映画『石岡タロー』、都へ行く | 脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

テレビアニメ、ドラマ、映画と何でも書くシナリオライターです。
24年7月テレビ東京系で放送開始の「FAIRYTAIL」新シーズンに脚本で参加しています。
みんな観てねー。

 

 快挙と言っていい。

 このブログで以前に紹介した映画『石岡タロー』が、遂に東京での公開にこぎつけた(詳しくは23年12月14日の記事「日本映画の壁を突破し続ける、「映画『石岡タロー』という名の勇者」をご覧ください)。

 今年の3月29日から、池袋シネマ・ロサにて2週間公開される。都内や近県に在住の皆さん、機会があればぜひ劇場へ足をお運びください(時期がちょうど春休みだし)。

 

 数十年前に茨城県であった、健気な保護犬にまつわる実話の映画化で、監督・脚本は石坂アツシ。彼の自然体の演出が存分に発揮され、いわゆるタレント犬では出せないごく自然な犬の表情を丹念に積み重ねる事で深い感動を呼ぶ映画である。

 公開の目処が立たないまま監督の執念で映画化が実現し、その後、昨年のご当地茨城での公開を皮切りにじわじわと他県数カ所で上映実績を重ね、この度遂に東京での公開にこぎ着けた。だが、映画の持つ実力は折り紙付きで、海外の様々な映画祭で何と最優秀作品賞五冠に輝いてもいる。

 

 「東京東京って、何をそんなに騒いでいるの?」

 と思われる方もいらっしゃるかもしれない。私とて、長年「(映画に限らず)東京一極集中はいかがなものか」と思ってきた一人である。

 しかし、こと映画に関しては、東京での公開実績はひじょうに重要で、これがあるとないとでは今後の営業展開(さらに全国一斉公開まで規模を広げる事)に大きく影響してくる。映画の興行とはそういうもので、たとえばこれは洋画の例だが、昭和の頃は新作はまず東京(または東京と大阪)のみで公開され、次に五大都市(東京、大阪、札幌、名古屋、福岡)に拡大され、その後全国の劇場に散っていくというのが絶対的なパターンだった。「全国一斉公開」が始まったは1975年の「タワーリング・インフェルノ」からで、その後時を経てシネコンの定着によりようやく全国一斉公開が通常の形態となった。

 が、今なお、最初に東京で公開されない商業映画は、絶無とは言わないが極めて少ない。

 そんな中、この『石岡タロー』は、1975年まで定番だった東京→五大都市→地方劇場の逆ルートをたどる形で、茨城から公開をスタートさせ、少しずつ他県での公開を散発的に展開していき、今度東京での初公開となった。

 

 私が最初に「快挙」と書いたのはこの、逆ルートで東京へ上り電車のように進出していった経路もさる事ながら、こうした躍進を支えたのが、おそらくは映画の持つ純粋な「力」にあったという点。

 以前に石坂監督と食事をした時、彼は言っていた。

「今の時代、SNSでの拡散、つまり昔で言う『口こみ』はとても重要だと思うんです」

 映画の内容がよければ、それを観た観客がSNSに「面白かった」と投稿し、自然に拡散していく。その拡散がやがて話題としてふくらみ、観客動員が増えていく。そういう意味である。

 しかしこれは、あくまで「内容がよければ」という前提付きの話で、平たく言えば面白くなければ拡散はしないし、仮に拡散しても「つまらなかった」というマイナスの拡散現象が起き、逆効果になってしまう。

 その点、映画『石岡タロー』は完成度が文句なしで、観た人はおそらくかなりの確率で「面白かった」と思うと、私は確信している。わかりやすく、自然で、わざとらしくなく、深い感動と余韻が残る、そういう映画である。このような複合的な「力」がお客さんにインパクトを与え、プラスの拡散効果が出、その効果により他県にまで公開の輪が広がり、それが東京にまで伝搬してきた、それが実相なのだと思う。

 

 勿論、その裏では、石坂監督と彼をサポートするチームの血の滲むような苦労と努力があったのも私は知っている。監督自らが、完成後にあちこちの劇場に行脚をして「この映画を上映してくれませんか?」と営業したのだから、並大抵の労力ではない。だがこれも、あくまで内容がよければ先方の映画館が話に乗ってくれる訳で、つまらない映画を持って歩いて営業しても成果など出せるはずもない。

 『石岡タロー』は、監督とスタッフのこの努力、クラファンで集めた「全国公開に向けた営業展開用の資金」、そして映画そのものの持つ魅力、この三点セットで行脚を続けたのである。

 異例中の異例と言っていいのではないだろうか(もし、同様の努力を過去にして成功した、あるいは現在同様の営業をしている映画があれば、ごめんなさい、後に訂正させていただきます)。

 

 私はプロの脚本家になるずっと前、十代の頃から「大ヒット映画が必ず面白くて良作だとは限らない」と思ってきた。無論、中には当たりに当たった上に内容も素晴らしい映画は多々ある。が、そうでないものもある、という事だ。

 プロになってからは自戒の意味もこめて、「当てるコケる以前に、いかに面白いものを作るかに集中すべき」と念じながら仕事をしてきた。

 そして、こうも願ってきた。

「誰が観ても面白い良作には、何としてもヒットしてほしい。その現象が次の良作を産み、ひいてはその良作のヒットがさらに映画の観客動員数を伸ばす」

 と。

 今や映画はすっかり配信中心の時代に入っているが、そうはいっても最初は映画館で上映するからこそ『映画』と呼ばれる訳で、ものにもよるが配信で観た時に「これは映画館の大きなスクリーンで観ておけばよかったな」と感じる映画も時にある。映画『石岡タロー』も映画館で観れば必ず心に響くその「大きさ」が配信とは違うはずで、私はまだ試写会時の同時配信でしか観ていないので(会場が茨城県だったので仕事の都合で現地の映画館の試写会に行けなかった)、東京ではぜひ劇場で観ようと思っている。

 勿論今どきなので、いずれは『石岡タロー』も配信される時が来るだろう。

 だがその前に、ようやく東京公開が実現はしたものの、まだまだ「全国公開」という壁がそびえ立っている。この壁を突破してこその、「地方発信の一映画の成長物語」は完結するのだし、配信はその後にやってくるべきものだ。

 

 『石岡タロー』なら、それをやってのけてくれると信じている。

 何故なら、繰り返しで恐縮だが、紛れもない良作だからである。常日頃願っている「良作こそ当たってほしい」という私の想いは、全国公開に成功した時、初めて満たされるのだと思う。

 

 がんばれ、石坂監督、がんばれ、タロー。

 

 皆さんの映画館での鑑賞とその後の拡散が、これまで以上に全国公開実現の重要な鍵になってきました。

 

 どうぞご声援のほど、よろしくお願いいたします。

 なお、映画の詳細をお知りになりたい方は、下のハッシュタグ#石岡タローからご覧になれます。