山口市事件・市長と約束手形振出権限の有無 約束手形金請求事件 最高裁判所 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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山口市事件・市長と約束手形振出権限の有無

 

 

              約束手形金請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和39年(オ)第436号

【判決日付】      昭和41年6月21日

【判示事項】      1、市長と約束手形振出権限の有無

             2、市長がその権限をこえて約束手形を振り出した場合において当該振出行為を民法第44条第1項にいう職務を行なうについてされたものと認めた事例

【判決要旨】      1、市長は、市を代表して約束手形を振り出す権限を有する。

             2、市長がその権限をこえて自己のために市長名義の約束手形を振り出した場合において、市が市議会の議決に基づき市長名義の約束手形により金融機関から一時借入をしていたなど原判決確定の諸事実(原判決理由参照)のもとにおいては、市長の前記振出行為は、民法第44条第1項にいう職務を行なうについてされたものというべきである。

【参照条文】      地方自治法(昭和38年法律第99号による改正前のもの)147

             地方自治法170

             地方自治法239の2

             地方自治法147

             民法44-1

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集20巻5号1052頁

 

 

事案の概要

 本件は、山口市長が自分の債務弁済のために山口市長名義で約束手形を振り出し、そのために山口市が右手形の所持人から、その責任を追及された事件であって、この種の一連の事件のうち、最高裁としてはじめて示した判断である。

 

 

地方自治法

第二款 権限

第百四十七条 普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を統轄し、これを代表する。

 

第百七十条 法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、会計管理者は、当該普通地方公共団体の会計事務をつかさどる。

② 前項の会計事務を例示すると、おおむね次のとおりである。

一 現金(現金に代えて納付される証券及び基金に属する現金を含む。)の出納及び保管を行うこと。

二 小切手を振り出すこと。

三 有価証券(公有財産又は基金に属するものを含む。)の出納及び保管を行うこと。

四 物品(基金に属する動産を含む。)の出納及び保管(使用中の物品に係る保管を除く。)を行うこと。

五 現金及び財産の記録管理を行うこと。

六 支出負担行為に関する確認を行うこと。

七 決算を調製し、これを普通地方公共団体の長に提出すること。

③ 普通地方公共団体の長は、会計管理者に事故がある場合において必要があるときは、当該普通地方公共団体の長の補助機関である職員にその事務を代理させることができる。

 

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人小河虎彦、同塚田守男、同松永芳市の上告理由第一点について。

 所論は、まず、地方公共団体の長たる市長には約束手形を振り出す権限がない旨をいう。

 しかし、約束手形は一定金額を一定期間後に支払うことを約束するものであるから、その振出は、現金の支払自体ではなく、出納官吏の権限に属するものとはいえず、その現金支払の原因たるべき行為として、地方公共団体の長の権限に属するものと解するのが相当であり、市長たるAは、法定の制限のもとに、上告人(山口市)を代表して約束手形を振り出す抽象的権限を有するというべきであるから、この点に関する原判決の判断は、当審も、正当として是認することができる。

 つぎに、所論は、A市長のした本件約束手形の振出は同市長の職務の執行についてなされたものでない旨をいう。

 しかし、原判決が、その挙示の証拠により、適法に認定した事実、とくにA市長が法定の制限のもとに、上告人(山口市)を代表して約束手形を振り出す抽象的権限を有し、かつ、上告人(山口市)においては市議会の議決にもとづき市長名義の約束手形により金融機関から一時借入をしていた等の事実関係のもとでは、A市長のした本件約束手形の振出行為は、同市長が職務の執行についてしたものであるとの原判決の判断は、当審も正当としてこれを肯認しえないわけではない。

 原判決には、所論のような違法があるとはいいがたく、所論は採用しがたい。

 同第二点について。

 原判決挙示の証拠によると、所論の点に関する原判決の認定した事実は肯認しえないでもなく、右認定した事実関係のもとでは、Aの不法行為により被上告人において合計金二七一万九、〇〇〇円相当の損害を蒙つた旨の原判決の説示は、当裁判所も正当としてこれを是認することができる。

 この点について、原判決には、所論のような違法はなく、所論は、結局、原審の専権に属する証拠の取捨・選択、事実の認定を非難するか、または、原審の認定しない事実を前提としてこれを非難するものであり、採用しがたい。

 同第三点について。

 不法行為による損害賠償額の算定に当り過失相殺をする場合において、過失をしんしやくして減ずべき損害賠償額の範囲は事実審たる原審の裁量に属すると解すべきである(当裁判所第一小法廷判決昭和三二年(オ)八七七号、同三四年一一月二六日民集一三巻一二号一五六二頁)。そして、原判決の認定した事実関係のもとでは、原審が過失相殺により算出した損害賠償額を違法であるということはできない。

 所論は、採用しがたい。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第三小法廷