新聞記者に対し誤った情報を提供して報道させ,被控訴人(一審被告)Y社の信用を著しく毀損したとして控訴人(一審原告)Xに対する懲戒処分を有効とした一審判決が取り消された例
大阪高等裁判所判決/平成29年(ネ)第1453号
平成30年7月2日
懲戒処分無効確認等請求控訴事件
帝産湖南交通事件
【判示事項】 1 新聞記者に対し誤った情報を提供して報道させ,被控訴人(一審被告)Y社の信用を著しく毀損したとして控訴人(一審原告)Xに対する懲戒処分を有効とした一審判決が取り消された例
2 民事上の不法行為である名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実にかかり,もっぱら公益を図る目的である場合には,摘示された事実が真実であることが証明されたときは,その行為は違法性がなく,不法行為は成立しないと解されるとされた例
3 本件組合の委員長であるXの情報提供に基づいて,本件組合がパート運転者の不満を取り上げてY社と交渉したが,Y社は,非組合員の問題であるとして組合との交渉に応じなかったとする新聞記事①と,Y社の正社員の運転者の問題として,長時間労働で体調を崩す労働者が現れ,労働者の仕事が厳しくなる悪循環が起こっているとする記事②のいずれについても,一般読者の読み方を前提とした場合,その掲載およびそれにかかる情報提供行為は,公共の利害に関する事実にかかり,もっぱら公益を図る目的でなされたものであって,摘示された事実が真実であることが証明されたということができるので,それにかかる情報提供行為には違法性がなく,不法行為は成立しないというべきであるから,両記事にかかるXの情報提供行為が,Y社主張の懲戒事由に該当するということはできないとして,Xに対する出勤停止10日間および始末書提出の懲戒処分が無効とされた例
4 本件懲戒処分が無効となることにより,Xが,未払賃金の請求権を失わないのは,Xの債務である労務の提供が,Y社の責めに帰すべき事由により履行できなかった場合であるから,出勤停止期間中もその対価に沿う労務を提供したことが前提となるというべきところ,Xにおいて特定の期間中の1日当たりの時間外労働時間等は必ずしも同じでなく,同期間の賃金には,宿泊手当など他の費目と合わせ合計して平均額を算出することにより,Xの通常の労働の対価であると認定することが直ちに相当と判断しかねるものも含まれていることからすれば,特定の期間の賃金の平均額を算出して,それとの差額をもってXの出勤停止期間中の労務の提供の対価とすることは相当ではないとされた例
5 Y社が,結果として,賞罰委員会および労使協議会での協議を経ずに本件懲戒処分をした手続き自体に違法性があるということはできず,本件組合においてパート運転者の組織化や上部団体への加盟の具体的な動きがあったことやそれをY社が知り得たことを認めることはできず,Y社が,就業規則,労使協定に基づき委員長Xの言い分および本件組合の意見を聴取する機会を設けていたことからすれば,Y社が,反組合的な意図ないし動機をもって本件懲戒処分をしたということはできず,本件懲戒処分後の事情をもって,本件懲戒処分の際のY社の動機を図ることは相当ではないとして,Xの慰謝料請求が否定された例
【掲載誌】 労働判例1194号59頁
LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 ジュリスト1528号115頁