kazooさんのブログ
Amebaでブログを始めよう!

夢の住人 八

片道13kmの帰り道は、後半、家に近づきだすと
緩やかな坂が永遠と続き体力は少しずつ奪われていく


ゆでカエルのように。


ヘトヘトになりながら、毎日帰っていた。
行きは降り坂だが帰りは登り坂になる
当たり前のことだが嫌気が差す。
ジワジワ太腿だけをいじめてくるからだ。
いっその事、短い急な坂をいっきに登りきった方が
楽な気さえしてしまう。


カルマの法則か?


人は楽な選択ばかりしていくと、自ずと堕落していく。
自分でしたことには、責任を負わなければならない。
楽をしたら、次は苦しまなければならない。


緩やかな坂の帰り道を何度も恨んだことがあったが
そんな事に逆らえずもなく、毎日往復していた。


家につくと必ず夕食は用意されている。
母は女ではあるが、母の役割はきちんとこなそうと努力していた。
母は低血圧なこともあり、朝は苦手だった。
母のチャーハンを半分だけ食べて、二階の部屋にひきこもった。


そう、時刻は20時40分。


五分前行動などと小学生の時に担任の先生に教えられたが
実行などした記憶はなかった。
しかし、今日は別である。
決戦の日、宮本武蔵は佐々木小次郎を待たせたというが
あれは嘘らしい。なにかのテレビで流れていた。
そんなことはどうでもいい!


緊張が限界を超えていた。
電話のボタンをゆっくりと押す・・・
ゼロ、ニイ、ハチ、ロク、サン・・・だめだ、かけれない。


もう一度、シュミレーションを頭の中で瞬時におこなった。

ゆっくりボタンを押したら、また、かけれなくなると思い、
いっきにボタンを押した。


コール・・・コール・・・コール・・・・・コール・・・


「お願いだから、本人が出てくれ」


と声に出して願った。


「はい、もしもし・・・」


デタッ、本人だ。


「こんばんわ、カズです」


「こんばんわ」


優しく癒してくれる声が受話器を伝わって
僕の耳へと吸い込まれてゆく。


あれほど、緊張していたのに、予想以上に会話は弾んだ。
くだらないテレビの話から学校で起きた出来事まで。
ん、待てよ、弾んだというより、意外なことに
彼女だけが喋り続けていた。
僕のセリフはすべて、うんうん、だけだったような気がする。
それでも僕の心は弾んでいた。



何一つ、彼女から発せられる発言には否定もせず
ひたすら、聞き続けた。
僕が話をできるのは、彼女が僕に質問した時のみだった。


少しイメージが崩れていた。
無口で恥ずかしがり屋なイメージをずっとこの1年
思い描きつづけていたのだから、仕方ないが・・・


それにしてもよく喋る。
ふと、時計に目をやると、あと少しで22時になるところだった。
゛1時間も?゛と思いながら、彼女の話を聞き続けていたが
はじめて彼女の話を止めて自分から話した


「時間だいじょうぶですか?もう、10時すぎましたが」


「あっ、大丈夫だよ、それより、敬語やめない」


と彼女からまたも予期せぬ言葉が返ってきた。僕は・・


「あっ、はい」


と答えた。


「はいってそれも敬語ぽいね」


とクスクス年下の僕をからかうように笑った。


うれしかった。
からかわれて、うれしいことなど
感じた事が今日の今まで感じたことがなかった。


僕はこれはチャンスと思い、たどたどしかったが、タメ口を使い始めた。でも呼び方だけには、さんづけをした。


「ねぇ、なんて呼べばいいかな」


「えっしず子でいいよ」


「いや、それはできないよ、やっぱ、しず子さんって呼ぶわ」


「じゃあ私はカズヒロでいいかな」


ドキっとした。女性に呼び捨てで呼ばれることなんて
母親ぐらしか、思いつかなかった。
新鮮だった・・・
大抵はカズくんとか、名字とかだったので


゛カズヒロ゛ってぇぇぇええ!!
なにみたいな。


32歳になった今でさえ、母親以外でカズヒロと呼んでいたのは彼女と。
上京して18の時に吉祥寺のパスタ屋で働いていた時の先輩ぐらいだ。
妻でさえ、カズヒロとは呼んだ記憶はない。


そのあとの会話は学校の授業が終わり、休み時間にでもなったかように。封印は解かれた。
ふたりは夢中で喋りつづけた。彼女は授業中でもしゃべっていたが・・


楽しかった?


そんなもんじゃないっすよ。


楽しすぎた。


でも、現実は友達の関係それはこれからも揺らぐことはないだろう。
僕は彼女に


「好きな人ってどんな人なの?」

と思い切って聞いてみた。


それまでとても明るく会話をしていた。
彼女が少しだけ、声のトーンが下がった気がした。

彼女の話をきくと、その彼は20歳の社会人らしい
つい、2ヶ月前までは、付き合っていたのだという
デートはもっぱら、ドライブだったそうだ、車種はクレスタ・・・・。
それが音信不通になり、自然消滅的になったとゆう。
別れといった別れもなしに付き合いが終わったのだといっていた。
名前はカサイさんと彼女は呼んでいた。


僕は其の話を聞き終わった後に彼女にこう伝えた。


「きっと、また、付き合えると想うよ、だってまだ
 嫌いになったって言われたわけじゃないんだろ?
 だったら、もう少し、待ってみたら。
 俺でよかったら、応援するよ」


彼女は電話越しで泣いていたのだろう・・・

鼻をすする音がかすかに僕には聞こえていた。


「ありがとう、でもいいの、もう、十分待ったら・・・」


「よくないよ!そんなのぜんぜん、よくないよ!!!」
感情的になっていた。


「だって、しず子さん、まだ、好きなんだろ
 連絡とかこっちからは、取らないの?」


彼女は自分を取り戻そうと必死だった。


「取れないよ・・・そんなこと、できない・・・・・」


それ以上は僕もなにも言えなかった。
20時45分からかけ始めた電話はもう、すでに23時になろうとしていた。
初めて、沈黙が訪れた。
それでも、僕は沈黙をやぶろうとした。


「でも・・それでも・・・応援してるから。」


そうだ、ただ、彼女の力になりたかった。
そこに恋愛感情は存在せずに、どちらかというと
博愛的な感情に近かったきがする。

最後になんとか、彼女を笑わせたかった。
必死におどけてた会話をした。


「この前さぁ、うちの高校の隣にゴルフの打ちっぱなし、あるじゃん。
 そこで友達と、おじさんがうつたんびに、ナイスショット!って
 大声で応援してたの」


彼女も沈黙を破った。


「えっなにそれw」


「でさぁ、そうやっておやじからかってたら、マジ切れしちゃってさぁ
 追いかけてこようとするんだもん、せっかく、応援してるのに」


彼女の笑い声がきこえてきた。


「ばかみたい、カズヒロって・・」
 
「あれ、俺バカだよ、知らなかったけ?」

ととぼけて見せて話をなんとか、違う方向へと戻そうとした。
必死に、ピエロのように振舞って見せた。


時刻はすでに24時を示そうとしていた。
さすがに彼女から


「そろそろ、きるね」


といってきた。

僕も素直に「そうだね」といった。


「じゃ」


「じゃ」


僕はいつも彼女が電話を切るまで見届けた。
ふたりの会話はそこで途切れた。


正直、体はくたくただった。
でも、幸せな気持ちでいっぱいだった。
3時間20分も彼女と会話できたのだから。

しかし、よくよく、考えると俺が今日、わざと遅刻して
少しでも話題にでもしようとしていたことが
まるで彼女の話術にはまった様に
喋る必要がなかったことに、きずいた。


まあ、いいか・・・


いったい、今日は彼女に何歩近いたのだろう・・・・
いつものように、ベットに横たわり、ラジオをつけた
心地よい興奮が今度は僕を追いかけてきていてくれた。

今度はいつ電話しようかな、なんてことは、考えていなかった
僕の中での計画では、もう、決めていたから

でも、その自分の誓いとも近い計画を破りそうで怖かった。
僕は一週間に一度だけと決めていたからである。


そう、時間はいうまでもない、あの時間に・・・
つづく


今回のテーマ曲

http://jp.youtube.com/watch?v=58nVzSQh1lk

夢の住人 七

息づかいを荒げながら、正座し整列、面を取った。
一息、深呼吸をつき、心地よい汗を拭った・・・

いつものように、黙想をする・・・
ゆっくりと瞳を閉じたが、無の境地に今日はなれなかった。

体は少しずつ静まりつつあったが
心ここにあらずとはよく言ったものだ。

私の脳内メーカーをこの頃、覗けば、きっと゛恋゛一色だっただろう。


時刻はすでに17時をまわろうとしていた。
決戦の時刻はすでに決めていた。


20時45分である。


僕なりの意味があった。
高校生が考えることである。


当時はゴールデンタイムの番組が終わり
全国のほとんどの番組がニュースを報道する
あくまで推測だったが、この時間が一番これから
なにをしようかなと考える時だと僕は考えていた。

それと今日遅刻したのもわざとである
ただ、小さなことでも話題を作りたかった。
彼女もその方が警戒心が解ける気がしていた。

今考えても、普通1ヶ月もの間毎日、あいさつだけとはいえ
確実に寸分の狂いもなく、会っていたら、怖がってしまう。


しかも、天秤で僕と彼女の心を乗せたら、僕にすべて傾くであろう。
迷惑になりたくなかった、彼女には今好きな人がいる・・・
奪ってやるなんてそんな大層なおごりは僕には無かった。
今日、そう、今日、彼女と会話ができるそれだけで十分だった
下心がなかったのか?


はっきりいえるなかった。


ただ、ひとつ欲をいえば、なんとか、彼女の力になりたかった。
かっこつけた言い方に感じるだろうが
彼女とその相手をくっ付けるキューピット的存在であれば
幸せだとも想っていた。

これが僕の考える計画の第2歩目だ。
うまくいくとは限らない、でも、信じきっていた。
世の中の迷える子羊たちが教祖をたて、拝む宗教のように。

あと、約3時間後には、すべてがはじまる。
1ヶ月前のあの時以来の電話だが、あの時とは違う
僕らは、顔、声、体型だけだが、お互いを知った。あとは自転車か。


深夜5時24分の32歳の鬱病の男が
あの高校生時代にタイムスリップしている。


そう時刻は当時の20時40分に設定しよう・・・
つづく


今回のテーマ曲

http://jp.youtube.com/watch?v=PP6Dpt5nymw

夢の住人 六

もう一度、言おう時計の針は午前8時を示していた。
完全に遅刻だ。何ヶ月ぶりの遅刻だろう。
僕は珍しく着替えて、玄関には向かわず
リビングで朝食でも取ろうと、二階から降りてきた。


父は公務員、朝7時には出かける。
土曜日なのに勤勉で真面目な人、しかし
土日に酒を飲むと仕事を行った振りをして
月曜日はよく帰ってきて、サボっていた。


母はパートに朝7時40分には出かける。しかし
母親役をこなしながら、もう、10年、パート先の
スーパーの店長と不倫関係にあった。
小学校5年生のいつだか記憶はないが
突然、母の部屋に呼び出されて


「お母さんには好きな人がいるの」


と告げられた。
でも、俺達兄妹が20歳になるまでは、離婚しないといっていた。
夜になると我が家では、必ず電話がワンコール鳴ってきれる
それと同時に母は二階に走り出す。
小学校3年生から、薄々感じていたし、きずいていたことだが
改めて、本人の口から聞かされて正直ショックだったのと同時に
はじめて母も女なんだと悟った。


妹は勤勉で優秀生だった。朝は父の車に乗って、中学校に通学していた。

小学校時代はよく比較され、親に怒られたものだった。
小5の時、そんな妹にそろばん教室で級を抜かれた。
僕のが半年も前に通っているのに、そろばん3級で僕が
もたついている間に、妹は2級へと合格した日・・・
今思えば、とても悪いことをした。
包丁を片手に親がいないことをいいことに、脅した。


「お兄ちゃんやめて!」


と叫ぶ妹を無視して、脅し続けて、泣く姿を見て
微笑みを浮かべていた。



そんな歪んだ家庭の朝食は、昨日の残りものか、食パンが主だった。
その日は昨日のカレーが残っていたので
電子レンジで温めもせずに、口に運んだ。
今この歳になっても、冷たいカレーの方が好きだ。


カレーを食べると学校へ向かった。
玄関先に猫のミミとハマリーが東の朝日に照らされて
気持ちよさそうに、かさなりあうように、寝ていた。
僕が近ずくとしゃがれた声でミミだけが、おはようと
いっているようにみゃーと鳴いた。


祖母は離れに猫達と一緒に住んでいる。
昔から母と仲が悪く、よくののしりあっていた。


゛鬼嫁゛゛くそばばあ゛と。


今は離れに住むようになって、落ち着いている。
冷戦状態とでもいおうか。


僕はもう、慣れていたそんな家庭に、今思えば
麻痺していたといった方が正解かもしれない。


いつもの赤い自転車に乗って、のろのろと高校へと向かう・・・
いつもと違う道で道草を喰いながら
ペダルを1回こぐごとに、自転車が止まりそうになるまで
ペダルをぎりぎりまでこがなかった。


もう1つの道はあまり、通りたくない道だった・・
小学校4年の時に捨て猫を勝手に飼って、その猫が
捨てられた場所を通らなければならなかったからである。
でも、そこを通らなければならない時はかならず
周りを見渡し、あの猫を探してしまう。
くせみたいなものになっていた。
今も想う、きっといいご主人様に拾われたのだろうと
そう願うしか、心の整理がつかなかったのだろう。


ラッキーストライクをくわえタバコしながら
上田橋はわたらずに、1つ手前の常盤橋を渡り
わざと遠回りをして、向かった。
もう、11時6分か正確にはちがうけど

いないことぐらいわかっていたが
今日だけ今日だけはしかたなかった。


高校についた時にはすでに、土曜日なので授業は終わっていた
友達に

「社長おはようございます」
とからかわれた。


「あれ、千曲のねーちゃんは、今日はあわなかったんか?」
と聞かれ


「寝坊しちまってよ」
と嘘をついてごまかした。


そのまま教室には向かわず、剣道部の部室に向かった。
剣道だけは、サボらなかった。
胴衣に着替えて、誰もいない旧体育館で大の字になって寝そべった。


防具室から臭う剣道部独特の悪臭が、僕にとっては
もう、慣れていて、時々、今日みたいな日は、いい臭いにさえ感じた。


後輩、同世代の仲間たちがぞくぞくと旧体育館に一礼をし、入ってくる。みんなで輪になって準備体操し、防具と竹刀を身に着けて整列する。


そして一礼を互いにする。


そう、今日は僕にとって決戦の土曜日。
ドリカムの歌ではないが・・・
そんなバカらしいことも考えられるぐらいの余裕はあったが・・・


「はじめ!!」


部長の掛け声とともに、いつもより力強く竹刀を振りぬいた・・・


そう、決戦は今日なのだから・・・

つづく


今回のテーマ曲

http://jp.youtube.com/watch?v=nxpblnsJEWM