「それから」(1985年)「紫の女」(1984年)
1985年 日本 監督:森田芳光 原作:夏目漱石 脚本:筒井ともみ 出演:松田優作:藤谷美和子:小林薫:笠智衆:中村嘉葎雄:草笛光子 長井代助(松田優作)は大学を卒業後、定職に就かず裕福な実家からの援助で一家を構え書生まで使う優雅な暮らしぶり。じきに30歳になる代助に実家からは縁談の話が持ち込まれるがのらりくらりと逃げてしまう。ある日代助のもとに3年ぶりにかつての旧友で関西の銀行に勤めていた平岡(小林薫)が「銀行をしくじった」と帰京、就職と借家の周旋を頼みにやって来る。平岡は代助が未だに職に就かず本を読んだり音楽を聴いて過ごしているらしい生活が疎ましくもあるが代助の実家の力も当てにしている。かつて二人の共通の友人である菅沼とその妹三千代(藤谷美和子)は親しく交際しており、代助は慎ましく清楚な三千代を好ましく思っていた。が、菅沼が病死し身寄りのなくなった三千代を代助は平岡に妻合わせる。それから3年後、三千代は平岡とともに帰京した筈だがまだ姿は見せない。代助は適当な家を探し、平岡のもとを訪ねるが平岡は留守で、相変わらす美しい三千代が奥から出て来る。二人はお互いの顔を見つめたり眼を逸らしたりしながらこれまでの生活を言葉少なに語り合いしばし過ごした。精力的に動き回った平岡は新聞社に職を得、活力を取り戻したようだったが銀行の損失の穴埋めと身体の弱い三千代の医療費等で借金がかさんでいた。頼る当ての無い三千代は代助に借金を申し込むが、代助も生活費は実家頼み。家業を継いだ兄誠吾(中村嘉葎雄)に借金を申し込むが働きもせず縁談にも応じない代助の頼みは断わられ、後に代助贔屓の兄嫁梅子にこっそり工面してもらう始末だった。仕事にかこつけ身体の弱い三千代を顧みない平岡の薄情に憤慨する代助は今になって三千代を平岡に譲った(!)のは間違いだったと気づく。篠つく雨の降る昼下がり馬車を雇い三千代を迎える代助。部屋には三千代の好きな百合の花が生けてある。「僕の存在にはあなたが必要だ」と愛を打明ける代助に三千代は「残酷だわ…」と項垂れるが二人は幸福感に満ちていた。代助は平岡に告白し三千代と別れてくれと頼むが、平岡は「今すぐは病床にある三千代をやる訳にいかない」と断わる。平岡は骸となった三千代を見せるつもりだ、と代助は絶望する。また縁談を断りに行った実家で兄誠吾に匿名の手紙を見せられ「人妻に手を出すとは何事だ」と一喝、「今後一切援助はしない」と宣告される。全てを捨て、三千代と生きることをえらんだのか…代助は豪奢な実家の建物を背にし往来を歩き出すのだったーーーー。>久しぶりにブログを書きましたが、本作がオススメという訳ではありません。梅雨のどこへも行けない昼下がりにずっと借りッパになっていた本作を鑑賞しました。梅雨の季節にピッタリなイジイジヒッソリジレッタイ映画でした。だいたい一人前の女の三千代を譲るの譲られるのって何!っと今なら排斥運動が起こるかもですよ。この監督のちょっと癖のある演出は私の好みには合いませんが、園遊会、建物、室内はどこをとっても色合いが綺麗で品がありました。劇中、長田邸の居間で代助と誠吾、兄嫁の梅子とテーブルを囲んでワインを飲むシーンがあって、何かいいお家の優雅なひととき感がすごく良くて、三人とも表情がスゴくいいんです。数十年前の公開当時劇場でみた筈ですが、この場面は全く覚えていませんでした。年をとると映画の見方も変わってきますね。この映画を見てて思い出したのが同じく漱石作品をTVドラマ化した「紫の女」です。「虞美人草 まぼろしの愛に果てた紫の女」1984/01/07放送 ザ・サスペンス演出:大山勝美 脚本:寺内小春今ネットで調べたら1件だけ「テレビドラマデータベース」にありました。古手川祐子、古尾谷雅人、藤谷美和子、小林薫、石原真理子、坂東八十助、山岡久乃、石田えり、笠智衆…お正月企画だけあって豪華な出演者ですね。「それから」より少し前か同時進行な時期ですね。どちらにも藤谷美和子&小林薫&笠智衆さんが出ています。主役の古手川祐子さんはあのおきゃんな喋り方がツヤツヤした顔と相まってとてもカワイく、彼女の兄役の鬱屈して晴れない表情の古尾谷雅人さんが実に良かった。この頃26,7歳ですね。長身ですが、瘦せぎすで首がほっそりして少年ぽかった。この頃のお正月ドラマシリーズは向田邦子原作が多かったですが、良い作品ぞろいでした。残念ながらDVDになっていないんですよね。原作は「虞美人草」ですが、換骨奪胎まで言わないけれど本作の方が私の好み全面に押し出していて、多分がびがびになっているであろうビデオを捨てられないでいるのです。 物語はある財産家甲野家の一人娘藤尾(古手川祐子)が自殺した事から語られます。甲野家の女中トキにはなぜ美しい令嬢が突然毒を呑んだのか謎である。その日の甲野家はいつもにまして千客万来の賑わいで、藤尾の兄欽吾(古尾谷雅人)、藤尾に求婚している欽吾の旧友小野(小林薫)とその連れらしい若い女、従兄の宗近(坂東八十助)、その妹糸子(石原真理子)など。甲野家の主は数年前外国で亡くなり、後添いの藤尾の母親はソリの合わない欽吾を家から出し財産を独占し、藤尾と実直そうな小野を婿に取り安穏に暮らす事を夢見ていた。金に執着の無い欽吾はゆくゆくは家を出るつもりだと義母に明かすが、「それじゃあアタシが追い出すようで世間体が悪い」などと言い欽吾を辟易とさせる。そして腹違いの妹藤尾は美貌で驕慢な性格、小野や宗近青年の心を知りながら、父の形見の金鎖の付いた懐中時計を見せ、「この時計の行くところに私も一緒に付いてゆくつもりよ。おほほほほ」と二人を弄んでいる浅はかな女に見える。純情な宗近の心根を知っている欽吾はあんな女は止めておけと諌めるが逆に、宗近に妹の糸子はいいヤツでお前を好いているようだとけしかけられる。そんなおり、上野で開かれた勧業博覧会に甲野家皆で出かけた晩、ティールームで偶然小野の姿を見かける。小野は老人とその娘らしい美しい女と一緒であった。そのテーブルを見つめる藤尾は眼に見えて不機嫌になった。昼間誘ってやったのを断わったのはこの為か。プイと席を立ち帰りかけた藤尾を欽吾は追いかけた。「本気ではないのに腹を立てるのか」と問う欽吾に「生意気だわ」と怒りスタスタと行ってしまう藤尾。酔漢が藤尾に絡むのを見た欽吾はステッキを振り上げ普段の大人しやかな表情と打って変わった怒り顔で酔漢二人を撃退する。怪我をしたらしく血の滲んでいる欽吾の掌に優しくハンカチを結ぶ藤尾。そこへ宗近や糸子らが追いつくが欽吾はさっとその場から立ち去る。そんな欽吾を糸子はじっと見つめていた。小野は京都にいた学生時代の恩師(笠智衆)の娘小夜子(藤谷美和子)と結婚の約束をしていたが、卒業し上京して華やかな都会の生活に慣れ、捕らえ所の無い藤尾に魅了され小夜子が古びた過去のものに映っていた。小野は策を弄して恩師親娘を遠ざけようとしたが、小野の心ない仕打ちを知った宗近は小野に「藤尾さんといて心が安らぐことがあるか」と質す。その週末小野は藤尾と小田原へ行く約束をしていた。この時代未婚の男女が一緒に外泊する事は考えられなかった。果たして品川の駅に小野の姿は無かった。裏切られた藤尾だったがその顔は晴れ晴れとしていた。甲野家へ帰ってみると家の中が慌ただしく、見れば欽吾が父親の肖像画を壁から下ろしている。この絵だけを持って今からこの家を出ると言う。藤尾は何も見えていないかのように欽吾の前に進み「兄様に差し上げます」と金時計を欽吾に差し出す。欽吾は時計をぎゅっと握りしめたかと思うと書斎の暖炉に激しく打ちつけた。時計のガラスは粉々に砕け蓋が開いた。藤尾は声にならない悲鳴を上げ、欽吾の顔をじっと見つめるがくるりときびすを返し自室へ戻って行った。暫く後、女中がお茶を持って行き「キャッ」と悲鳴を上げてへたり込んでしまった。部屋の中では藤尾が毒を呷りすでに事切れていたーー。>見ていない方には一生見る機会が無いと思われるのに、大好きなドラマだったのでまた長々書いてしまいました。原作には無い欽吾と藤尾の結ばれる事のない恋が通奏低音として流れています。享楽的な藤尾はともかく、欽吾は父親が海外で国家機密に関わりそれ故謀殺されたのではないかと聞かされ家族間の出来事に悩まされている自分が女々しく詰らないものに思われ焦燥を感じているのです。しかし藤尾が自分への鞘当てに外の男を翻弄する姿が痛々しくて見ていられない程に愛してもいるのでもがいてもいるのです。このイライラと切ない感情を古尾谷雅人さんはとてもナイーブに演じられていました。早くに亡くなられて残念でしたが大好きな俳優さんでした。しつこく探しましたが「虞美人草 まぼろしの愛に果てた紫の女」の画像はありませんでした。あのがびがびビデオ再生してみるか。古尾谷雅人さんの「ヒポクラテスたち」と「宇宙の法則」はオススメです。