣地にマンションが建つことを告げずにマンションを販売した際に、隣地のマンションの建設計画に関する説明会が当該事業者も参加可能な形で実施されていたような場合がこれに該当します。

⑵ 「不利益事実の不告知」の要件緩和

 

「不利益事実の不告知」による取消権は、事業者が一定の事項に関して消費者の利益になるような説明をしながら、それに付随する不利益な事実を説明しなかったような場合に認められる取消権です。例えば、南側に新しい高層マンションの建築計画があることを知りながら、日当たりが良いなどといって分譲マンションの購入を勧めるような場合がそれにあたります。旧法ではこの「不利益事実の不告知」による取消が認められるためには「不利益事実の不告知」につき事業者に故意があったことが必要とされており、このことが取消権の行使を妨げているとの指摘がなされていました。

 

そこで、改正法では、事業者の故意に加えて重過失があった場合にも取消権の行使ができるものとされました。この改正により、「不利益事実の不告知」の活用がより進むことが期待されています(改正法4条2項)。

 

請求が人身保護規則4条にいわゆる顕著である場合に当らないとされた一事例

 

 

人身保護請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和30年(オ)第557号

【判決日付】      昭和31年7月20日

【判示事項】      請求が人身保護規則4条にいわゆる顕著である場合に当らないとされた一事例

【判決要旨】      被拘束者が不法入国による退去強制処分の確定した朝鮮人を母としその不法入国後本邦において出生した幼児であること、退去強制令書に退去を受くべき者の表示として被拘束者が右母と共に記載されていることその他原審判示の事実関係のもとにおいては、未だ人身保護規則第4条の「拘束が権限なしにされていることが顕著である場合」に当らないと認めるのが相当である。

             (少数意見がある。)

【参照条文】      人身保護法

             人身保護規則

             出入国管理令51

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集10巻8号1096頁

 

 

人身保護法

第二条 法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている者は、この法律の定めるところにより、その救済を請求することができる。

② 何人も被拘束者のために、前項の請求をすることができる。

 

 

人身保護規則

(請求の要件)

 

第四条 法第二条の請求は、拘束又は拘束に関する裁判若しくは処分がその権限なしにされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著である場合に限り、これをすることができる。但し、他に救済の目的を達するのに適当な方法があるときは、その方法によつて相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白でなければ、これをすることができない。

 

 

出入国管理及び難民認定法

(退去強制令書の方式)

第五十一条 第四十七条第五項、第四十八条第九項若しくは第四十九条第六項の規定により、又は第六十三条第一項の規定に基づく退去強制の手続において発付される退去強制令書には、退去強制を受ける者の氏名、年齢及び国籍、退去強制の理由、送還先、発付年月日その他法務省令で定める事項を記載し、かつ、主任審査官がこれに記名押印しなければならない。

 

 

 

       主   文

 

 原判決を破棄する。

 被上告人(請求者)の請求を棄却する。

 本件手続費用及び上告費用は被上告人(請求者)の負担とする。

 

       理   由

 

 上告人の論旨第二点について。

 原判決の確定した本件拘束の事実関係の要旨は、被拘束者は昭和三〇年四月二五日入国警備官により、同年三月一五日附を以て東京入国管理事務所主任審査官がA及び被拘束者の両名に対する裁決に基いて発布したAに対する外国人退去強制令書と同一用紙に被拘束者の氏名、性別、生年月日、続柄等を記載し右Aの随伴者として同人と共に退去強制を受くべき者であることを表示した外国人退去強制令書の執行を受けて東京入国管理事務所に収容され、引続き本国送還の配船準備を待つため大村入国者収容所に護送されて同所にAと共に収容拘束されて居る、というのであるが、原審判示の「被拘束者が不法入国による退去強制処分の確定した朝鮮女性Aを母としてその不法入国後昭和二六年九月二二日本邦に於て出生した女児であること」その他の事実関係の下においては、本件は、人身保護規則四条にいう、拘束の権限なしになされていることが顕著である場合に当らないと認めるのが相当である。(昭和二八年(ク)五五号同二九年四月二六日大法廷決定参照)。されば、本件退去強制令書が無効である旨判断して被拘束者の釈放を命じた原判決は、結局同条の解釈を誤つたものと謂わねばならないのであつて、この点において上告は理由があり、原判決は破棄を免れない。

 よつて、其の余の論旨については判断を省略し、かつ本件は当裁判所において自判するに熟するから、民訴四〇八条、人身保護法一六条一項、一七条、民訴九五条、八九条に則り、主文のとおり判決する。

 この判決は裁判官藤田八郎、同池田克の意見を除くその余の裁判官全員一致の意見によるものである。

 裁判官藤田八郎、同池田克の意見は次のとおりである。

 原判決摘示の事実によれば、本件請求は人身保護規則四条の要件をそなえているものと認められるところであるから、その主張の当否について判断しなければならないのであつて(その理由の詳細については、昭和三〇年(オ)第八一号同年九月二八日大法廷判決の少数意見としての記載を此処に引用する)、多数意見のように、本件をもつて右四条にいう拘束の権限なしになされていることが顕著である場合に当らないとすることは正当でない。

 ところで、原判決が被拘束者Bに対する拘束が違法であると判断した理由の要旨は、出入国管理令五一条所定の退去強制令書には退去強制の理由を記載すべきことを定めており、その記載は重要な要件であるところ、本件の右令書には、被拘束者Bに対する退去強制理由の記載を遺脱しているから、右は出入国管理令五一条の定める方式に著しく違反した無効のものであり、Bの拘束は違法であるというのであるが、本件につき原判決の確定した事実によれば、被拘束者Bは被拘束者Aの子で満三才の幼児であるため、これらの幼児の違反処理に関する法務大臣の通達に基き、同児に対する審理手続は一貫してAの随伴者として処理せられ、本件退去強制令書にも随伴者として氏名、性別、生年月日が記載されていることが認められるところである。そして退去強制令書は、審理の結果退去を相当とする場合にその強制執行をするにつき発行されるものであるところ、随伴者として取り扱われたBについては、令書発行の前提手続である出入国警備官の違反調書並びに法務大臣の裁決書に出入国管理令二四条七号に該当するものであることが明らかにされているのであるから、本件退去強制令書には、直接執行を受くべきAに対する退去強制理由を記載するほか、Bにつき前記のように随伴者として氏名、性別、生年月日を記載するを以て足ると解するのが相当である。

 されば、本件令書が無効であるとして被拘束者Bの釈放を命じた原判決は、法令の解釈を誤つた違法があり、本件上告理由第一点は、その理由があるものといわなければならない。

    最高裁判所第二小法廷

請負契約の注文者が瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬全額の支払いとの同時履行を主張することの可否


    工事代金請求事件
【事件番号】    最高裁判所第3小法廷判決/平成5年(オ)第1924号
【判決日付】    平成9年2月14日
【判示事項】    請負契約の注文者が瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬全額の支払いとの同時履行を主張することの可否
【判決要旨】    請負契約の目的物に瑕疵がある場合には、注文者は、瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等にかんがみ信義則に反すると認められるときを除き、請負人から瑕疵の補修に代わる損害の賠償を受けるまでは、報酬全額の支払いを拒むことができ、これについて履行遅滞の責任も負わない。
【参照条文】    民法634
          民法533
          民法412
          民法1-2
【掲載誌】     最高裁判所民事判例集51巻2号337頁


民法
(履行期と履行遅滞)
第四百十二条 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

(同時履行の抗弁)
第五百三十三条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
第六百三十四条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。


 

新聞記者に対し誤った情報を提供して報道させ,被控訴人(一審被告)Y社の信用を著しく毀損したとして控訴人(一審原告)Xに対する懲戒処分を有効とした一審判決が取り消された例

大阪高等裁判所判決/平成29年(ネ)第1453号
平成30年7月2日
懲戒処分無効確認等請求控訴事件
帝産湖南交通事件
【判示事項】    1 新聞記者に対し誤った情報を提供して報道させ,被控訴人(一審被告)Y社の信用を著しく毀損したとして控訴人(一審原告)Xに対する懲戒処分を有効とした一審判決が取り消された例
2 民事上の不法行為である名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実にかかり,もっぱら公益を図る目的である場合には,摘示された事実が真実であることが証明されたときは,その行為は違法性がなく,不法行為は成立しないと解されるとされた例
3 本件組合の委員長であるXの情報提供に基づいて,本件組合がパート運転者の不満を取り上げてY社と交渉したが,Y社は,非組合員の問題であるとして組合との交渉に応じなかったとする新聞記事①と,Y社の正社員の運転者の問題として,長時間労働で体調を崩す労働者が現れ,労働者の仕事が厳しくなる悪循環が起こっているとする記事②のいずれについても,一般読者の読み方を前提とした場合,その掲載およびそれにかかる情報提供行為は,公共の利害に関する事実にかかり,もっぱら公益を図る目的でなされたものであって,摘示された事実が真実であることが証明されたということができるので,それにかかる情報提供行為には違法性がなく,不法行為は成立しないというべきであるから,両記事にかかるXの情報提供行為が,Y社主張の懲戒事由に該当するということはできないとして,Xに対する出勤停止10日間および始末書提出の懲戒処分が無効とされた例
4 本件懲戒処分が無効となることにより,Xが,未払賃金の請求権を失わないのは,Xの債務である労務の提供が,Y社の責めに帰すべき事由により履行できなかった場合であるから,出勤停止期間中もその対価に沿う労務を提供したことが前提となるというべきところ,Xにおいて特定の期間中の1日当たりの時間外労働時間等は必ずしも同じでなく,同期間の賃金には,宿泊手当など他の費目と合わせ合計して平均額を算出することにより,Xの通常の労働の対価であると認定することが直ちに相当と判断しかねるものも含まれていることからすれば,特定の期間の賃金の平均額を算出して,それとの差額をもってXの出勤停止期間中の労務の提供の対価とすることは相当ではないとされた例
5 Y社が,結果として,賞罰委員会および労使協議会での協議を経ずに本件懲戒処分をした手続き自体に違法性があるということはできず,本件組合においてパート運転者の組織化や上部団体への加盟の具体的な動きがあったことやそれをY社が知り得たことを認めることはできず,Y社が,就業規則,労使協定に基づき委員長Xの言い分および本件組合の意見を聴取する機会を設けていたことからすれば,Y社が,反組合的な意図ないし動機をもって本件懲戒処分をしたということはできず,本件懲戒処分後の事情をもって,本件懲戒処分の際のY社の動機を図ることは相当ではないとして,Xの慰謝料請求が否定された例
【掲載誌】     労働判例1194号59頁
          LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】    ジュリスト1528号115頁
 

ろ過装置の利用目的が装置の性質上、有害な廃液をろ過して無害としたうえで公共用水に放流することにある場合には極めて有害なまま廃液を放流することにならざるを得ないろ過装置にはその設置又は保存に瑕疵がある。


公害損害賠償請求事件
【事件番号】    前橋地方裁判所判決/昭和37年(ワ)第85号
【判決日付】    昭和46年3月23日
【判示事項】    一、ろ過装置の利用目的が装置の性質上、有害な廃液をろ過して無害としたうえで公共用水に放流することにある場合には極めて有害なまま廃液を放流することにならざるを得ないろ過装置にはその設置又は保存に瑕疵がある。
          二、工作物の設置に行政指導があっても、それによってろ過装置に瑕疵があるとの判断は左右されない。
          三、いわゆる公害訴訟においては、原告は、侵害行為と損害との間に因果関係が存在する相当程度の可能性があることを立証することをもって足りる。
【掲載誌】     下級裁判所民事裁判例集22巻3~4号293頁
          判例時報628号25頁
          労働判例125号69頁
【評釈論文】    別冊ジュリスト43号46頁
          別冊ジュリスト65号38頁
          判例タイムズ267号4頁


事案の概要
 本件判決は、本件工場廃液にはシアン准オンが一一PPM以上含まれていること、廃液はPH六前後であることを認定したうえで、本件工場のメッキ加工によって生じた廃液は、本件ろ過装置によってろ過された後であっても、生物にとって極めて有害危険なものであると判断した。そして、裁判所は「本件ろ過装置の使用目的が装置の性質上、有害な廃液をろ過して無害としたうえで公共用水に放流することにある」から、「有毒のまま廃液を放流することにならざるを得ない本件ろ過装置にはその設置又は保存に瑕疵がある」と認定した。その設置に関して行政指導があっても、行政指導によってろ過装置に瑕疵があるという判断は左右されないと判示したことは、注目にあたいする。


民法
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
 

第20章 強引な勧誘行為に関する困惑取消の拡張(4条3項7号、8号)

事業者が契約の締結に先立って契約の履行に相当する行為を実施したうえで消費者に契約締結を求めたり、事業者が契約の締結に先立って行った準備活動等の代償として契約締結を求めたりして消費者を困惑させて契約させた場合には、当該消費者は当該契約を取り消す情を抱いているものと誤信している消費者に対し、事業者が、その事実を知りつつ、当該消費者契約を締結しなければ勧誘者との関係が破綻することになる旨を告げ、合理的な判断ができない心情(困惑)に陥った消費者に契約を締結させた場合には、当該消費者は契約を取り消すことができるという規定が創設されました。この規定も「つけ込み型不当勧誘行為」の1類型に消費者取消権を認めた規定です。

例:消費者の恋愛感情を知りつつ「契約してくれないと関係を続けない」と告げて勧誘する行為(いわゆる恋人商法)など

(2)この規定の「社会生活上の経験が乏しいことから」という字句も、適用対象を若年者に限定する趣旨ではありません(中高年にも適用されます)。

「社会生活上の経験が乏しいことから」の意義は、3号部分で前述のとおりです。本要件の実務上の運用は、本規定の適用範囲を不当に狭くしないよう、勧誘者に対して好意の感情を抱き、かつ、勧誘者も同様の感情を抱いていると誤信している消費者が、事業者から人間関係を維持するためには当該契約の締結が必要である旨を告げられて合理的な判断ができない心情(困惑)に陥り、当該契約の締結に至ったという事案であれば、当該契約を締結するか否かの判断において当該消費者が積み重ねてきた社会生活上の経験による対応は困難であったものと事実上推認する解釈・運用が合理的と思われます。

(3)「恋愛感情」は例示であり、「その他好意の感情」には、親しい友人、先輩・後輩、実の親子のような関係など、一般的な他者への感情を越えた親密な感情を広く含みます。

いわゆる「親切商法」の事案において独居老人が世話を焼いてくれる販売員を実の子どものように信頼しているといった感情も含まれます。

(4)勧誘者も同様の感情を抱いているものと誤認する場合には、取り消すことができるという規定が創設されました。

 

(5)契約締結前に義務の内容を実施する行為

消費者が消費者契約の申込みまたはその承諾の意思を表示する前に、当該消費貸借契約を締結したならば負うこととなる義務の内容の一部または全部を事業者が実施し、その実施前の原状の回復を著しく困難にする行為(同項7号)。

 

例えば、「さおだけ商法」のように、竿竹屋を呼び止めて値段を聞くと、それには答えずに「長さは?」と言うので庭に案内し、今使っているものと同じと答えると、先に寸法を合わせてさお竹を切られてしまい、これに困惑して断りにくくして契約締結させられたような場合がこれに該当します。

 

(6)消費者契約の締結を目指した事業活動を実施する行為

消費者が消費者契約の申込みまたはその承諾の意思を表示する前に、事業者が当該消費者契約の締結を目指した事業活動を実施した場合において、正当な理由がある場合でないのに、当該事業活動が当該消費者のために特に実施したものである旨、および、当該事業活動の実施により生じた損失の補償を請求する旨を告げる行為(改正法4条3項8号)。

 

例えば、マンション投資の勧誘電話があり、消費者は断ったが、「会って話だけでも聞いて。」との申出を受けて会ったところ、事業者は、他都市の者であり、会うために多大な労力を費やしたとして、「断わるならせめて交通費を払え。」と告げて困惑させて契約を締結させたような場合がこれに該当します。

⑥ 契約締結前に行った営業活動への補償 請求等

 

これも「さおだけ商法」と同様に、消費者が契約を承諾する前にいろいろなサービスを提供し、それによって断りにくくして契約締結をせまるような商法を主にターゲットにしたものです。

 

これらの規定は、不退去・退去妨害という身体拘束型の困惑惹起行為に限定されていた困惑取消の対象を、上記の例のような非身体拘束型の困惑惹起行為の一部に拡張したものと評価できます。

 

請負契約に基づき建築された建物所有権が原始的に注文者に帰属するものと認められた事例

 

 

              所有権確認等請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和44年(オ)第538号

【判決日付】      昭和44年9月12日

【判示事項】      請負契約に基づき建築された建物所有権が原始的に注文者に帰属するものと認められた事例

【判決要旨】      注文者が、請負契約の履行として、請負人に対し、全工事代金の半額以上を棟上げのときまでに支払い、その後も工事の進行に応じ残代金の支払をして来たような場合には、特段の事情のないかぎり、建築された建物の所有権は、引渡をまつまでもなく、完成と同時に原始的に注文者に帰属するものと解するのが相当である。

【参照条文】      民法632

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事96号579頁

             判例時報572号25頁

 

 

民法

(請負)

第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人武並覚郎の上告理由について。

 原審の適法に確定したところによれば、本件建物を含む四戸の建物の建築を注文した被上告人は、これを請け負った上告人香川義光に対し、全工事代金の半額以上を棟上げのときまでに支払い、なお、工事の進行に応じ、残代金の支払をして来たというのであるが、右のような事実関係のもとにおいては、特段の事情のないかぎり、建築された建物の所有権は、引渡をまつまでもなく、完成と同時に原始的に注文者に帰属するものと解するのが相当であるから、これと同旨の見地に立ち、本件建物の所有権は、昭和三九年三月末以前の、それが建物として完成したと目される時点において被上告人に帰したものとした趣旨と解される原審の判断は正当であって、この点につき、原判決に所論の違法は認められない。それ故、論旨は採用することができない。

 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

大学教員の70歳定年

 定年を70歳とする合意や労使慣行については否定される傾向が強いが、原告側の主張が認められたケースとしては、①就業規則上は65歳定年となっていたところ、教授会の議決を経た場合には70歳までの定年延長が事実たる慣習として労働契約の内容となっていたとして、65歳の定年退職者に定年延長を認めなかった理事会決議につき解雇権濫用に当たるとされたものとして、日本大学(定年)事件(東京地決平成13年7月25日労判818号46頁)および日本大学(定年・本訴)事件(東京地判平成14年12月25日労判845号33頁)、また、②労使慣行性は否定しつつ、定年後再雇用による雇用継続の期待への合理性を認め、再雇用不締結を権利濫用と認めた学校法人尚美学園(大学専任教員A・再雇用拒否)事件(東京地判平成28年5月10日労判本号51頁)などがある。

逆に認められなかったケースとしては、①65歳定年の後に1年契約を3回更新されていたが、その後更新されなかったケース(明治大学事件・東京地判平成元年3月31日労判539号49頁)、②63歳定年制の下で、教授会が再採用を決定しながら常務理事会が再採用しないと決定したため定年退職せざるをえなかったケース(長崎総合科学大学事件・長崎地決平成5年7月28日労判637号11頁)、③定年である65歳に達した後に1年間の定年延長を受けていたが、その後定年延長がなされず退職扱いとなったケース(学校法人同志社〔大学院教授・定年延長拒否〕事件・大阪高判平成26年9月11日労判1107号23頁)、④東京高判平成29年3月9日労判1180号89頁 [学校法人尚美学園 (尚美学園大学)事件]などがある。

 

丸山ワクチン事件

 

 

              損害賠償請求事件

【事件番号】      東京地方裁判所判決/昭和54年(ワ)第10719号

【判決日付】      昭和63年10月31日

【判示事項】      一、悪性脳腫瘍患者に対する免疫療法剤を丸山ワクチンからピシバニールへと変更した医師の措置につき診療契約上の債務不履行ないし不法行為上の故意過失が認められないとされた事例

             二、患者ないしその親権者の知る権利、自己決定権及び治療に対する期待権の侵害が認められないとされた事例

【参照条文】      民法415

             民法709

             民法715

【掲載誌】        判例タイムズ686号187頁

             判例時報1296号77頁

 

 

丸山ワクチン(まるやまワクチン)は、日本医科大学皮膚科教授だった丸山千里が開発した薬剤である。無色透明の皮下注射液で、主成分は、ヒト型結核菌から抽出されたリポアラビノマンナン(英語版)という多糖体と核酸、脂質である。1944年、丸山によって皮膚結核の治療のために開発され、その後、肺結核、ハンセン病の治療にも用いられた。支持者たちは末期のがん患者に効果があると主張しているが、日本医科大学もゼリア新薬も未だに薬効を証明していない。

 

1976年11月に、ゼリア新薬工業が厚生省に「抗悪性腫瘍剤」としての承認申請を行うが、薬効を証明するデータが提出されていないので1981年8月に厚生省が不承認とした。ただし、「引き続き研究継続をする」とし、異例の有償治験薬として患者に供給することを認め、現在に至る。2019年12月末までに、41万1500人のがん患者が丸山ワクチンを使用している。

 

 

事案の概要

 Xらの長女Aは訴外B病院で悪性脳腫瘍と診断されてその切除手術を受けたが、その後腫瘍が再度増大したので、XらはAに丸山ワクチンによる治療を受けさせたいと希望し、Aを丸山ワクチンの開発者である丸山千里博士が名誉教授を勤めるY2の付属病院(以下「本件病院」という。)の脳神経外科に転院させた。

同科では主任教授であるY2の指導のもとにY3及びY4がAの主治医として治療にあたったが、入院当初から丸山ワクチンが投与されたほか、二度にわたる外科手術、放射線療法、化学療法が施行された(なお、Aの腫瘍は組織学的検査の結果、肉腫の一種である血管周被細胞腫と判定された。)。 入院約4か月後、Y2らはAへの治療方針を再検討し、丸山ワクチンの投与を中止して他の免疫療法剤であるピシバニールの投与を開始したが、Xらの要望により約1か月後には丸山ワクチン投与が再開された。

しかし、Aの病状は好転せず、その後他院でも治療を受けたものの本件病院退院約3か月後に死亡するに至った。

そこで、Xらは、Aの脳腫瘍は丸山ワクチン投与により消失し、又は改善していたのに、Yらの右薬剤変更によって再度悪化したものであると主張し、また、予備的に右薬剤変更措置はXらの自己決定権或いは治療に対する期待権を侵害するものであると主張してAの逸失利益や慰謝料等の賠償を求めた。

 これに対し、本判決は、本件病院入院中のAの病状に関する事実関係、殊にXらが主張の根拠とするCTスキャン所見、臨床症状について詳細に検討し、Xらの主張する丸山ワクチン中断前の時点での腫瘍の消失ないし縮小は、これらの所見からは認めることができず、むしろ右変更措置当時のAの状態は、右各所見やAの腫瘍の悪性度等からみて、近い将来の再悪化の懸念は否定し難い状態にあったと認められるとした。

そして、治療法の選択の判断に関する債務不履行ないし不法行為上の故意過失は、当該判断が当時の学術上の見解や臨床上の知見に照らし治療法として一般に受容されていたところに従って行われたものであるか否かという観点から考察すべきであり、治療法の変更措置の適否についても基本的には右基準が妥当するが、その際、治療開始後に判明した当該患者に個別的な諸事情が考慮すべき重要な要素となることがあるにすぎないと判示し、本件においては、右CTスキャン所見と臨床症状に加え、本件当時の丸山ワクチンとピシバニールに関する医学界の一般的見解、Y2らの臨床経験、患者の免疫状態を反映すると考えられているツベルクリン反応の結果が陰性であったこと等からみて、Y2らの判断は妥当なもので債務不履行ないし不法行為上の故意過失は認められないとした。

また、知る権利、自己決定権、期待権についても、本件の事実関係のもとにおいてはそれらの侵害は認められないとした。

 

 

民法

(債務不履行による損害賠償)

第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。

一 債務の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

 

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

(使用者等の責任)

第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。

3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 

 

 

       主   文

 

 一 原告らの請求をいずれも棄却する。

 二 訴訟費用は原告らの負担とする。

 

アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/平成15年(オ)第1895号

【判決日付】      平成16年11月29日

【判示事項】      1 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和40年条約第27号)の締結後大韓民国在住の韓国人である旧軍人軍属等について戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項,恩給法9条1項3号を存置したことと憲法14条1項

             2 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律と憲法17条,29条2項,3項

【判決要旨】      1 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和40年条約第27号)の締結後,旧日本軍の軍人軍属等であったが日本国との平和条約により日本国籍を喪失した大韓民国に在住する韓国人に対して何らかの措置を講ずることなく戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項,恩給法9条1項3号を存置したことは,憲法14条1項に違反するということはできない。

             2 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律は,憲法17条,29条2項,3項に違反するということはできない。

【参照条文】      財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和40年条約第27号)2

             憲法14-1

             戦傷病者戦没者遺族等援護法附則

             恩給法9-1

             憲法17

             憲法29-2

             憲法29-3

             財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事215号789頁

 

 

事案の概要

 本件は,第二次世界大戦中,旧日本軍の軍人や軍属,軍隊慰安婦(従軍慰安婦)であった韓国人又はその遺族であるXら(軍人軍属関係の本人又はその遺族が29名,軍隊慰安婦関係の本人が9名)が,Y(国)に対し,Yの行為により耐え難い苦痛を被ったとして損失補償又は損害賠償を請求し,また,軍人軍属関係のXの中には,未払給与債権又は未払郵便貯金債権(未払給与債権等)を有するものがあり,仮に,上記債権が財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律(以下,上記協定[昭和40年条約第27号]を日韓請求権協定といい,上記法律を措置法という。)により消滅したとすれば補償請求権を有するとし(上記損失補償請求又は損害賠償請求の選択的請求),X1名につき各2000万円の損害賠償を請求した事案である。本件は,いわゆる戦後補償事件としては比較的早い時期に提訴されたが,多数当事者について多数の論点が主張されたため,1審判決まで10年近くの時間を要することとなった。その間に,本件で問題となっている論点について,最高裁の判決等が出されている。

 

 

憲法

第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

② 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。

③ 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

 

第十七条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

 

第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。

② 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

③ 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

 

 

戦傷病者戦没者遺族等援護法附則

2 戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)の適用を受けない者については、当分の間、この法律を適用しない。

 

財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律

1 次に掲げる大韓民国又はその国民(法人を含む。以下同じ。)の財産権であつて、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(以下「協定」という。)第二条3の財産、権利及び利益に該当するものは、次項の規定の適用があるものを除き、昭和四十年六月二十二日において消滅したものとする。ただし、同日において第三者の権利(同条3の財産、権利及び利益に該当するものを除く。)の目的となつていたものは、その権利の行使に必要な限りにおいて消滅しないものとする。

一 日本国又はその国民に対する債権

二 担保権であつて、日本国又はその国民の有する物(証券に化体される権利を含む。次項において同じ。)又は債権を目的とするもの

2 日本国又はその国民が昭和四十年六月二十二日において保管する大韓民国又はその国民の物であつて、協定第二条3の財産、権利及び利益に該当するものは、同日においてその保管者に帰属したものとする。この場合において、株券の発行されていない株式については、その発行会社がその株券を保管するものとみなす。

3 大韓民国又はその国民の有する証券に化体される権利であつて、協定第二条3の財産、権利及び利益に該当するものについては、前二項の規定の適用があるものを除き、大韓民国又は同条3の規定に該当するその国民は、昭和四十年六月二十二日以後その権利に基づく主張をすることができないこととなつたものとする。

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 1 上告代理人高木健一ほかの上告理由第1の2のうち憲法29条3項に基づく補償請求に係る部分について

 (1)軍人軍属関係の上告人らが被った損失は,第二次世界大戦及びその敗戦によって生じた戦争犠牲ないし戦争損害に属するものであって,これに対する補償は,憲法の全く予想しないところというべきであり,このような戦争犠牲ないし戦争損害に対しては,単に政策的見地からの配慮をするかどうかが考えられるにすぎないとするのが,当裁判所の判例の趣旨とするところである(最高裁昭和40年(オ)第417号同43年11月27日大法廷判決・民集22巻12号2808頁)。したがって,軍人軍属関係の上告人らの論旨は採用することができない(最高裁平成12年(行ツ)第106号同13年11月16日第二小法廷判決・裁判集民事203号479頁参照)。

 (2)いわゆる軍隊慰安婦関係の上告人らが被った損失は,憲法の施行前の行為によって生じたものであるから,憲法29条3項が適用されないことは明らかである。したがって,軍隊慰安婦関係の上告人らの論旨は,その前提を欠き,採用することができない。

 2 同第1の2のうち憲法の平等原則に基づく補償請求に係る部分について

 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和40年条約第27号)の締結後,旧日本軍の軍人軍属又はその遺族であったが日本国との平和条約により日本国籍を喪失した大韓民国に在住する韓国人に対して何らかの措置を講ずることなく戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項,恩給法9条1項3号の各規定を存置したことが憲法14条1項に違反するということができないことは,当裁判所の大法廷判決(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和37年(あ)第927号同39年11月18日大法廷判決・刑集18巻9号579頁等)の趣旨に徴して明らかである(最高裁平成10年(行ツ)第313号同13年4月5日第一小法廷判決・裁判集民事202号1頁,前掲平成13年11月16日第二小法廷判決,最高裁平成12年(行ツ)第191号同14年7月18日第一小法廷判決・裁判集民事206号833頁参照)。したがって,論旨は採用することができない。

 3 同第1の2のうち,財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律(昭和40年法律第144号)の憲法17条,29条2項,3項違反をいう部分について

 第二次世界大戦の敗戦に伴う国家間の財産処理といった事項は,本来憲法の予定しないところであり,そのための処理に関して損害が生じたとしても,その損害に対する補償は,戦争損害と同様に憲法の予想しないものというべきであるとするのが,当裁判所の判例の趣旨とするところである(前掲昭和43年11月27日大法廷判決)。したがって,上記法律が憲法の上記各条項に違反するということはできず,論旨は採用することができない(最高裁平成12年(オ)第1434号平成13年11月22日第一小法廷判決・裁判集民事203号613頁参照)。

 4 その余の上告理由について

 その余の上告理由は,違憲及び理由の不備・食違いをいうが,その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって,民訴法312条1項又は2項に規定する事由に該当しない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。