1LDKの空 | 脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

テレビアニメ、ドラマ、映画と何でも書くシナリオライターです。
24年7月テレビ東京系で放送開始の「FAIRYTAIL」新シーズンに脚本で参加しています。
みんな観てねー。

 

 皆様、あけましておめでとうございます。

 本年も同居女子ともどもよろしくお願いいたします。

 

 昨年の話になってしまうが、暮れに久しぶりに大学時代の友達二人と会って食事をした。前に会ったのは『シン・ゴジラ』が公開された直後だったので(詳しくは2016年8月21日の『三人の侍』をお読みください)、ずいぶん長く会っていなかった事になる。

 三人とも学生の頃から大の映画好きで、そのうちの一人が、『シン・ゴジラ』の時に続いて、『ゴジラ-1.0』の公開直後に数年ぶりにメールを送ってきた。「今度のゴジラ、観た?」というメールである。

 不思議なヤツで、何故か邦画の新作ゴジラが公開された時だけ連絡してくる(先日の食事の時に本人に聞いたら、ハリウッドのゴジラは観ないのだと言う)。

 彼ら二人は私と違って特別ゴジラ好きという訳ではないのだが、そこは三人とも同い年の昭和男子なので、ゴジラはやはり気になる存在、という事なのだろう。特にメールをしてくる彼は昔から飛行機好きのメカ好きで、絵もうまくメカを達者に描く。どうも、ゴジラそのものよりは、ゴジラに立ち向かう人間側が駆使するメカが好きらしい。今回のゴジラは大戦中の幻の試作機『震電』が登場したので、そこがツボだったのかもしれない。

 

 で……。

 三人で学生の頃と同様映画の話で笑ったり騒いだりしている時、ふと思いついて私が言った。

「実はさ、オレも子供の頃からずっと飛行機好きなんだよね」

「え……?」

 彼らは口を揃えてそう言い、ポカンとしている。そして「最近飛行機模型にハマっててさ」と言い、私がスマホに保存してある完成した模型の写真を見せると、さらに驚いた様子だった。そのうちの一人など、まるで下手な芝居のように持っていた箸をポロリと落としそうになったくらいである。

 その、箸を落としそうになった友人が言った。

「そんなの、学生の頃から一回も聞いてないぞ」

「別に秘密にしてたんじゃないんだよ。誰にも聞かれなかったから言わなかっただけ」

 と、私。

「へー……」

 また二人の口が揃った。

 

 前にもチラッと書いた気がするのだが、仕事仲間の間でも、私と飛行機模型というものがイメージとしてどうも結びつかないらしく、いつも上記と同じ反応をされる。仕事で長い付き合いになる人ほど驚くから、やはり、私が飛行機好きだったり模型を作るなどとはにわかには信じがたいらしい。

 

 上の写真は現在無職の(笑)私の仕事机の上で、今は、昨年の夏から仕事の合間にずっと作っているF-14Aトムキャットの細部を面相筆で塗装している最中。なので塗料が乱雑に並んでいる。

 「トップガン」でおなじみのトムキャットは、作っていて実に楽しい機体なのだがどうにも複雑かつパーツがたくさんあり、作っても作っても終わらない。昨年の初秋、同居女子に「それ、いつ頃完成するの?」と聞かれた時は「今年(2023年)の11月くらいかな」と言っていたのが、聞かれる度に12月になり、クリスマスになり、最後は「大晦日くらいかな……」と言ったにも関わらず、遂に年を越してしまった。

 今はもう細かい仕上げに入っているからさすがに今月中には終わると思うのだが、それにしても気の長い作業である。

 

 最近、飽くことなく飛行機模型を作りながら、

「なんでこんなに楽しいんだろう」

 と自問自答したりする。

 無論、昔からの飛行機好きという面はある。

 だが、どうもそれだけではない気がする。

 模型が完成すると、当然それを部屋に並べて飾っておくのだが、狭い1LDKのリビングの一角に並ぶそれらは、ずっと眺めていても飽きる事がない。今は私は酒は飲まないが、もし飲んでいたら、つまみなどなくとも飛行機模型を眺めながら何時間でも飲んでいられると思う。

 

 これも繰り返し書いてきたが、脚本家という職業柄、仕事中の私はいつもバーチャルな世界の中にいる。自ら造り出した空想の舞台に入り込み、登場人物になりきって脚本を書く。つまり、VRの世界に容易に出たり入ったりする事が長年の間に習い性になっている。

 仕事ではなく飛行機模型を作っている時も、私はVRの大空にいる。そして、自分が今作っている機体に乗り、どこまでも続く空を自在に飛び回っている、そんな感覚がある。

 その時、私の住む1LDKの狭いマンション内は広大な青空と化し、時には雲の中に突っ込み、時には太陽を背に飛翔し、背面飛行まで試みたりする。

 普通の人が聞いたらただの変人にしか思えないだろうが、多少自分を正当化すると、物書きの空想癖は仕事の時だけにとどまらない、という事なのだろう。

 

 今日は元日だが、故に特にする事もないので日がな模型の塗装をちまちまと続ける事になるだろう。

 そしてその間、私は「1LDKの空」を飛び続ける。

 それは私にとっては至福の時間で、何ものにも代えがたい。

 

 新年早々どうでもいい記事になってしまったが……。

 

 仕事でも、模型作りでも、今年もまた、私は空想の空を飛び続けるのだろう。

 

 「そんな61歳がいてもいいじゃないか」

 

 と思う、2024年の元旦、である。