5D's blog -12ページ目

quatrdici.本レビュー6回目。松本清張「点と線」

以下背表紙より抜粋。

「九州博多付近の海岸で発生した、一見完璧に近い同期づけを持つ心中事件の裏に潜む恐るべき奸計。汚職事件に絡んだ複雑な背景と、殺害時刻に容疑者は北海道にいたという鉄壁のアリバイの前に立ちすくむ捜査陣。列車時刻表を駆使した、リアリスティックな状況設定により、推理小説界に"社会派ミステリー"の新風を吹き込み、空前の推理小説ブームを巻き起こした秀作。」


この小説が世に出たのは'58年のことである。
今とは全く異なる時代、新幹線もないこの時代、
福岡博多間は特急で20時間も要する。
連絡手段は主に電報であり、すぐに何でも調べられる時代ではない。
こういった状況下でのアリバイトリックは単純なものになってしまいがちで、
確かにそれほどすごいトリックではなかった。
だが、一つも二つもひねりが加えられていて面白かった。
トリック自体よりも、老警官と若警官の行動の違いに着目している点は
実にうまく書けていて鋭いなと思った。

喫茶店でうまいコーヒーを飲むと閃く若警官のちょっと抜けている所も
作品に一種の抜け感を出していて人間味があった。

そして、今の時代よりもそれぞれの人と人のつながりがもっと繋がっていたんだな
と感じた。
最終的にあの人物が、実はキーになっているというのも面白い。
現在のミステリーの基本とも言える様なこの作品は読んでみる価値があると言える。


少し余談だが、この作品中に
(定期のバスが時間通りに来ないとはよっぽど不便な郊外にいる男らしい)
と、若警官が考え、それによってある重大なことを閃くシーンがある。
また時刻表トリックにわずか4分間しかホームを見られないという設定がある。

これって、絶対イタリアじゃ通用しないトリックだなと思った。
1958年。もうこの時代に日本の交通は時間通りに動くのが当たり前だったのだ。
ここイタリアは松本清張の言う
よっぽど不便な郊外なのだ。。。

ちなみに作品の中で飛行機は2、3時間の遅れを考慮に入れている。
イタリアでは電車もバスも全部考慮に入れなくちゃあかん。
イタリア人はアリバイ作りも大変だ。

10点中・・・6点


点と線 (新潮文庫)/松本 清張

¥460
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tredici.本レビュー5回目。リリー・フランキー「ボロボロになった人へ」

背表紙より抜粋
「結婚情報誌で紹介された相手は素敵な大麻農家の長男だった。婚期を逃した女性が幸せを掴もうとする姿を描く「大麻農家の花嫁」等、読む者の心を予想不可能な振幅で揺らす六篇の珠玉小説。誠実でありながらも刺激的、そして笑え、最後には沁みていく…。天才リリー・フランキーが、その才能を遺憾なく発揮し、物語の面白さすべてを詰め込んだ。」


リリー・フランキーによる短編集。
「何かに、つまずいている人の方が、魅力的だと思う」
とは著者の言葉である。まさにその言葉が当てはまる短編集。
人は誰だって完璧なことはない。
誰だってどこかにダメな面がある。
けど、何かをするためにみんな必死で生きている。
だんだんに世の中を少し皮肉ったリリーさんの世界観が出てくる。
ちょっと理解に苦しむ所も満載。

表題の「ボロボロになった人へ」は自分に語りかけているようだった。
何かやってやろう、でも何にも出来ない。何をしたら良いか分からない。
人が悲しむことをするのは簡単だ。
でも、人が喜ぶことをするって難しい。
そうやって人間は生きている。
Mr.chirdrenのHEROが聞きたくなった。


リリーフランキーの世界を体感したい方は、是非手に取ってみて下さい。


10点中・・・7点。


ボロボロになった人へ (幻冬舎文庫)/リリーフランキー

¥520
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dodici.本レビュー4回目。藤原正彦「国家の品格」

小説じゃないけど今更「国家の品格」読みました・・・。

内容
「日本は世界で唯一の「情緒と形の文明」である。国際化という名のアメリカ化に踊らされてきた日本人は、この誇るべき「国柄」を長らく忘れてきた。「論理」と「合理性」頼みの「改革」では、社会の荒廃を食い止めることはできない。いま日本に必要なのは、論理よりも情緒、英語よりも国語、民主主義よりも武士道精神であり、「国家の品格」を取り戻すことである。すべての日本人に誇りと自信を与える画期的提言。」


さて読んだ方も大多数いるんじゃないでしょうか。
僕がこの本を読んだ率直な感想は、

「数学者による、頭のいい、勉強ができる、勉強が好きな人が書いた勉強が好きな人への意見」

作者は英語もできるし、もちろん数学も出来る。
さぞや頭のいい人なのであろう。
そのためにこの本が出来上がったのだと思う。

つまり多くのおバカな、ちゃらんぽらんな日本人は
国語に力を入れたって、
武士道精神が何かを解いたって
理解できないってこと。

ちなみに僕は小さい頃からもっと英語をやっておけば良かったと思っている。
が、本ももっと読めば良かったと思っているし
大学の時に一般教養の授業をもっと受けておけば良かったとも
思っている。

太宰や三島を読むのは小学校の時の感受性と、今とでは全く違う。
あの頃の僕は「三毛猫ホームズ」ばっかり読んでたっけ。


残念ながら、品格を持った日本人は今とても少ない。


日本大好きな、僕は結構共感した。
特に俳句で情緒を感じられる日本人、
茶を入れるだけで茶道、華をいけるのは華道、字を書くだけでも書道。
何でも美学に出来る日本人って素晴らしい感性があるんだなって思った。

勉強もっとしろとか、国語やれとか、名作読めとか
僕の後悔をそのまま言い表されている気がして胸に響いた。

著者が外国で日本に関する意地悪な質問をエリートにされたとあったが、
全く同じ経験をイギリスに行った時にしてそれも思い出した。
ここイタリアでもそう。


日本人最強論。大いに同感。
でもそのためにやらなきゃいけないこと多数。
今の僕ではまだまだひよっこ。
僕だっておバカな、ちゃらんぽらんな日本人の一人だ。
流れる血だけじゃ何ともならない。
品格ある人物になりたい。

とにかく、もっとカバーリングしなくちゃなーーー。


まだ読んでない方は是非。
さくさくっと読めるので。


採点はしません。


国家の品格 (新潮新書)/藤原 正彦

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