被告人が,他会社が著作権を有するアダルトビデオの女優の顔に芸能人らの顔を合成加工したディープフェイク動画を作成して自ら運営するインターネットサイトに掲載した名誉毀損及び著作権法違反の事案。
名誉毀損,著作権法違反被告事件
【事件番号】 東京地方裁判所判決/令和2年(特わ)第2564号
【判決日付】 令和3年9月2日
【判示事項】 被告人が,他会社が著作権を有するアダルトビデオの女優の顔に芸能人らの顔を合成加工したディープフェイク動画を作成して自ら運営するインターネットサイトに掲載した名誉毀損及び著作権法違反の事案。
裁判所は,各動画は,全体として,本件芸能人らが出演した動画として違和感を生じさせないもので,その精巧さから,本物と誤信するおそれは否定できず,芸能人らがアダルトビデオに出演した旨の社会的評価を害するに足りる事実を摘示したといえるとして,各犯罪の成立を認め,アダルトビデオの制作者の努力にただ乗りして利益を得ようとしたなど犯行態様の悪質さを指摘し,大学退学など一定の社会的制裁を受けていることなど酌むべき事情も考慮し,懲役2年及び罰金100万円,懲役刑につき,3年間執行猶予に処した事例
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載
刑法
(名誉毀き損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
著作権法
第八章 罰則
第百十九条 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第二項、第三項若しくは第六項から第八項までの規定により著作権、出版権若しくは著作隣接権(同項の規定による場合にあつては、同条第九項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第五号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第十項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第六号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者(第百十三条第八項の規定により著作者人格権又は実演家人格権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)
二 営利を目的として、第三十条第一項第一号に規定する自動複製機器を著作権、出版権又は著作隣接権の侵害となる著作物又は実演等の複製に使用させた者
三 第百十三条第一項の規定により著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者
四 侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等の公衆への提示を行つた者(当該侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等と侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等以外の相当数のウェブサイト等(第百十三条第四項に規定するウェブサイト等をいう。以下この号及び次号において同じ。)とを包括しているウェブサイト等において、単に当該公衆への提示の機会を提供したに過ぎない者(著作権者等からの当該侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等において提供されている侵害送信元識別符号等の削除に関する請求に正当な理由なく応じない状態が相当期間にわたり継続していたことその他の著作権者等の利益を不当に害すると認められる特別な事情がある場合を除く。)を除く。)
五 侵害著作物等利用容易化プログラムの公衆への提供等を行つた者(当該公衆への提供等のために用いられているウェブサイト等とそれ以外の相当数のウェブサイト等とを包括しているウェブサイト等又は当該侵害著作物等利用容易化プログラム及び侵害著作物等利用容易化プログラム以外の相当数のプログラムの公衆への提供等のために用いられているウェブサイト等において、単に当該侵害著作物等利用容易化プログラムの公衆への提供等の機会を提供したに過ぎない者(著作権者等からの当該侵害著作物等利用容易化プログラムにより提供されている侵害送信元識別符号等の削除に関する請求に正当な理由なく応じない状態が相当期間にわたり継続していたことその他の著作権者等の利益を不当に害すると認められる特別な事情がある場合を除く。)を除く。)
六 第百十三条第五項の規定により著作権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者
3 次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、録音録画有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)又は著作隣接権を侵害する送信可能化(国外で行われる送信可能化であつて、国内で行われたとしたならば著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)に係る自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画(以下この号及び次項において「有償著作物等特定侵害録音録画」という。)を、自ら有償著作物等特定侵害録音録画であることを知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者
二 第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、著作物(著作権の目的となつているものに限る。以下この号において同じ。)であつて有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権を侵害しないものに限る。)の著作権(第二十八条に規定する権利(翻訳以外の方法により創作された二次的著作物に係るものに限る。)を除く。以下この号及び第五項において同じ。)を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の複製(録音及び録画を除く。以下この号において同じ。)(当該著作物のうち当該複製がされる部分の占める割合、当該部分が自動公衆送信される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものを除く。以下この号及び第五項において「有償著作物特定侵害複製」という。)を、自ら有償著作物特定侵害複製であることを知りながら行つて著作権を侵害する行為(当該著作物の種類及び用途並びに当該有償著作物特定侵害複製の態様に照らし著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除く。)を継続的に又は反復して行つた者
4 前項第一号に掲げる者には、有償著作物等特定侵害録音録画を、自ら有償著作物等特定侵害録音録画であることを重大な過失により知らないで行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者を含むものと解釈してはならない。
5 第三項第二号に掲げる者には、有償著作物特定侵害複製を、自ら有償著作物特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで行つて著作権を侵害する行為を継続的に又は反復して行つた者を含むものと解釈してはならない。
主 文
被告人を懲役2年及び罰金100万円に処する。
その罰金を完納することができないときは,1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。
理 由
(罪となるべき事実)
被告人は
第1 令和元年12月21日頃,熊本市(以下略)被告人方において,パーソナルコンピュータを使用し,インターネットを介して,不特定多数の者が閲覧可能な「C」と題するインターネットサイト内に,女性が男性の体を弄ぶなどの内容のアダルトビデオの出演女優の顔部分に別紙1記載のAの顔を合成加工し,あたかも同人がアダルトビデオに出演したように見える動画(前記パーソナルコンピュータ内に保存されていた「私のビデオ15.mp4」と題するファイル)を掲載して,不特定多数の者が同動画を閲覧することが可能な状態にし,もって公然と事実を摘示し,Aの名誉を毀損し,
第2 法定の除外事由がなく,かつ,著作権者の許諾を受けないで,別紙2記載のとおり,令和2年1月2日頃から同年2月16日頃までの間,3回にわたり,前記被告人方において,株式会社Dほか2社が著作権を有する映画の著作物である「E」等を,前記パーソナルコンピュータを用いて出演女優の顔に別人の女性の顔を合成加工して翻案した動画を作成した上,その頃,前記被告人方において,前記パーソナルコンピュータを使用してインターネットを介し,前記株式会社Dほか2社が著作権を有する前記翻案された各動画の情報を,インターネットに接続された自動公衆送信装置であるF株式会社が首都圏内において管理するサーバコンピュータの記憶装置に記録保存して,同サーバコンピュータに接続してきた不特定多数の者に前記各動画の情報を自動公衆送信し得る状態にし,もって前記株式会社Dほか2社の著作権を侵害し
第3 法定の除外事由がなく,かつ,著作権者の許諾を受けないで,令和2年1月19日頃,前記被告人方において,株式会社Gが著作権を有する映画の著作物である「H」を,前記パーソナルコンピュータを用いて男性と性交等している出演女優の顔に別紙1記載のBの顔を合成加工して翻案した動画(前記パーソナルコンピュータ内に保存されていた「私のビデオ140.mp4」と題するファイル)を作成した上,その頃,前記被告人方において,前記パーソナルコンピュータを使用してインターネットを介し,前記株式会社Gが著作権を有する前記翻案された動画の情報を,インターネットに接続された自動公衆送信装置である前記F株式会社が首都圏内において管理する前記サーバコンピュータの記憶装置に記録保存して,同サーバコンピュータに接続してきた不特定多数の者にあたかもBがアダルトビデオに出演したように見える前記動画の情報を自動公衆送信し得る状態にし,もって前記株式会社Gの著作権を侵害するとともに,公然と事実を摘示し,Bの名誉を毀損した。
(証拠の標目)略
(事実認定の補足説明)
1 争点
本件の争点は,名誉毀損に関し,判示第1及び第3の動画の掲載により,A及びBがアダルトビデオに出演した旨の社会的評価を害するに足りる事実を摘示したといえるかである。当裁判所はこれを認めたため,以下補足して説明する。
2 前提事実
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)被告人は,動画に登場する人物の顔を他の動画に登場する人物の顔に合成加工するソフトを用いて,アダルトビデオ及び芸能人の動画をAIに機械学習させ,アダルトビデオの女優の顔を芸能人の顔に合成した動画を作成し,さらに動画編集ソフトを使用して顔の部分がぼやけているシーンや無駄なシーンを取り除く加工をした動画(以下「ディープフェイク動画」という。)を作成した。
そして,それらの中でも出来が良いと判断したものを,被告人が管理・運営する「C」と題するインターネットサイト(以下「本件サイト」という。)に掲載していた。本件サイトに月額300円で会員登録をした者は,掲載されたディープフェイク動画を閲覧することができた。
(2)判示第1及び第3に係る動画(以下,判示第1に係る動画を「動画A」と,判示第3に係る動画を「動画B」といい,これらの動画を併せて「本件各動画」という。)は,それぞれ性交等の猥褻な場面が露骨に撮影されたアダルトビデオの女優の顔をA及びBの顔に合成加工したものである。
本件各動画には映像上に「N」というロゴタイプが付されていた。また,本件各動画から顔が映った場面を静止画で切り出したサムネイルの横には見出しが付されており,動画Aの見出しは,Aの氏名の一部を○と伏せ字で表記したものに続く「O」というもの,動画Bの見出しは,「P」というものであった。
本件各動画のサンプル動画は無料で閲覧することができるが,本件各動画は有料で会員登録をした者のみが閲覧することができた。
3 当裁判所の判断
(1)ア 本件各動画は,アダルトビデオの女優の顔にA及びBの顔が合成されたものであるところ,顔と輪郭部分とのつながり,顔の向き,表情の変化などはいずれも自然であり,本件各動画は精巧に作成されたものと評価できる。
イ 弁護人は,本件各動画の内容自体に関し,口元等がぼやけている部分があることや,音声が途切れたり,口の動きと整合しなかったりする部分があることなどを指摘して,本件各動画は動画自体の精巧さの点でA及びBがアダルトビデオに出演したと誤信させるものではないと主張する。
しかし,口元等がぼやけている部分はごく一部であり,しかも短時間のものにすぎない。音声と動きの不整合についても,動画Bについては若干のずれにすぎず,大枠においてほぼ一致しているといえるし,動画Aがその後半になって無音となることについても,Aが出演した動画を編集等した際に生じたものと視聴者が認識することはあり得ると考えられる。したがって,弁護人の指摘を踏まえても,本件各動画は,全体としてみれば,A及びBが出演した動画として違和感を生じさせない精巧なものと評価できる。
(2)ア 弁護人は,①本件各動画の掲載態様に関し,本件各動画には「N」というロゴタイプが付され,サムネイルには「ディープフェイク」や「激似」との見出しも付されていること,②本件各動画の掲載方法に関し,合成した芸能人の顔画像のみが異なる,共通のアダルトビデオを重複して利用した多数の類似の動画と共に掲載する方法が採られていることを踏まえれば,ディープフェイク動画であることが明瞭であるから,視聴者においてA及びBがアダルトビデオに出演したと誤信する余地はないと主張する。
しかし,前述のような本件各動画の精巧さからすれば,①視聴者が,ディープフェイク動画である旨の見出し等の記載を信用せず,本当はA及びBがアダルトビデオに出演したものであると誤信するおそれは否定できない。また,②視聴者において,本件各動画が,多数の類似のディープフェイク動画の基となるアダルトビデオそのものであると誤信するおそれも否定できない。
イ なお,弁護人は,第三者が,本件各動画のロゴタイプやサムネイルの見出しを消したり,他の類似の動画と切り離したりして転載することについてまで被告人に責めを負わせることになるから,処罰範囲が不当に広がるものであり許されない旨主張する。しかし,本物であると誤信し得る精巧な動画を転載が特に困難な事情も認められない状態でインターネット上のサイトに掲載したという被告人の行為自体が,A及びBの社会的評価を低下させる危険があるといえるから,第三者の刑責を被告人に負わせるものではなく,不当な処罰範囲の拡大という弁護人の主張は当を得ない。
ウ 弁護人は,本件各動画の視聴者について,ディープフェイク動画であることを認識せずにインターネット上で本件各動画を発見して視聴する者は限られる旨主張する。しかし,ディープフェイク動画の視聴を意図せずに,サンプル動画を閲覧するなどして会員登録をし,本件各動画を視聴する者がいる可能性はある上,ディープフェイク動画の視聴を意図していた者であっても,本件各動画の精巧さを踏まえれば,本物であると誤信するおそれは否定できない。
エ 弁護人は,著名な芸能人であるA及びBがアダルトビデオに出演するということ自体が信じ難い内容である旨主張するが,本件各動画の精巧さを踏まえれば,A及びBに関する知識が豊富ではない視聴者がA及びBがアダルトビデオに出演したと誤信する可能性があることはもとより,A及びBについて豊富な知識を有する視聴者においても誤信するおそれがないとはいえない。
(3)以上によれば,本件各動画の掲載は,A及びBがアダルトビデオに出演した旨の社会的評価を害するに足りる事実を摘示したといえ,名誉毀損罪が成立する。
(法令の適用)
罰条
判示第1の行為 刑法230条1項
判示第2の各行為 別紙2記載の番号ごとに,著作物の翻案権の侵害及び公衆送信権の侵害を包括して,著作権法119条1項,23条1項,27条,28条
判示第3の行為のうち,
著作権法違反の点 著作物の翻案権の侵害及び公衆送信権の侵害を包括して,著作権法119条1項,23条1項,27条,28条
名誉毀損の点 刑法230条1項
科刑上一罪の処理(判示第3)
刑法54条1項前段,10条(1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,1罪として重い著作権法違反の罪の刑で処断)
刑種の選択
判示第1 懲役刑を選択
判示第2ないし3 懲役刑及び罰金刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段
懲役刑について 刑法47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重)
罰金刑について 刑法48条2項(判示第2及び第3の各罪所定の罰金の多額を合計)
労役場留置 刑法18条
刑の執行猶予 刑法25条1項(懲役刑を猶予)
訴訟費用 刑訴法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
本件は,被告人が,アダルトビデオの女優の顔に芸能人らの顔を合成加工したディープフェイク動画を作成して自ら運営するインターネットサイトに掲載したという名誉毀損及び著作権法違反の事案である。
被告人は,本件サイトの会員から会費を徴収しようと考え,ディープフェイク動画を作成して掲載することを繰り返し,その一環として本件各犯行に及んだものである。常習的かつ職業的犯行であり,利欲的な動機にも酌量の余地はない。
本件犯行は,アダルトビデオの制作者の努力にただ乗りして利益を得ようとしたものであり,著作権者に対し経済的な損害を生じさせ得るものである上,顔の画像を使用された芸能人に対し芸能活動において極めて重要であるイメージを傷つけるものであって,精神的苦痛を与えたほか,経済的な損害をも生じさせかねないものといえる。一度インターネット上に掲載されると際限なく拡散されるおそれがあることをも考慮すれば,犯行態様の悪質さは明らかである。
以上を踏まえると,被告人の刑事責任は軽視できず,被告人に対しては,懲役刑を科した上で,本件が利得目的の犯行であることにも照らし罰金刑を併科するのが相当である。
他方で,被告人が事実関係については認めて,反省文をしたためるなど反省の態度を示していること,被告人の父が出廷し今後の監督を誓約したこと,前科がないこと,本件により大学を退学するなど一定の社会的制裁を受けていることなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。
そうすると,被告人に対しては主文のとおりの懲役刑及び罰金刑を科した上で,懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当であると判断した。
(求刑-懲役2年及び罰金100万円)
令和3年9月2日
東京地方裁判所刑事第15部
裁判長裁判官 楡井英夫
裁判官 赤松亨太
裁判官 竹田美波