シリーズ構成のみ、引退します | 脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

テレビアニメ、ドラマ、映画と何でも書くシナリオライターです。
24年7月テレビ東京系で放送開始の「FAIRYTAIL」新シーズンに脚本で参加しています。
みんな観てねー。

 

 上の写真は近所の小綺麗な遊歩道である。

 途中でカーブしていてその先は見えない。だが、上空には雲はあるものの青空も見える。

 あれは私の未来を暗示しているのだろうか。

 

 毎週日曜日午前9時からフジテレビ系で放送中のTVアニメ「デジモンゴーストゲーム」。

 明日3月26日の放送は第67話、約一年半に渡って放送してきたシリーズの最終回。この作品のシリーズ構成を務めつつ、最終回の脚本も担当した。

 

 これまで何度も書いているが、このブログを初めてお読みになる方もいらっしゃるだろうから、重複を承知で書いておく。

 TVアニメのシリーズ構成とは、手っ取り早く言えば脚本家チームのまとめ役、チーフ的存在を指す。

 何故「チーム」なのかと言えば、大量の回数を作らなければならないTVアニメのシリーズは到底一人の脚本家だけでは人数が足りず、通常4~5人の脚本家が集り「脚本家のチーム」を作り、皆で各話を分担して脚本を書く。その場合、様々な個性を持つ脚本家の集団だから、当然個々が書いてくる脚本にはその人の個性がにじみ出て、微妙に異なるテイストの脚本が集まる事になる。

 だがそれでは、毎週同じアニメを放送しているにも関わらず、回によってまるで別のアニメのようになってしまう可能性もあり(大袈裟な例えだが、『ドラえもん』を放送しているはずが、ある回だけ『名探偵コナン』のようになってしまったり、という事)、それでは困るので、シリーズ構成というまとめ役、というかその集団の中のリーダー的脚本家を決め、その人が皆の脚本をチェックし、「キャラの個性や台詞回しが基本設定から少しブレているので修正してください」とか、「この二人のキャラのやり取りはシリーズのテイストにそぐわないのでこう修正してください」などと指示を出し、全話が同じテイストになるようにし、複数の人間が書いていながらあたかも一人の脚本家が書いているかのように全体のトーンを統一して仕立て上げていく。

 これが、いわゆるシリーズ構成という職種である。無論、第1話やシリーズ途中のターニングポイントになるような重要回、最終回などは自らも脚本を担当する。当然、第1話から最終回までの内容も、監督やプロデューサーと相談の上で一話ずつ決めていくのも仕事の一つ。

 さらには、各脚本家の調子を常に見ていて、「今、あの人はちょっと脚本のノリが悪いな」とか、「いつもより勢いがあるな」とか、そうした微妙な点も考慮し、「じゃあ次の回は他のあの人に頼もう」、または「いつもはあの人はアクションの多い話が得意だが、あえてじっくり心情を見せるこっちの回を振って、意外な化学変化を狙ってみよう」などと作戦を練ったりもする。

 つまりは、自分の担当回の脚本を書いていればいいというものではなく、やるべき作業は多岐にわたり、実はかなり骨の折れる作業だ。時には監督やプデューサーと各話脚本家の一人(以下、シリーズ構成以外のこうした脚本家を、業界用語を使って『各話ライター』と称する)が内容をめぐって揉め始めたり、その他トラブルが発生したような時、その調整役も務めなければならない。

 

 私はこのシリーズ構成という仕事を、脚本家になってから9年目の1998年に依頼されるようになり、それから今日まで25年間、ちょうど四半世紀に渡って続けてきた。

 

 そして、今回の「デジモンゴーストゲーム」を最後に、このシリーズ構成という職種のみを引退する事にした。無論、今後も各話ライターは続けていくつもりなので、脚本家として完全引退する訳ではないのだが。

 

 理由は単純明快にしてただ一つ。

 かつての名横綱・千代の富士が引退会見で言ったのと全く同じ「体力の限界」である。

 昨年の秋の誕生日に還暦を迎えた事は以前の記事で書いたが、60歳ともなると上記の、多岐にわたる作業をこなさねばならないシリーズ構成のしんどさに体力がついていけなくなった。「デジモンゴーストゲーム」のシリーズ構成をお引き受けした当初、2021年の春頃には辞める気などなかったのだが、途中から、これまでシリーズ構成として経験した事のない、激しい体力の消耗を感じるようになり、なんというか、構成案を1ページ書く度に、あたかもその代償の如く残りの寿命が少し削り取られ消えていくような、そんな実感があった。比喩ではなく、本当に命が削られている感覚があるのだ。

 これではやがて集中力も維持できなくなり(ゴーストゲームの作業中はかろうじて最後まで集中力を切らさずに済んだが)、いずれシリーズ構成などできなくなる。

 それでは毎週楽しみに待っているお客さんに対して責任が保てない。そこで、「シリーズ構成のみ引退」を決めた。それ以外に理由はない。

 

 四半世紀と言えば、当時生まれた赤ちゃんが現在は既に社会人になっている月日である。

 我ながら、そんなに長い間よくもシリーズ構成というしんどい仕事を続けてこられたものだと思っている。

 長い間にはいい事も悪い事もたくさんあったが、今振り返って感じるのは、「ひとまず、四半世紀かけて、シリーズ構成としてやるべき事は全てやった」というささやかな自負。よって後悔などまるでなく、むしろ解き放たれたような爽快感すらある。

 それに、私のような還暦の初老ライターがいつまでもシリーズ構成に居座っていては、後進に道を譲る事ができないし、それではアニメも進歩していかない。世界的に人気を得た日本のアニメーションとて、現状に甘んじていてはやがては衰退していく。それを防ぎ、さらに進化させていくには、若いシリーズ構成という新たな「血」を注がなければならない。

 そう、25年前の私が「新人シリーズ構成」という名の新たな血として投入されたのと同じように。

 

 明日の最終回の放送が終わった時、どんな気分になるのかまだわからないが、少なくともシリーズ構成を後悔なく辞める以上、きっと感慨よりは安堵の気持ちの方が強いに違いない。

 「潮時」とは正にこういう事なのかもしれない。

 

 以前にも書いたが、私は脚本が書けなくなったら生きていても仕方がないと思うほどこの仕事を愛しているから、だいたい70歳くらいでこの世を去りたいと思っている。だからといって、自ら死を選んだりはしない。それでは不治の病と必死に闘っていらっしゃる方、不慮の事故で若くして逝かれた方を侮辱する事になるからだ。

 ただ、うまい具合に、その頃に病か何かでタイミングよくこの世を自然に去れればよいと漠然と考えているだけだ。今の体力の衰えを考えると、これからちょうど10年後の70歳の頃には、おそらく各話ライターとしても脚本を書けなくなる。その頃まで脚本を書く体力が残っているとは到底思えないからだ。誰しも自分の身体は自分が一番よく知っているものである。

 

 今後の10年間は、各話ライターとして全力を尽くして脚本を書いていくつもりだ。そして、もしできるならば「究極のTVアニメ脚本を各話ライターとして書く」事が、今のモチベーションになっている。そんなだいそれた目標が10年で達成できるのか定かではないが、チャレンジする価値はあると思う。

 幸い、今でも既に各話ライターの仕事をいただいて新作に参加しているので、10年後に向けた第二のスタートは既にきっている。

 

 上の写真は近所の小綺麗な遊歩道である。

 途中でカーブしていてその先は見えない。だが、上空には雲はあるものの青空も見える。

 かつては、あれが私の未来の暗示、すなわち「いい事(青空)も悪いこと(雲)もまだまだいろいろあるよ」という意味なのだろうかなどと漠然と思っていたのだが、最近は違う景色に見えてきた。

 おそらく、あのカーブは実はカーブではなく、私の人生の終着点なのだと思う。ならば、そこまで伸びている道が、私の残りの10年。意外に距離は短い。

 だが、上空に微かに見える青空が何かの象徴または暗示だとすれば、「究極の各話脚本を書く」目標も達成できるのかもしれない。てゴールにたどり着く前に、かろうじて、ではあろうが。

 という訳で、業界の皆様、まだまだ各話ライターは続けていきますので、お仕事のご依頼、どうぞよろしくお願いします(↑いい話ぶっていながら、ちゃっかり営業もしておく)。

 

 25年務めたシリーズ構成の期間、多くの方々にお世話になりました。私一人では到底続いたはずもなく、皆さんのお力と支えがあったからこその四半世紀でした。

 全てのスタッフ・キャストの皆さんに心より御礼申し上げます。

 

 最後に、私がシリーズ構成を担当したTVアニメシリーズを放送年代順に記しておく。

 彼ら作品群にも、最大限の感謝をこめて。

 

SHADOW SKILL - 影技 - (1998)

GTO (アニメシリーズ 1999~2000)

エデンズボゥイ (1999)

テニスの王子様 (2001~2003)

東京ミュウミュウ (2002~2003)

GANTZ (2004)

BLEACH (2004~2009)

ギャラリーフェイク (2005)

雪の女王 (2005~2006)

FAIRY TAIL (2009~2019 途中数度の放送休止期あり)

新世界より (2012~2013)

ドラゴンコレクション (2014~2015 笠原邦暁氏と共同)

ブレイクブレイド (TVバージョン 2014)

少年アシベ GO! GO! ゴマちゃん (2019年・第4期のみ)

デジモンゴーストゲーム (2021~2023)

ガンマモンがやってくる!「デジモンゴーストゲーム」コラボ ...

▲『デジモンゴーストゲーム』の主人公・天ノ河ヒロの相棒      デジモン・ガンマモン。最後のシリーズ構成の仕事でこんな可愛いキャラに出会う事ができた。

やっぱり、頑張ってるといい事もある。