「車の営業マンもそう言っていたんですよ。最近は、高級車に乗る若い男性がいなくなったって。」
「時代の流れかなぁ」
残念そうに言いながら、
就職したての若者
高級車のためのローン
そういう春の風物詩をみかけなくなってからしばらく経つと私に話してくれたのは、カーディーラー雪国支店の親切な営業マンである。
そんなことを思い出しながら
「うちの息子たちもそうですよ。
思えば長男は、高校生の頃は好きな車種の話をよくしていましたけど。
それをいざ大人になって、すぐに買うわけではないというか。」
と私がうっかり、余計な口を滑らせたのにはいくつか理由があって
彼が3年前まで、なにかの敏腕営業マンとして都会の会社で高収入を得ていたために、低収入になってしまった現職に誇りを持てないというような話を本人から聞いたためでもあるし
また、前記事で
彼がひどく呆れていた
『カップル出勤をして軽自動車の助手席から降りてくる若い男性社員』は、
じつは長男の高校時代の友人で、現社内ではマスクのご時世から人目を奪うイケメンであったが、外すことによってその想像をはるかに超えるイケメンだったことが判明したことで有名な若者だからである。
私と超絶イケメンとの間にある長男を介しての人目を忍ばない関係を、彼は知らないだろうが、とくに知らせる必要もないであろう。
と思っていたら
どうやら私は
彼の特異分野に踏み込んでいたようで
まるで、奢られたGIRLと共演する男女平等共働き割り勘酔心男子ングの如く弁舌を振るいはじめた。
彼が言うには
運転免許を取得して間もない18歳のときから高級車を乗り回す行為は、男性の一生のなかでもとくに有意義な事柄なのだそうだ。
国立大学現役男子学生という高貴な身分は、その4年間しか得られないもの。
大学時代の話をするときに
聞かれてもいないのに
出身大学名を名乗り
かつ「国立ですよ」と忘れずに
毎回追言するのは、たぶん
口癖のようなものなのだろう
と聞き流していたが
念の為申し添えれば
横浜国立大学ではないし
国立音楽大学でもない。
彼による「今の若い男」という大きな主語のなかにいる愚息たちは
彼の口述する『意義』を理解しないまま、20歳を過ぎてしまった。
彼は、まず長男について
「すでに働いていて好きな車があるにもかかわらず、稼いで払うという覚悟をもてないあたりが男として理解できない。」という質疑をあげた。
そして、自転車で坂道を立ち漕ぎでアパートに帰る日々を「トレーニング」と位置づける次男りくについて
「ずいぶんとストイックですね」と笑った。
うちの愚息たちは
今の若い男代表では決してないが
ストイックと言われたりくは別にいいとして、覚悟がないと言われた長男については母親として多少の庇護も必要かと思い
「そうですねぇ。好きなスポーツがあるからといって、誰もがそのスポーツのプロ選手になろうとするわけではないし、なれないことを残念に思うわけでもないでしょ?たぶん、そういうことなんだと思いますよ」
と憶測を話してみたが
母心からの苦悩の迷回答に
納得は得られず
「好きな車も買わずに、なんのために働いて、何をしたいんですかね?」とさらに問われたので
最近、りくの院試の話をしていたときに、長男もそろそろ自己のテーマが定まりつつあるので、教授訪問をしながら具体的な専攻分野と院生期間の働き方を検討すると言っていたことについて
簡単に話したら
「それは、またずいぶんと
志の高い息子さんですねぇ」と
気のせいかなと思わせる程度に
若干意味深に笑い
「そんなに大きい息子さんがいるとも思わなかったけれど、そういうタイプの息子さんがいるようにも見えなかった」と私に対して私に関する解釈の難しい見解を示した。
目的地周辺に辿り着いた頃
この待ち合わせの数日前に
女性上司が、「彼をとりあえずは、一旦まこさんに預ける」というようなことを言った意味がわかってきたのと同時に
男性上司が「うまく付き合おうとかこちらから関係を築く努力はしないでください。彼の課題は彼が気づくしかないんです。わたしも、友達にはなれませんから。」と笑顔全開で言ったことの意味にも気がついた。
中堅国立大学卒
30代半ばの自称
元高収入敏腕営業マンの
何回目かの転職で至った
イマココの3年目
これから共にお会いする女性に対しては、決して粗相の無いようにと願いながら
事前に伝えておいた
その女性の概ねの人生と
私達がこれからお会いする目的を
念の為にざっくりおさらいするために
私は、周囲に人がいないことを確認した。
その日のお相手は、90歳少し手前の女性で、70代半ばまでご主人が遺した会社を引き継いで経営していた。
会社を閉めてから、優雅に一人暮らしをしていたが
数ヶ月前、室内で転倒して動けずにいるところを姪御さんに発見された。
その骨折を機にして、軽介護が必要になったが、うまく公サービスを活用しながら
ときどき数週間〜数ヶ月の介護休暇を取得し帰省することを条件に、頼み込まれて都会で働き続けている60代後半の
誰もが名実ともに素晴らしいと称賛する息子さんによる助力を得て、これまでの暮らしを継続してきた。
が、最近女性にガンが発見されたことで、今後しばらく入院することになり
会社や自宅をどうしようか。
というような本気の終活の話である。