こんな時だからこそ、どう振る舞うべきか | 脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

テレビアニメ、ドラマ、映画と何でも書くシナリオライターです。
24年7月テレビ東京系で放送開始の「FAIRYTAIL」新シーズンに脚本で参加しています。
みんな観てねー。

 

 きのう、忙しい仕事の合間にネットのニュースを見ていたら、Yahoo!ニュースにこんな記事があった(以下、要約)。

「新型コロナウイルス感染症 実際に診た医師の印象」

 記事を書いたのは感染症専門医の惣那賢志氏で、国立国際医療研究センターが3例の新型コロナウイルスの治療を経た結果を報告したものを、この治療に参加した惣那氏自身がわかりやすく書いている。

 氏によれば、専門家として今回のウイルスを治療した印象として、その症状はインフルエンザよりは軽く、入院して治療すれば完治する事、予防法はこれもインフルエンザ同様マスクや手洗い、うがい、消毒が効果的である事、健康な人が感染しても重症化する事はないと判断できる、という事だ。ただし、もともと持病を持っていたり高齢の方だと重篤になる可能性が高いので、そこだけは注意してほしいとも書かれていた。

 

 以下、惣那医師のご意見を念頭にお読みいただきたいのだが。

 

 今日2月8日現在で感染症による死者が約700人、感染者が約3万人という事実があり、日本のみならず世界に、この新型の感染症に関する情報や噂が飛び交っている。数字は厳然とした事実で、世間の動揺もやむを得ないとは思う。

 しかし、惣那医師の指摘が正しいのなら、この感染症は怖れるほどのものではなく、対処を誤らなければインフルエンザよりも軽度の病気である。中国政府が武漢とその周辺の湖北省一帯を封鎖しているにも関わらず患者が日々増え続けているのは、現地の医療体制が感染拡大に追いついていないせいなのかもしれず、死者の内訳として、既往症のあった方や、ないにしても高齢だった方の割合がどれくらいなのか、その詳細な数字がわからなければ軽々には「感染拡大」とすら言えない状況がある。

 

 今、問題は、玉石混淆の情報や噂に振り回されている、「中国を外側から見ている人々」の方に、むしろあるのではないかと思っている。

 このブログでも以前から折りに触れ書いているが、現代はネットの普及によって様々な情報が無精査状態で一人歩きし、さらには昔なら口づてでのみ伝わった噂までが文章化され、これも無精査に拡散しやすい。

 結果、ヨーロッパの一部では中国人のみならずアジア人に対する差別や拒否感が出始めているという記事にも接する(これも、実際にヨーロッパ全域でどの程度顕著な現象なのかわからないので、軽々しく判断はできないのだが)。

 また、日本ではマスクが品薄になりネットに出品している業者がこの時とばかり価格をべらぼうにつり上げていたり、ロシアでも同じ現象が起きプーチン大統領が「そうした行為に及んでいるマスク販売の業者は営業資格を剥奪する」と発言したり。

 さらには、日本政府の対応が遅いという批判がだいぶ出始めていて、「他国に比べて日本は野放図に中国人を国内に受け入れている」という、ややヒステリックな指摘も散見できる。

 そんなこんなの現象に関して、私はこう思っている。

 

 人は、今回のような「平常でない時」こそ、その行動や人としてのあり方を試される。

 ヨーロッパで見られるというアジア人差別については(その規模はよくわからないものの)、感染症への恐怖が引き金となった、日頃から一部の人々がしまいこんでいたアジア人に対する蔑視の気持ちが表出したに他ならず、人の行動として問題外である。私がアジア人だからそう言うのではなく、そこにはおよそ知性というものがなく、いたずらに怯えた結果「アジア人をシャットアウトしよう」という短絡的な思考に陥ってしまっている。

 これは、惣那医師の意見のような、専門家の治療結果に基づく「今回の感染症は怖れるほどのものではない」という情報が、あまり行き渡っていないという事情が大きい。殺人ウイルスではないのだ。仮に通常のインフルエンザが蔓延した場合、それを理由に特定の人種を拒否したりはしまい。

 マスクの高騰についてはこれも問題外で、この時とばかり儲けようとしているネットへの出品業者は、猛省すべきである。中国人の知り合いから最近の「マスク事情」を聞いたところ、かの地ではマスクの不足が深刻で、実家の家族や親戚から「マスクを送ってほしい」という切実な声が届くのだという。中には商売目当てで買い占めている者もいるのだろうが、多くはこうした「実家や親戚に救援物資のマスクを送る」という動機から買っている中国人が多く、しかしあちらは何しろ日本の十倍以上の人口だから、日本にいる中国人がそうやって必要不可欠なマスクを買いに走れば、自動的に品薄になるというだけの話だ。

 先日、TBSのニュースでこのマスクの品薄が取り上げられていて、最後のコメントとして「不必要な買い占めはやめましょう」と言っていた。間違いではないが、私はそこに配慮のなさを感じる。あれではまるで中国人が「不必要な買い占めをしている」という印象を与えかねず、そうではなくやむにやまれず買っているのだという真相がまるで伝わっていない。今最も冷静に情報発信しなければならないマスコミがこれでは、人々の不安を煽るばかりで、マスコミが本来の社会的存在意義を忘れてしまっている。

 また、「日本の対応が後手に回っている」という批判に対しては、私はちょっと違う印象を持っている。

 他国では程度の差こそあれ、中国人や中国に渡航歴のある人の帰国に際してかなり「受け入れ拒否」の姿勢が早くから現われていて、確かに日本よりは厳しい措置に出ているなとは思っていた。東日本大震災の時も、これは人の流れは逆パターンだったにせよ、日本を脱出しようとする外国人がかなりの数に上った。放射能に対する恐怖からあのような事態になった訳だが、当時我々日本人は「じゃあ、当事者で日本に住んでる私たちはどこに逃げればいいのか」と、多少の違和感を感じたのも事実だった。

 現在の世界の中で、中国に地理的に近いにも関わらず日本がある程度の受け入れを続けている事について、私はそんなに対応が遅いとは思っていないし、むしろ受け入れを厳しくしている他国に比べてどこか毅然としているのではないか、と感じている。

 何故なら、上述の惣那医師の見解のみならず、こうした冷静かつ正確な感染症分析は政府も把握しているはずである。把握した上での措置が、現在の「ある程度の受け入れ」につながっているのだとしたら、それは論理的だし決して非難するようなものではない。

 完治できる感染症なら、水際対策で防ぎきれば、仮に国内で見つかっても治療すればいいだけの話だからだ。

 WHOが指摘した「医療事情の脆弱な国への感染拡大が怖い」という見解はまことに正しく、そうした国では確かに厳重に受け入れを拒否するしかないと思う。しかし、そうではない医療先進国がいたずらに怖れて厳しい入国拒否を行うようでは、それが人々の不安をさらに煽るし、ヨーロッパで散見されるアジア人に対する差別に容易につながるだろうし、なにもいい事はない。

 繰り返すが、怖れるほどの感染症ではないのである。

 

 ネットとSNSの普及で、SARSの時以上に人々が情報と噂に振り回されている。マスコミですら、それを煽る傾向にあり、今は全世界がとにかく落ち着かなければならない。同時に、感染者と死者の増え続けている中国湖北省に対し、各国や各種団体が、可能な限り医療援助チームを投入しなければならない。「健康な人なら完治する」はずの感染症で死者や感染者が増え続けているのなら、「完治させられるマンパワー」を投入するしかないからだ。

 

 とにもかくにも。

 こんな時こそ、人はその行動やあり方を問われる。

 

 それを忘れてはならない。