山場 | 脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

テレビアニメ、ドラマ、映画と何でも書くシナリオライターです。
24年7月テレビ東京系で放送開始の「FAIRYTAIL」新シーズンに脚本で参加しています。
みんな観てねー。

 

 上の写真は、今やっている仕事「デジモンゴーストゲーム」の脚本作業が始まった頃、メーカーの方から参考資料としていただいた「バイタルブレス」という玩具である。劇中では、これまでのデジモンシリーズに合わせて「デジヴァイス」という名前にしてあり、主人公たちとデジモンの気持ちがシンクロするのを媒介する装置として登場し、彼らは皆、これを時計のように腕にはめている。

 

 というのは、毎週ごらんになっている皆さんにはおなじみなのでいちいち説明するまでもないのだが……。

 その脚本作業がそろそろ山場を迎えている。

 といっても、なにぶん放送中の作品なので守秘義務はあるし、まさかブログでシリーズ構成がネタばらしする訳にはいかないので詳細は書けないのだが、とにかく脚本作業は「山場」である。

 

 この、「最終局面の山場」と、「第1話の脚本を書く時」が、シリーズ構成にとっては最も緊張する時期だ。

 今さら言うまでもなく、新シリーズの放送が始まり、仮に第一話がたいして面白くなかったりすると、お客さんは次の週からは多くの人が離れてしまう。シリーズ構成としては、何が何でも来週以降も見てもらえるようにしなければならず、つまりはとびきり面白い第1話を書いてお客さんをがっちり掴む必要がある。

 とはいえ、これは30年以上やっている仕事なのに、今でも緊張するもので、「これでいいのか?お客さんは第2話も見てくれるのか?」と気をもみ、食事の時も買い物の時もそればかりが頭の中をぐるぐる回り、他の事が考えられなくなる。

 一方、そろそろ最終局面である「脚本作業の山場」となると、これはまた別の猛烈なプレッシャーがかかってくる。誰がプレッシャーをかけてくるわけでもないのだが、例えばアニメにしろドラマにしろ、長期間放送されるものは、最後がダメだと途中がいくら良くても台無し、「あの最後はないよね~」とお客さんから呆れられてしまったり、怒られたり、がっかりさせてしまう事が多い。

 よって、そうした局面に入りつつある今も、私の頭の中は「最後はどうする?!」というあれやこれやが渦巻いていて、とてもではないが他の事を考える余裕がない。何しろ、「ずっと楽しみにして見てたのに、最後はガッカリしちゃった」という反応が最も恐ろしく、挙句、そういうブーイングが殺到して私のブログやFacebook、インスタが大炎上するという悪夢まで見るようになる(これはもう、既に二回ほど見て汗びっしょりで飛び起きた)。

 シリーズ構成をやるようになった四半世紀前は、「やったるで~」的な勢いだけだったのでそこまでは考えなかったのだが、いろいろ経験を積むうちに、最初と最後の重要さが骨身にしみるようになり、よって今はまともな精神状態ではいられないのだと思う。

 

 それでも仕事だから当然乗り越えねばならない壁のようなものなのだが、いつも、「本当に行けるのか?この壁をよじ登り、無事に向こう側に飛び降りてフィニッシュを決める事ができるのか?」なる不安に苛まれる。

 当然今回も、まるで脳が「脚本という名の服を洗うための洗濯機」状態になっていて、脚本の内容が始終ぐるぐる回っていて、排水したり、洗剤を落とす水洗いをしたり、果ては脱水のために高速回転したり、あの一連が脳内でずっと続いているような気分なのだ。

 

 とは言いながら、いつも必ずどの作品も終わりは来る。私だって、このプレッシャーに負けて「もう最後は書けません!」などと放り出した事はない。なので今回も最後まで行き着くはずではあるが、それが吉と出るか凶と出るかは、脚本会議でプロデューサーや監督とさんざ話し合って「よし、これでいこう」となってもなお、放送するまではわからないのである。

 つまりこの仕事は、感覚としてかなりギャンブルに近い。もっとも、それこそがこの仕事の醍醐味でもあるのだが……。

 

 今はただ、「必ず最後の壁の向こう側までたどりつけ!」と自分に常に言い聞かせながら、日々仕事をこなしている。

 

 それでもどこかでこの仕事の醍醐味や楽しさも強く感じているのだから、我ながら「この仕事をするために生まれてきたのは間違いないな」と実感はしている。そう思えば、私はかなり幸福な人間なのだろう。

 

 「デジモンゴーストゲーム」をごらんの皆さん、これからますます面白くなっていきます。

 どうぞお楽しみに。

 

 ああ、早く休暇が欲しい……笑。