夢の住人 弐
部活のない日にスーパーのレジ店員のバイトを高校には内緒で隠れてしていた。
私のレジ番号はその日は6番だった。
ベルトコンベアーに流れてくる部品のように、カゴをもった
おばさんが無機質に流れてくる。
私はバーコードを押し、商品の代金を頂き、笑顔で
「ありがとうございました。」
と言う役をこなし、おこずかいを稼いでいた。
たしか、日曜日の夕方の混雑していた時間帯である
休憩に裏の茂みで一本のラッキーストライクを吸い終えて
6番のレジを開けて
「次のお客様どうぞ」と声をかけた瞬間・・・
ベルトコンベアーの流れは停止し、時も停止した感覚に襲われた。
目の前に制服姿ではない、あの彼女が私服で立っていた・・・
長袖の縞模様のラフな上着とジーパン・・・・・
信じられない、ドキドキしていた。顔は恥ずかしくてみれん。
商品を間違いないようにだけ、心がけて、バーコードを通していた。
覚えてないんだ。あまりにも、突然で、衝撃で、冷静さは
動揺へと、ものすごいスピードで脳と体を走りめぐり侵食されてゆく。
代金を顔もみずにもらい、一言小声で
「ありがとうございました」と発した。
のちに聞いたのだが、彼女は僕にきずいていなかったそうだ。
帰りの道で自転車を必死にこいでいた。
なにかエネルギーを発散させたい衝動。
こみ上げる、何これぇぇぇええええ!!!!!
この灯火が消えてもいいという希望。
すべてがうまくいく気がした。
運命を勝手に感じていた。
次の日から選択を決めた後の行動はすべて段取りが
組まれていたかのように、早かった。
第一中学か、第五中学の方向からいつも、千曲高校に通う彼女。
この辺に住んでいるということはわかった第一中学に的を絞る
直感だがたぶん、年上だろう・・・
自分は上田東高校の剣道部だったのだが
第一中学の先輩がいなかったので
隣の部室のテニス部の先輩に頼んで卒業アルバムを持ってきてもらった。
二日目、卒業アルバムに目を通す。
「いた!」
彼女だ、幼さが残る顔立ち、間違えない・・・
・・し・ず・子・・・
初めて名前を知った。
その日の夜、僕の第六中学の同級生で千曲高校へいった友人に
高校の名簿で住所と電話番号を調べた。
というより、ここまでくると今ならありえない。
ストーカー、個人情報の私用乱用である。
そんな事はさておき、僕は突き進んだ。すぐに電話をしたのである。
一年も、もじもじしていた人間が決断、覚悟を決めると二日で
ラスボスまでたどり着いてしまう。
そんなゲーム存在するのか?
多少、ボタンを押す手は震えていたが、押し寄せる
津波のような感情はとめられなかった。
・・コール・・コール・・コール・・コール・・出ない。
なぜと思った瞬間。彼女が直接電話口にでた。
「はじめまして、上田東高校2年のカズといいます・・・
毎朝、千曲川沿いの道ですれ違っているのですが、ご存知ですか?」
思い上がった感情である、目があったからだけで
おぼえているはずもなく・・・
素直に好きですと告白をした。
僕にとっては1年越しの告白。
彼女にとっては、突然の見知らぬ男からの怪しい電話。
この恋の成功確率はないに等しい・・・わかっていた、そんなこと。
それでも救いは、彼女がやさしい断り方をしてくれたこと。
突然の電話にもかかわらず・・・・
今好きな人がいるそうだ・・・・
それでも、津波の勢いは止まらなかった。
「写真をください、あと、もしよろしければ
朝、おはようございますとだけいってもよろしいでしょうか?」
書いていて恥ずかしくなる言葉だ。
それでも、彼女は快く振る舞い約束をしてくれた
「明日の朝8時にいつもの道で」
つづく
今回のテーマ曲
夢の住人 壱
高校1年の丁度、今と同じ夏が終わり始めた頃
彼女に一目惚れをした。
千曲川沿いの800mの道、突然、目の前に現れた彼女は
魂を抜き去る妖怪のように、僕の心を奪っていった。
キューッと自転車のブレーキの音を発しながら僕は石化したまま。
僕は彼女を見送った。一瞬の出来事なのに長く時を感じた
その日以来、遅刻魔な僕は消え去り。1時限目がサッカーじゃない日も
定時に高校に行くようになった。
餌をまかれた鳩のように・・・・
何度も、彼女の自転車の行き先をさえぎり、声をかけようと
思ったことか。
時は過ぎるばかり、すでに、そんな生活が1年経とうしていた。
人間を一年も片思いしたのは、僕にとってはもう、ないだろう
なぜなら、女好きだからである
すでに諦めていたのも事実だった。
彼女はリアルで会える僕のアイドルと化していたのである。
一年も時間はあったのだからいろいろ、考えた。
転んでみようか、すみませんと声をかけようか
この場で今地震でも起きないだろうか、なにか偶然がおきないだろうか・・・
希望だけが先走り、何一つできない。
今思えば、馬鹿げた話である。
答えは単純だ。
僕は彼女のことが好きなのに、恐怖を感じていた
この幸せなひと時の朝が終わることに・・・
だから、声をかけないという選択を毎日してきた。
だってそうでしょ?そこで引かれたら、すべてが終わる。
恋とは支配である。彼女の支配の中にまだ、繋がれていたかったから。
だが、運命とは皮肉なもの・・・
大事に大事に消えないように無力な手で
守ってきた灯火は・・・・突然、燃え上がる。
つづく
今回のテーマ曲
夢の住人 零
早朝とも深夜とも言える四時十五分にふと、目が覚めた
2時間ぐらいは寝れただろうか・・・
私は昼間寝て、深夜おきる。
こんな生活から脱却したいと思い描いている
仕事にもいけない。
部屋は隔離され、今も外にでれずに、ひきこもっている。
夏が過ぎたにも関わらず、私の肌の色は真っ白である。
去年の11月に医師から鬱病だと診断された。
仕事から離れて、もうすぐで1年が経とうとしている。
私は32歳の妻子持ちの男である。妻と娘が2人いる。
マンションも去年購入したばかりだ。
焦る気持ちとは、うらはらに私の体は得体の知れない
病に犯され続けている。
今日、ある人の夢を見て起きた
久しぶりに耳鳴りと頭痛から解放され心地よかった。
高校時代に一目惚れした女の子
しず子という名前であった。
私にとっての純粋な初恋だった気がする
彼女との出来事が
記憶がまだ、脳に残っている。
しかし、人間は忘れる生き物、特に女は早い。
彼女のことだ、血液型診断はあまり、信じてはいないが
B型の女・・・・意味はないか
そんなことより、あの日から時はすぎ、もう14年になる。
17才の私が32歳の時のこの時間に目が覚めて
このパソコンに向かうことも必然だったのだろうか
私の哲学には「すべて繋がっている」と言うキーワードがある
人間は゛環境とDNAと人生の選択゛で自己を形成していると
考えているからだ。
私は彼女に会うという選択をしてこなかった。
今は声だけでも聞いてみたいと思うが、きっと
その選択もしないまま時は過ぎるだろう。
彼女も、もう33歳になる結婚して、子供をもうけて
きっと幸せに暮らしているに違いない。
しかし、彼女が今日、私の夢の中に現れたのである
偶然か、それとも必然か・・・・
私は眠れずにあの頃の事を想い返しはじめた・・・
つづく
今回のテーマ曲