「さよなら子供たち」

 

 

1987年 フランス/西ドイツ

製作/監督/脚本:ルイ・マル  撮影:レナート・ベルタ

[出演]ガスパール・マネッス ラファエル・フェジト

 

 1944年、ドイツの占領下にあったフランス。ある駅のホームで学生らが汽車に乗り込んでいる、中にひとりべそかきで母親に甘えている12歳の少年ジュリアン(ガスパール・マネッス)がいた。休暇を終え寄宿舎に帰るのだ。寄宿舎に戻ると三人の転入生がおり背の高い黒髪の少年ボネ(ラファエル・フェジト)が同じクラスに分けられる。

 

 

ボネは積極的にはクラスに馴染もうとはしないが成績は優秀、大人びて謎めいている。ジュリアンは気になってしょうがない。ボネのもとには手紙も荷物も届かない様子。あるときふとジュリアンはボネのロッカーを覗き、本の裏に書かれた不思議な名前を見つける。ボネは皆も薄々感じているようだがユダヤ人らしいのだ。

 

ジュリアンは人を寄せ付けないボネを時々揶揄い喧嘩になったりするが日々ともに生活する中でお互い親近感を抱くようになる。

ある日の父兄参観日、ジュリアンは母との食事にジャンを招待する。レストランは大勢で賑わっていたが突然数人の男たちが物々しく入って来る。自警団よろしく”ユダヤ人狩り”をドイツ人でなくフランス人もがやっているのだ。男たちは初老の上品な客に「ユダヤ人は出て行け」と詰め寄る。この場はたまたま居合わせたドイツ人将校の取りなしによって事なきを得るが、ボネの顔は青ざめる。

共に趣味の読書やピアノの連弾など束の間ボネの表情に明るさが戻る時があったが、長くは続かなかった。

 

ある日教室に突然ナチスの秘密警察ゲシュタポが現れる。校長である神父がユダヤ人数名を匿っていると言うのだ。「ジャン・キペルシュタインはいるか」と名前を挙げられる。ボネの本名だがジュリアンの他は誰も知らない。クラスがざわつきやり過ごしたかに見えたがゲシュタポの一人がボネに目を止めつかつかと歩み寄り少年を睨み据える。ボネは静かに教科書を片付け席を立つ。

寄宿舎の中に密告者がいたのだ。

ジュリアンたちの前をユダヤ人の少年たちと校長のジャン神父が連行されて行く。

ジュリアンは小さくそっと手を振ることしか出来なかった。

 

 

「さよなら、子供たち」は見送る生徒たちに神父が送った最後の言葉だった。

 

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監督の少年時代に実際に経験したことを40年経て

やっと撮ることが出来た作品だそうです。

淡々と抑えた色調で日々の生活が描かれていますが、軽々には語ることの出来ない重いテーマです。

「民族浄化」の名の下にユダヤ人迫害がエスカレートし大虐殺に発展したのですが、根本には国を持たないユダヤ人が、持たないからこそ力を持ち財産を作る能力をのばす。しかし今度は「根無し草のくせにオレより金持ちになるなんて生意気だ」と妬む人々が出て来る。その不満や憎悪を吸収肥大化させたのがナチスでホロコーストに繋がったのかと…。

 

 ヨーロッパや中東の人種の複雑な歴史は島国の日本では理解を超えるもののような気がしました。

この映画を見るまでは「イスラエル人は大昔パレスチナから追われその地を去らざるおえなかった、のだから”約束の地”に帰還し、ユダヤの国イスラエルを建国する」のは理にかなってるのじゃね?なんてアサハカな理解でした。でもこれを機に少し本を読んでみると、このユダヤの大義も怪しく、紀元70年頃にローマ人に追われたユダヤ人はよその地に散らばり混ざり、今のユダヤ人が子孫、正当な相続人と言えるか!? という疑問があるのに聖書を盾に今度は「今住んでいるパレスチナ人を追い出し土地を返してもらう権利がある。」と主張するのは無茶な気がしますが、現にこの「シオニズム」に反対なユダヤ人も多数あると書かれています。またアメリカやヨーロッパ諸国がこのイスラエル建国の後押しをしているのも事実。

モノスゴク穿っていますが、ヨーロッパ中でどちらかと言えば迫害したユダヤ人への罪滅ぼしに建国を後押しする。そしてもともと住んでいた人々にお構い無しに侵略するから紛争になる。

穿って言いますが、欧米の白人系民族はユダヤ人がもともと嫌いなのでは。だから建国し自分たちの土地から出て行って欲しいと望んでいる? もっと言うとアラブ人もアフリカ人もその他の人種もキライ?

 

…書いててちょっと残念な気がしてきました。

なんか、欧米寄りのニュースだけを聞いているとイスラエル側が正義で言うことをきかないパレスチナに長年手を焼いているという印象を受けるので…。鵜呑みにせず根っこはどうだったのかオサライもたまには必要ですね。

 

映画にちょっと戻りますが、

主役の少年2人が公開当時話題になりました。

とくにボネを演じたラファエル・フェジトはその名の通り天使のような美しさ清潔さでほとんど終始憂い顔なのが心に残ります。この俳優もフランス生まれですが実際ロシア、エジプト、ユダヤ、レバノンに祖先を持つとか。

映画撮影当時13歳だったそうです。劇中ゲシュタポに見咎められてじっと睨みつけられる場面。しばらくの間まるで見つめあってるかのような静かさ。緊張するでもなく涙を滲ますような演技も無く、全てを受け入れそっと目を外し机の上のものを片付ける演技は息をのむほど、、、自然で素晴らしいです。

 

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ここまでを苦労しつつ書き終えたのですが、ひとつ気になる場面があって追加。

それはゲシュタポが、どうやらジャン・キペルシュタインはいないようだと引き上げてゆく時ホッとしたのかジュリアンはボネに向かって目配せをします。それを見逃さなかったゲシュタポは視線の先を追ってボネを見つけたような演出に見えました。

ジュリアンが目配せしなかったらボネは少なくともこの時は逃れられたのではないか? そう思うと監督は意図的にこの場面を入れたのには意味があるとすればジュリアン(ルイ・マル監督)のせいでボネは連れて行かれたのか。また当時撮影現場をキペルシュタイン家のたった一人の生き残りの姉が見ていたそうです。「ボネはとっても上手いが、実際のジャンには似ていない。彼は目が青かった」と言ったそうです。なのに実際はユダヤ人の特徴である巻き毛の黒髪の少年を起用した。実際のボネはそうと言わなければ外見からはユダヤ人とは解らなかったのではないかと思うと、うかつなことをしてボネを追い詰めた呵責はいつまでも彼を責めたのではないかと、本編とは関係の無い深読みと邪推をついしてしまいました。