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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

内縁の配偶者と自動車損害賠償保障法七二条一項にいう「被害者」

 

 

損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和61年(オ)第1476号

【判決日付】      平成5年4月6日

【判示事項】      一 内縁の配偶者と自動車損害賠償保障法七二条一項にいう「被害者」

             二 自動車損害賠償保障法七二条一項により死亡者の相続人に損害をてん補すべき場合に既に死亡者の内縁の配偶者が同条項によりてん補を受けた扶養利益の喪失に相当する額を死亡者の逸失利益の額から控除することの要否

【判決要旨】      一 内縁の配偶者は、自動車損害賠償保障法七二条一項にいう「被害者」に当たる。

             二 自動車損害賠償保障法七二条一項により死亡者の相続人に損害をてん補すべき場合において、既に死亡者の内縁の配偶者が同条項により扶養利益の喪失に相当する額のてん補を受けているときは、右てん補額は、相続人にてん補すべき死亡者の逸失利益の額からこれを控除すべきである。

【参照条文】      自動車損害賠償保障法72-3

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集47巻6号4505頁

 

 

自動車損害賠償保障法

(自動車損害賠償責任)

第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

 

第二節 自動車損害賠償保障事業

(業務)

第七十二条 政府は、自動車損害賠償保障事業として、次の業務を行う。

一 自動車の運行によつて生命又は身体を害された者がある場合において、その自動車の保有者が明らかでないため被害者が第三条の規定による損害賠償の請求をすることができないときに、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害を塡補すること。

二 責任保険の被保険者及び責任共済の被共済者以外の者が、第三条の規定によつて損害賠償の責に任ずる場合(その責任が第十条に規定する自動車の運行によつて生ずる場合を除く。)に、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害を塡補すること。

三 第十六条第四項又は第十七条第四項(これらの規定を第二十三条の三第一項において準用する場合を含む。)の規定による請求により、これらの規定による補償を行うこと。

2 前項各号の請求の手続は、国土交通省令で定める。

 

商法第491条後段の応預合罪の意義

 

 

              商法違反経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律違反被告事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷決定/昭和31年(あ)第2109号

【判決日付】      昭和35年6月21日

【判示事項】      1、商法第491条後段の応預合罪の意義

             2、応預合罪にあたる事例

【判決要旨】      1、商法第491条後段の応預合罪は、株金払込取扱機関の役職員が同法第486条第1項に掲げる者と通謀して株金の払込を仮装する行為をいう。

             2、銀行の支店長甲が株式会社の設立発起人乙と通謀して株金払込を仮装するため、その方法として同銀行支店から預金者丙に融資しその金員を設立登記完了まで乙に貸与することを丙に承諾させた上、丙をして融資にかかる右金員を会社の株式払込金として同銀行支店の別段預金口座に振替え払込をさせ、乙はこれにより銀行支店長甲名義の株式払込金保管証明書の交付を得て会社の設立登記を完了するや即日乙において同銀行支店を支払銀行とする同額の小切手を振出して丙に交付し、丙はこれを同銀行支店に交付し、同銀行はこの小切手で株式払込の預金を払出し当初の丙の借入金の弁済に充当するため振替え決済をなし、もって株金の払込を仮装する場合において、右甲の所為は応預合罪にあたる。

【参照条文】      商法491

             商法177-2

             商法175-2

             商法189

             非訟事件手続法126-1

             非訟事件手続法187

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集14巻8号981頁

 

 

預合(あずけあい)とは、株式会社の設立に際して、発起人その他の設立時発行株式の引受人が払込取扱機関と通謀して、払込金を借り入れてそれを払い込み、かつ、その借入金が返済されるまでは会社が払込金の返還を求めない旨約する行為をいう。現実には現金の移動がなく、払込取扱機関において帳簿上の操作がなされるに過ぎないことが多い。仮装の払込みの形態のひとつ。

 

 

会社法

(出資の履行)

第三十四条 発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければならない。ただし、発起人全員の同意があるときは、登記、登録その他権利の設定又は移転を第三者に対抗するために必要な行為は、株式会社の成立後にすることを妨げない。

2 前項の規定による払込みは、発起人が定めた銀行等(銀行(銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)第二条第一項に規定する銀行をいう。第七百三条第一号において同じ。)、信託会社(信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第二条第二項に規定する信託会社をいう。以下同じ。)その他これに準ずるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の払込みの取扱いの場所においてしなければならない。

 

(会社財産を危うくする罪)

第九百六十三条 第九百六十条第一項第一号又は第二号に掲げる者が、第三十四条第一項若しくは第六十三条第一項の規定による払込み若しくは給付について、又は第二十八条各号に掲げる事項について、裁判所又は創立総会若しくは種類創立総会に対し、虚偽の申述を行い、又は事実を隠ぺいしたときは、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

2 第九百六十条第一項第三号から第五号までに掲げる者が、第百九十九条第一項第三号又は第二百三十六条第一項第三号に掲げる事項について、裁判所又は株主総会若しくは種類株主総会に対し、虚偽の申述を行い、又は事実を隠ぺいしたときも、前項と同様とする。

3 検査役が、第二十八条各号、第百九十九条第一項第三号又は第二百三十六条第一項第三号に掲げる事項について、裁判所に対し、虚偽の申述を行い、又は事実を隠ぺいしたときも、第一項と同様とする。

4 第九十四条第一項の規定により選任された者が、第三十四条第一項若しくは第六十三条第一項の規定による払込み若しくは給付について、又は第二十八条各号に掲げる事項について、創立総会に対し、虚偽の申述を行い、又は事実を隠ぺいしたときも、第一項と同様とする。

5 第九百六十条第一項第三号から第七号までに掲げる者が、次のいずれかに該当する場合にも、第一項と同様とする。

一 何人の名義をもってするかを問わず、株式会社の計算において不正にその株式を取得したとき。

二 法令又は定款の規定に違反して、剰余金の配当をしたとき。

三 株式会社の目的の範囲外において、投機取引のために株式会社の財産を処分したとき。

 

 

緊急逮捕が違法であつて勾留をも違法ならしめ勾留中に録取された供述調書は証拠能力がない旨の団藤裁判官の意見が示された事例

 

 

強姦致傷被告事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷決定/昭和49年(あ)第2488号

【判決日付】      昭和50年6月12日

【判示事項】      緊急逮捕が違法であつて勾留をも違法ならしめ勾留中に録取された供述調書は証拠能力がない旨の団藤裁判官の意見が示された事例

【判決要旨】     一、正午ころか遅くとも午後1時30分ころに逮捕したのにかかわらず、午後10時ころになつて逮捕状の請求がなされた場合、当日が休日で最寄り簡裁まで片道2時間を要する事情があつても、右逮捕は適法ではない。

             二、緊急逮捕として許される時間を経過したのに被疑者を釈放しない違法は、勾留をも違法ならしめる。

             三、緊急逮捕として許される時間を経過したのに被疑者を釈放しなかつた違法があるときは、勾留中に作成された供述調書は証拠能力を欠く。

【参照条文】      刑事訴訟法210

             刑事訴訟法203

【掲載誌】        最高裁判所裁判集刑事196号569頁

             判例タイムズ325号282頁

             判例時報779号124頁

 

 

事案の概要

 任意同行に引きつづいて緊急逮捕がなされ、さらに勾留がなされた事案で、一審判決は、実際の逮捕は逮捕手続書の記載(午後3時)より早い正午から1時半ころまでになされたと認定し、しかし、この点の瑕疵は勾留を違法ならしめるものではないとした。

原審も右判断の大綱を是認し「被告人は右逮捕手続以前、すでに事実上逮捕されていた疑があり、逮捕手続はその逮捕日時の点において瑕疵がある旨の原判示はこれを是認できなくはないから、逮捕理由の告知もまたその時点において適法でないこととなる。

しかしながら、前示のように本件緊急逮捕の必要性自体は肯認できること、被告人が実質上逮捕されたと認める余地のある同年1月15日正午頃か遅くとも同日午後1時30分頃から短時間内の同日午後3時頃には緊急逮捕手続がとられ、同日逮捕状の発付をえたこと、事件の検察官送致は、原判示のとおり実質上の逮捕日時の後48時間以内である同月17日午前11時30分に行なわれ(なお、右時間内に被疑者が検察官のもとに到着することを要するものではない)、勾留請求の時期等についても違法は認められないことなどからすると、右緊急逮捕手続の瑕疵は、これに続く勾留を違法ならしめるほど重大なものとは解せられない」と判示した。

 これに対する上告趣意は、逮捕の違法が勾留の違法をまねき、勾留中の被告人供述調書は証拠能力を失い、原判決は「事実の認定は証拠による」旨の規定に違反したこととなり、ひいて憲法31条に違反するというのである。

 これに対する第一小法廷決定は、所論勾留中の供述調書を除くとしてもその余の証拠で事実は認定できるから、証拠によらずして事実を認定したことにはならない、したがつて違憲主張は前提を欠いて不適法であるとした。

 

 

刑事訴訟法

第二百三条 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。

② 前項の場合において、被疑者に弁護人の有無を尋ね、弁護人があるときは、弁護人を選任することができる旨は、これを告げることを要しない。

③ 司法警察員は、第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる旨及びその申出先を教示しなければならない。

④ 司法警察員は、第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。

⑤ 第一項の時間の制限内に送致の手続をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

 

第二百十条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

② 第二百条の規定は、前項の逮捕状についてこれを準用する。

 

 

 

       主   文

 

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中一〇〇日を本刑に算入する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

 

       理   由

 

弁護人森田博之の上告趣意第一は、憲法三一条違反をいうが、記録によれば、本件罪となるべき事実は、第一審判決掲記の証拠のうち被告人の所論各供述調書を除くその余の各証拠によつて優にその認定を妨げないのであつて、所論勾留の適否及び被告人の各供述調書の証拠能力の有無のいかんを問わず、原判決が証拠によらずして犯罪事実を認定したものといえないことは明らかであるから、所論は前提を欠き、その余の点は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であり、被告人本人の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、すべて適法な上告理由にあたらない。

よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項本文、刑法二一条により主文のとおり決定する。

この決定は、弁護人の上告趣意第一に関する裁判官団藤重光の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官団藤重光の補足意見は、次のとおりである。

記録に徴すれば、本件緊急逮捕は刑訴法二一〇条に規定する「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないとき」の要件を充たしていたと認めることができないわけではない。

しかし、憲法三三条のもとにおいては、緊急逮捕は、とくに厳格な要件のもとにはじめて合憲性を認められるものというべきであり(当裁判所昭和二六年(あ)第三九五三号同三〇年一二月一四日大法廷判決・刑集九巻一三号二七六〇頁、なお、団藤・新刑事訴訟法綱要七訂版三四〇頁以下、団藤・「刑事裁判と人権」公法研究三五号一〇〇頁以下参照)、私見によれば、犯罪の重大性、嫌疑の充分性および事態の緊急性の要件のほかに、逮捕状が現実の逮捕行為に接着した時期に発せられることにより逮捕手続が全体として逮捕状にもとづくものといわれうるものであることが必要である。

そうして、もし逮捕状の発付がかような限度をこえて遅延するときは、被疑者はただちに釈放されるべきであり、引き続いて勾留手続に移ることは許されないものと解しなければならない。

原判決の認定によれば、被告人が「実質上逮捕されたと認める余地のある」のは当日の「正午頃か遅くとも同日午後一時三〇分頃」であつたのにかかわらず、午後一〇時ころになつてはじめて逮捕状の請求があり、同日中に逮捕状の発付をえたというのであつて、当日が休日であつたこと、最寄りの簡易裁判所までが片道二時間を要する距離であつたことを考慮に入れても、とうてい本件緊急逮捕の適法性をみとめることはできない。

原判決は、実質上の逮捕日時から四八時間以内に検察官送致が行われたことを挙げ、勾留請求の時期等についても違法は認められないと判示するが、緊急逮捕として許される時間を経過した以上、四八時間以内であつても即刻、被疑者を釈放しなければならないことは前述のとおりであり、したがつて、この違法は勾留をも違法ならしめるものというべきである。

かようにして、この勾留中に作成された被告人の供述調査は証拠能力を欠き、これを有罪判決の基礎とした第一審判決およびこれを支持した原判決には、この点において法令違反があるものといわなければならない(原判決では逮捕中に作成された被告人の供述調書だけを除外している)。

ただ、原判決によつて支持された第一審判決の挙示する証拠をみると、逮捕・勾留中における被告人の供述調書を除いても、その余の証拠によつて優に原認定を肯認することができ、結局において、右法令違反は判決に影響を及ぼさないから、いまだ刑訴法四一一条を適用すべきものとはみとめられない。

第7章 取消権の行使期間

 現行の消費者契約法は、取消権の短期の行使期間について、「追認をすることができる時から6箇月間」または「当該消費者契約の締結の時から5年」と規定しています(7条1項)。

 改正法は、このうち「追認をすることができる時」からの行使期間を、1年間に伸長することとしました(改正法7条)。

 

 消費者との間で取引を行う事業者としては、トラブルを未然に防ぎ、また適切に対応するため、業務の通常の過程において、担当者が顧客と対応した際のやり取りを書面・データ等により記録化することが重要であると考えられます。その記録については、今回の取消権の行使期間の延長に伴い、適切に保存しておくことが必要となると考えられます。

 

商法第12条(会社法908条)と第三者相互間における適用の有無

 

 

仮差押執行異議事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和27年(オ)第957号

【判決日付】      昭和29年10月15日

【判示事項】      商法第12条と第三者相互間における適用の有無

【判決要旨】      商法第12条は第三者相互の間においては適用がない。

【参照条文】      商法12

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集8巻10号1898頁

             判例タイムズ45号28頁

【評釈論文】      金融法務事情56号26頁

             別冊ジュリスト49号26頁

             別冊ジュリスト84号22頁

             別冊ジュリスト129号16頁

             別冊ジュリスト243号10頁

             登記先例解説集30巻8号67頁

             法学協会雑誌74巻1号93頁

 

 

会社法

(登記の効力)

第九百八条 この法律の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができない。登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは、同様とする。

2 故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人樋口恒蔵、同井田憲次の上告理由について。

 原判決は、訴外宮関合名会社の解散並びに清算人の選任は当時同会社の残存総社員の一致の意見によつてなされたものであるから有効であると判示するものであつて、たとえ右解散の登記に申請人として死亡社員の氏名を併記した事実があつたとしても右解散並びに清算人の選任それ自体の効力に何ら消長を及ぼすものでないことは勿論である。又、商法一二条は登記当事者が登記すべき事項を以て第三者に対抗し得べき場合を規定したのであるから、本件のごとく、会社の清算人から動産を買受けた被上告人(原告)が第三者たる上告人(被告)に対し右所有権を主張する場合には、同条は、その適用を見ず、従つて所論清算人選任登記の効力如何にかかわらず被上告人は右所有権を上告人に対し主張することを得るものと解すべきである。論旨は理由がない。

 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条を適用し、全裁判官一致の意見で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第二小法廷

頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた患者の開頭手術を行う医師といわゆる説明義務の範囲

 

 

              損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和56年(オ)第26号

【判決日付】      昭和56年6月19日

【判示事項】      頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた患者の開頭手術を行う医師といわゆる説明義務の範囲

【判決要旨】      頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた患者に対して開頭手術を行う医師は、患者又はその法定代理人に対し右手術の内容及びこれに伴う危険性を説明する義務を負うが、そのほかに、患者の現症状とその原因、手術による改善の程度、手術をしない場合の具体的予後内容、危険性について不確定要素がある場合にはその基礎となる症状把握の程度、その要素が発現した場合の準備状況等についてまで説明する義務を負うものではない。

【参照条文】      民法709

【掲載誌】        下級裁判所民事裁判例集31巻9~12号1546頁

 

 

事案の概要

 本件は、10歳の子供が自転車に乗つて遊んでいるうち誤つて転倒し、左側頭部を敷石に打ちつけたため、頭蓋骨陥没骨折があり骨片が脳に刺入している疑いがあるとして開頭手術を受けたところ、出血多量による心不全が原因で死亡した、という事故について、執刀者の不法行為責任、病院設置者の債務不履行責任の有無が問題となつているものである。

ここで紹介するのは、頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた患者の開頭手術を行う医師には、患者又はその法定代理人に対していかなる範囲の説明義務があるか、ということに関する判断の部分である。

 説明義務というのは、医師が治療をするにあたつては患者に対して治療行為について説明をしなければならないとする義務である。

患者はいかなる治療を受けるかをみずから決定する権利を有するが(これを患者の自己決定権という)、医学が高度に専門化した現在においては、一般の患者が予め治療行為について十分な理解をしていることは期待しがたいことから、専門家である医師をして治療行為について説明させる必要がある、との考えのもとに認められてきたものである(唄・契約法大系VII66頁、新美・民法の争点342頁など参照)。

もとより、説明義務なる観念が登場したのはごく最近のことであつて、その法的構成(説明義務を治療行為に対する患者の同意の有効要件とみるか、患者の同意とは関係なく端的に説明義務を肯定するか)も確立しているとはいえないが、説明義務の違反があつた場合には、それが医師の患者に対する損害賠償責任の根拠となること自体を否定するものはないように思われる。

 問題なのは、むしろ説明義務の範囲いかんということであるが、本判決は、頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた患者に対する開頭手術という治療行為について、その内容及びこれに伴う危険性を説明する義務があるが、そのほかに患者の現症状とその原因、手術による改善の程度、手術しない場合の具体的予後内容等についてまで説明する義務はないと解したものである。

治療行為が開頭手術という緊急性を要求され、かつ、危険性を伴うものであることを考えると異論はないものと思われるが、同種事案の処理について参考となるところが少なくないであろう。

 

 

民法

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた患者の開頭手術を行う医師には、右手術の内容及びこれに伴う危険性を患者又はその法定代理人に対して説明する義務があるが、そのほかに、患者の現症状とその原因、手術による改善の程度、手術をしない場合の具体的予後内容、危険性について不確定要素がある場合にはその基礎となる症状把握の程度、その要素が発現した場合の対処の準備状況等についてまで説明する義務はないものとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

山口市事件・市長と約束手形振出権限の有無

 

 

              約束手形金請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和39年(オ)第436号

【判決日付】      昭和41年6月21日

【判示事項】      1、市長と約束手形振出権限の有無

             2、市長がその権限をこえて約束手形を振り出した場合において当該振出行為を民法第44条第1項にいう職務を行なうについてされたものと認めた事例

【判決要旨】      1、市長は、市を代表して約束手形を振り出す権限を有する。

             2、市長がその権限をこえて自己のために市長名義の約束手形を振り出した場合において、市が市議会の議決に基づき市長名義の約束手形により金融機関から一時借入をしていたなど原判決確定の諸事実(原判決理由参照)のもとにおいては、市長の前記振出行為は、民法第44条第1項にいう職務を行なうについてされたものというべきである。

【参照条文】      地方自治法(昭和38年法律第99号による改正前のもの)147

             地方自治法170

             地方自治法239の2

             地方自治法147

             民法44-1

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集20巻5号1052頁

 

 

事案の概要

 本件は、山口市長が自分の債務弁済のために山口市長名義で約束手形を振り出し、そのために山口市が右手形の所持人から、その責任を追及された事件であって、この種の一連の事件のうち、最高裁としてはじめて示した判断である。

 

 

地方自治法

第二款 権限

第百四十七条 普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を統轄し、これを代表する。

 

第百七十条 法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、会計管理者は、当該普通地方公共団体の会計事務をつかさどる。

② 前項の会計事務を例示すると、おおむね次のとおりである。

一 現金(現金に代えて納付される証券及び基金に属する現金を含む。)の出納及び保管を行うこと。

二 小切手を振り出すこと。

三 有価証券(公有財産又は基金に属するものを含む。)の出納及び保管を行うこと。

四 物品(基金に属する動産を含む。)の出納及び保管(使用中の物品に係る保管を除く。)を行うこと。

五 現金及び財産の記録管理を行うこと。

六 支出負担行為に関する確認を行うこと。

七 決算を調製し、これを普通地方公共団体の長に提出すること。

③ 普通地方公共団体の長は、会計管理者に事故がある場合において必要があるときは、当該普通地方公共団体の長の補助機関である職員にその事務を代理させることができる。

 

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人小河虎彦、同塚田守男、同松永芳市の上告理由第一点について。

 所論は、まず、地方公共団体の長たる市長には約束手形を振り出す権限がない旨をいう。

 しかし、約束手形は一定金額を一定期間後に支払うことを約束するものであるから、その振出は、現金の支払自体ではなく、出納官吏の権限に属するものとはいえず、その現金支払の原因たるべき行為として、地方公共団体の長の権限に属するものと解するのが相当であり、市長たるAは、法定の制限のもとに、上告人(山口市)を代表して約束手形を振り出す抽象的権限を有するというべきであるから、この点に関する原判決の判断は、当審も、正当として是認することができる。

 つぎに、所論は、A市長のした本件約束手形の振出は同市長の職務の執行についてなされたものでない旨をいう。

 しかし、原判決が、その挙示の証拠により、適法に認定した事実、とくにA市長が法定の制限のもとに、上告人(山口市)を代表して約束手形を振り出す抽象的権限を有し、かつ、上告人(山口市)においては市議会の議決にもとづき市長名義の約束手形により金融機関から一時借入をしていた等の事実関係のもとでは、A市長のした本件約束手形の振出行為は、同市長が職務の執行についてしたものであるとの原判決の判断は、当審も正当としてこれを肯認しえないわけではない。

 原判決には、所論のような違法があるとはいいがたく、所論は採用しがたい。

 同第二点について。

 原判決挙示の証拠によると、所論の点に関する原判決の認定した事実は肯認しえないでもなく、右認定した事実関係のもとでは、Aの不法行為により被上告人において合計金二七一万九、〇〇〇円相当の損害を蒙つた旨の原判決の説示は、当裁判所も正当としてこれを是認することができる。

 この点について、原判決には、所論のような違法はなく、所論は、結局、原審の専権に属する証拠の取捨・選択、事実の認定を非難するか、または、原審の認定しない事実を前提としてこれを非難するものであり、採用しがたい。

 同第三点について。

 不法行為による損害賠償額の算定に当り過失相殺をする場合において、過失をしんしやくして減ずべき損害賠償額の範囲は事実審たる原審の裁量に属すると解すべきである(当裁判所第一小法廷判決昭和三二年(オ)八七七号、同三四年一一月二六日民集一三巻一二号一五六二頁)。そして、原判決の認定した事実関係のもとでは、原審が過失相殺により算出した損害賠償額を違法であるということはできない。

 所論は、採用しがたい。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第三小法廷

福岡飲酒運転3児死亡事故・刑法(平成19年改正前)208条の2第1項前段にいう「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」の意義

 

 

危険運転致死傷,道路交通法違反被告事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷決定/平成21年(あ)第1060号

【判決日付】      平成23年10月31日

【判示事項】      1 刑法(平成19年法律第54号による改正前のもの)208条の2第1項前段にいう「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」の意義

             2 飲酒酩酊状態にあった被告人が直進道路において高速で自動車を運転中,先行車両に追突し,死傷の結果を生じさせた事案につき,被告人はアルコールの影響により前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態にあったとして,危険運転致死傷罪が成立するとされた事例

【判決要旨】      1 刑法(平成19年法律第54号による改正前のもの)208条の2第1項前段の「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」とは,アルコールの影響により道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態をいい,アルコールの影響により前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態もこれに当たる。

             2 飲酒酩酊状態にあった被告人が直進道路において高速で普通乗用自動車を運転中,先行車両の直近に至るまでこれに気付かず追突し,その衝撃により同車両を橋の上から海中に転落・水没させ,死傷の結果を発生させた事案において,追突の原因が,被告人が先行車両に気付くまでの約8秒間終始前方を見ていなかったか又はその間前方を見てもこれを認識できない状態にあったかのいずれかであり,いずれであってもアルコールの影響により前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態にあったと認められるときは,アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させたものとして,危険運転致死傷罪が成立する。

             (2につき補足意見,反対意見がある。)

【参照条文】      刑法(平19法54号改正前)208の2-1前段

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集65巻7号1138頁

 

 

事案の概要

 1 本件は,いわゆる福岡飲酒運転3児死亡事故の上告審決定であり,刑法208条の2第1項前段(平成19年法律第54号による改正前のもの。以下同じ。)の危険運転致死傷罪の構成要件である「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」で自動車を走行させたか否かが争われた事案である。

 危険運転致死傷罪に係る公訴事実の要旨は,被告人は,アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で,夜間,海上の直線道路を時速約100kmで自動車を走行させたことにより,自車を先行車両に追突させ,その衝撃により先行車両を海中に転落・水没させ,先行車両に乗車していた幼児3名(1歳ないし4歳)を死亡させ,その両親にもけがを負わせたというものであった。被告人はこのほか道路交通法違反(救護・報告義務違反)の事実でも起訴された。

 

 

平成二十五年法律第八十六号

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律

(危険運転致死傷)

第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。

一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為

二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為

三 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為

四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

五 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為

六 高速自動車国道(高速自動車国道法(昭和三十二年法律第七十九号)第四条第一項に規定する道路をいう。)又は自動車専用道路(道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第四十八条の四に規定する自動車専用道路をいう。)において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為

七 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

八 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

 

 

第6章 取消権を行使した消費者の返還義務

民法(平成29年改正前)第121条の2第1項の規定にかかわらず、消費者契約に基づく債務の履行として給付を受けた消費者は、消費者契約法の規定により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消した場合において、給付を受けた当時その意思表示が取り消すことができるものであることを知らなかったときは、当該消費者契約によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負うこととした。(第6条の2関係)

 

新設された取消権を行使した消費者の返還義務の範囲の規定とは

 不当勧誘による取消権を行使した場合の消費者の返還義務の範囲につき、民法703条を適用すれば足りるとの考えから、これまでは、消費者契約法に特段の規定は設けられていませんでした。

 もっとも、今般、改正法により、その返還範囲について、現に利益を受けている限度とする旨の規定が新設されました(改正法6条の2)。なお、この規定は、改正民法が成立した際に、同改正法と同じ日に施行することとされています(附則1条2号)。

 

(取消権を行使した消費者の返還義務)

第6条の2 民法第121条の2第1項の規定にかかわらず、消費者契約に基づく債務の履行として給付を受けた消費者は、第4条第1項から第4項までの規定により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消した場合において、給付を受けた当時その意思表示が取り消すことができるものであることを知らなかったときは、当該消費者契約によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

 

規定により消費者の返還義務はどう変わるのか

 上記規定は、民法改正案121条の2が、有償契約が無効・取消しとなった場合の返還義務の範囲につき、「原状に復させる義務を負う」としていることを踏まえて新設されたものです。

 例えば、以下のような事例(第22回消費者契約法専門調査会資料1より引用)を想定します。

 

(事例4)

消費者が、事業者から、ダイエットサプリメント5箱を1箱1万円(合計5万円)で購入したが、2箱(2万円分)を費消した後になって、事業者による勧誘の際に、当該ダイエットサプリメントに含まれる成分の副作用に関する不実告知があったことが判明したので、消費者が取消権を行使した(当該ダイエットサプリメントの費消により、他の出費が節約されたという事情はなく、また、当該ダイエットサプリメントには、1箱1万円の客観的価値があるものとする。)。

 この事案において、民法改正案121条の2が適用されると、事業者は、消費者に対し、ダイエットサプリメント2箱の客観的価値(2万円)の返還請求権を有することになります。

 

 そして、事業者としては、当該返還請求権と消費者が有する代金(5万円)返還請求権とを対当額で相殺すると考えられますが、その結果、消費者は、不実告知を理由に当該消費者契約を取り消したにもかかわらず、費消したサプリメント2箱の対価(2万円)を支払ったのと同様の結果となってしまいます。

 これでは、取消権を認めた趣旨が没却される結果となりかねませんので、このような事態を防ぐべく、改正法では、不当勧誘による取消権を行使した場合の消費者の返還義務の範囲につき、現に利益を受けている限度とされました。 改正法にしたがえば、事例4の場合において、消費者はダイエットサプリメント3箱分を返還すれば足り、費消したダイエットサプリメント2箱の客観的価値(2万円)を返還する必要はないことになります。

 ただし、この規定は、民法改正に対応するため新設されたもので、善意の消費者の返還義務の範囲が現存利益に限定されている現状に比して、事業者側の負担が特段大きくなるというものではありません。

 

民法826条の利益相反行為と行為の動機

 

 

持分移転登記抹消登記手続履行請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和34年(オ)第1128号

【判決日付】      昭和37年10月2日

【判示事項】      民法826条の利益相反行為と行為の動機

【参照条文】      民法826

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集16巻10号2059頁

 

 

民法

(利益相反行為)

第八百二十六条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人等の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人西原要人の上告理由について。

 親権者が子の法定代理人として、子の名において金員を借受け、その債務につき子の所有不動産の上に抵当権を設定することは、仮に借受金を親権者自身の用途に充当する意図であつても、かかる意図のあることのみでは、民法八二六条所定の利益相反する行為とはいえないから、子に対して有効であり、これに反し、親権者自身が金員を借受けるに当り、右債務につき子の所有不動産の上に抵当権を設定することは、仮に右借受金を子の養育費に充当する意図であつたとしても、同法条所定の利益相反する行為に当るから、子に対しては無効であると解すべきである。

 原審確定の事実によれば、上告人等に対して親権を有する母である訴外Aは、上告人等の法定代理人として、上告人等を代理すると共に、同人も亦共同債務者となつて、昭和二七年四月一日訴外B株式会社より金六万円を借受け、その債務につき原判示家屋並に土地の各持分(上告人等名九分の二、訴外A九分の三)の上に原判示抵当権設定登記及び変更登記を経由して居るのであつて、右共同債務は、上告人等及び同女が平等に分割して負担するものであること、多言を要しない。

 されば、右借財の意図が同女自身の営業資金に充当するにあつたこと、所論の通りであつたとしても、同女が上告人等を代理して上告人等の名において前記金員を借受け、かつその債務につき上告人等の右持分の上に抵当権を設定したことは、民法八二六条所定の利益相反する行為に当らないのであつて、上告人等に対して有効である。さればとて、同女が上告人等の法定代理人として、前記債務の内同女自身の負担部分につき上告人等の前記持分の上に抵当権を設定したことは、仮に借受金を上告人等の利益となる用途に充当する意図であつたとしても、同法条所定の利益相反する行為に当るから、上告人等に対しては無効であるとなさざるを得ない。即ち、本件不動産の所論任意競売は、設定行為が有効なものと無効なものとを包含する抵当権の実行としてなされたものであること、明白である。

 しかしながら、上告人等の負担する各債務については訴外Aの前記持分のほか、上告人等の前記持分の上にそれぞれ有効な抵当権が存在し、これを併わせると本件家屋並に土地の全部について任意競売を実施できる関係にある以上、右任意競売において、右家屋並に土地は、何れも被上告人が最高価競落人となつて競落せられ、その競落許可決定が確定したのであるから、右不動産の所有権は、何れも被上告人に帰属して居るものとなさねばならない。

 それ故、上告人等が本件不動産の自己持分は、被上告人の所有に移つて居らないとの理由により、被上告人に対し本訴請求に及んだことは、失当である。前記債務の内訴外Aの負担部分につき本件不動産の上告人等の持分の上になされた抵当権設定定行為を有効であるとした原判示は、民法八二六条の解釈を誤つたものであること、所論の通りであるけれども、原審が上告人等の請求をすべて排斥したのは、結論において正当であるに帰着する。

 論旨に、結局、理由がない。

 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第三小法廷