脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

あれこれなんでも脚本屋です。ほんとに何でも書きます。

主な作品


<アニメ>


 テニスの王子様/BLEACH/るろうに剣心 追憶編/FAIRY TAIL

 新世界より/ポケットモンスターAD/同DP/ZOIDS WILD


<映画>


 交渉人真下正義/ヤッターマン/劇場版 龍が如く


<ドラマ>


 逃亡者木島丈一郎/深夜も踊る大捜査線FINAL/ショムニ/大奥


 その他多数


テーマ:

 

 昨夜遅く、帰省中の同居女子からほろ酔いの声で電話が来た。

「まさし~、元気~?」

「元気だよ」

「ま~た、映画見てるの~?」

「見てるよ。今、2本目。あんまり面白くない」

「ふ~ん」

 後は「お酒を飲まないようにね~」とか(電話口でそう言っている本人がほろ酔いでは世話はないが)、「ベランダのきゅうり、大きくなった?」とか他愛のない話で終えたが、電話を切った後、ここのところずっと続いている「録画した映画を毎日3本見る」という作業が、少し億劫になってきているのを感じた。3本見て3本ともつまらないと疲労するし、それが数日も続くとさすがに辛いものがある。

 昨夜は3本目がフランス映画のかつての秀作、61年の「かくも長き不在」だったからまだしもだったが、その前に見た2本はひどい出来だった。

 そして、「かくも長き不在」を見終わった時に、ある事を思い出した。

 かつての、名画座3本立てについて、である。

 

 これまで何度か書いているが、まだビデオがなかった頃、名画座は見逃している作品や往年の名作を見るには絶好の場所で(というより他に手段がなく)、私のような映画小僧にはありがたい存在だった。70年代当時で、300~500円の料金で2、または3本の映画が見られたのだ。もちろん入れ替え制ではなかったから、その気になれば一日じゅう映画館にいる事も可能だった。

 よく行った名画座は2本立てが多かったが、時に3本立ての劇場にも行った。

 これは80年代だったが、上で書いた「かくも長き不在」は、三鷹駅近くの商店街にあった「三鷹オスカー」という3本立てで有名な名画座で見た。この映画とジャズ映画の名作「ラウンドミッドナイト」、「田舎の日曜日」(「ラウンドミッドナイト」と同じベルトラン・タベルニエ監督作)だった。ロードショーで見た「ラウンドミッドナイト」があまりに良かったのでもう一度見ようと思い、三鷹までこの3本を見に行ったのだが、他の2作も素晴らしく、何だかとても得をした気分になった。

 3本立ての名画座は野放図にバラバラなジャンルの3本を上映していたのではなく、3本通して緩やかなつながりというかテーマがあり、それはどこの名画座もそうだった。この時の「三鷹オスカー」で言えば、フランス映画の名匠タベルニエ監督の2本+古いが今見ても見事な「かくも長き不在」がくっついていて、つまりは「フランス映画の文句なしの名作3本」という、ざっくりとしたくくりになっている。

 若かった私はいつも、そこに「館主のポリシー」とどとこなく文化的な香りを感じていた。

 

 さかのぼって70年代の10代だった頃は、都内にこうした3本立ての名画座がいくつもあり、どこもよく行った。

 全てをあげていくとキリがないので館名は割愛するが、今思うと印象的な3本立てが多かった気がする。だいたい、あれから40年近くがたっているのに、その3本の組み合わせをいまだに覚えているのだから、物忘れのひどい私にしてはただ事ではない。

 第二次大戦中、戦火を逃れてフランスの田舎に疎開した医師の一家が、しかし駐屯していたナチによって母と娘が殺されてしまい、夫であり父である医師が1人でナチの部隊に復讐を挑む「追想」、アラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラ、ジョアンナ・シムカスの何度も見た「冒険者たち」、ルイ・マル監督の、これも戦争が題材の青春映画「ルシアンの青春」という3本を見た記憶がある。どれも面白く、お尻が痛くなるのを除けば幸せな時間だった。

 

 3本立ては何しろ全部見るのに時間がかかるので、日曜日に午前10時くらいの初回から見て、3本目が終わるとだいたい午後の3時半か4時、つまり家に帰ろうと電車に乗るのがもう夕方だった。それでも、「追想」「冒険者たち」「ルシアンの青春」と日がな一日フランス映画の名作を見た後では、若かったせいもあるのだろうが(当時は高校生)、疲れなどまったく感じなかった。

 

 ある時は、「フレンチ・コネクション」「フレンチ・コネクション2」+「重犯罪捜査班 セブン・アップス」というのも見た。

 これには上で書いた「館主のポリシー」が濃厚にあり、一見つながりのないように見える刑事アクションの「セブン・アップス」は、しかしプロデューサーが「フレンチ・コネクション」と同じ人で、しかも主演はやはり「フレンチ・コネクション」でジーン・ハックマンの相棒を演じたロイ・シャイダー(当時は「シェイダー」と言っていた)である。

 かと思えば、今や内容はすっかり忘れてしまったがサスペンス物の「マルセイユ特急」、ドン・シーゲル監督の小品だがぴりりとよく出来たアクション物「ドラブル」、それにケネディ大統領暗殺の裏側を初めて大々的に描いた「ダラスの熱い日」という3本もあった。「館主のポリシー」から言えば「ダラスの熱い日」だけは多少ずっこけてしまっている感もあるが、ぎりぎり「サスペンス」というくくりと言えば言える。

 思えば、それなりに同類の映画を3本も集めてきて、それを1週間か2週間で次のプログラムに変えていくのだから、館主の苦労も相当あったのだろうと思う。この3本の中に無理くり「ダラスの熱い日」を入れている辺りに、往事の館主の苦労が忍ばれる。

 さらには、最近見返して「まー、よくも撮ったものだな」と感心したカー・チェイス映画「バニシングin60」(何とカー・チェイスが延々40数分続き、これは未だに破られていない「カー・チェイス最長記録」だそうである)、70年代によくも古いプリントを引っ張り出してきたものだと思ったマイケル・ケイン主演(後にリメイクされた)の「ミニミニ大作戦」、ディズニーの実写映画でフォルクス・ワーゲンが走りまくる「ラブ・バック」なんていうのもあった。テレビでしか見た事がなかった「ミニミニ大作戦」が見たくて行ったのだが、高校生は遠慮がないので「別にかわいい『ラブ・バツク』はいらないんだけどな」と思いながら、それでも見た。

 一応、ぎりぎりカー・チェイスつながりでは、ある(笑)。

 

 ただ、思うのは……。

 当時の3本立てを見に行くと、こちらが10代でとにかく何でも見たい年頃だったせいもあったのかもしれないが、3本のうちの最低でも1本は必ず面白かった。今、私が少々うんざりしているような「3本ともつまらなかった」という記憶はなく、そう考えると無邪気なものだったなとも思える。勿論、今は録画した映画を家でだらだらと見ているのだから、見る気満々で日曜の朝から夕方まで名画座の固い椅子に座っていた時とは見る環境がまるで違うので、この両者を単純に比較する事はできないのだが。

 もしかすると、そこにも「館主のポリシー」があったのかもしれない。

 3本を組むに当たって、まずは文句なしに面白い1本を決める。それからその作品に類するジャンルの2本を選び、時に1本だけ無理くりなくっつけ方でもよしとする。

 中学生から高校生時代の私は、こうしたプログラムの組み方のお陰で、「3本立てに行けば必ず1本は面白い」と感じていたのかもしれず、だとすれば、あの頃の館主の皆さんには感謝するしかない。今は自分でランダムに選んだ3本を立て続けに家で見るだけだから、そこに「文句なしの1本」が存在しない日もあり、故に「あー、今日も全滅だった」という状態になっているのかもしれず、たいていの映画は見ていますなどと威張っていても、所詮は興行のプロでも何でもないから、70年代の館主には到底及んでいないという側面があるのかもしれない。

 いずれにせよ、どの3本立ても、若かった私には至福の時間であった事は間違いない。間違いなく、今の仕事に活きていると思う。

 ネットで「名画座 3本立て」と検索してみたら、今はそういう映画館はないらしく引っかからなかった。浅草に時代劇や任侠映画を専門に組む3本立ての映画館がわずかに残っているそうだが、ここは昔からずっとそうだし、上記のタイプの名画座とは少し趣旨が違っている。してみると、3本立て名画座は、今はもうなくなってしまったのかもしれない。

 

 毎日家で映画を見続け、3本目を見終える頃になると、我が家のベランダから見える景色は上の写真のようになる。

 明け方である。

 かつて名画座で3本立てを見ていた頃とは昼夜が逆転している訳だが、歳のせいなのか、あの名画座の数々の3本立てを懐かしく思い出した昨夜、いや、正確には今朝がただった。

 まるでカラオケで懐メロ(死語?)を歌うかのように、懐かしい気がした。

 

 さ、今夜は何を見ようか。

 

 いっそ、私も「館主のポリシー」に挑戦してみようか。

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