王君は滅法 喧嘩が強かった。彼は義務教育よりも自分自身を信じて生きていた為 不登校という点では俺と共通していた。あらゆる武道を研究し一日の半分をトレーニングで費やし、昼過ぎから街へ繰り出すというリズムで生活していた。王君にとっての徘徊とは喧嘩の相手を捜すというテーマに成り立っていた。「俺は自分の力を試したい。」と関西弁で熱く語っていたのを覚えている。 日常茶飯事に始まる乱闘に最初は戸惑い 不安や恐怖心で心臓のビートは16を飛び越えていたが連戦連勝の彼の圧倒的な強さを垣間見る度に次第に度胸も付いていった。ショートホープを斜めにくわえて歩く仕草を覚えて都会に存在して生きている行為にただ酔いしれる夏は永遠に続くと思っていた。
未だに 編集の方法が完全に呑み込め無い。昨日は2時間もかけて出来た文章をワンクリックで消滅させてしまいショックのあまり たくさんの日本酒で身を清める事となってしまった。そんな時に限って好い表現が出来ていた。一文字一文字を必死に打ち込んでいるので もう同じ文章は記せない。そんな憂いた気分を引きずったまま朝を迎えた。リハビリに向かうか日本酒で身を清めるか。足りない脳味噌と頼りない本能を駆使して本日のスタートを切らねばならない。来月の仕事復帰までやるべき事がたくさんある。たまには家族に誉めてもらおうではないか。当たり前の行動を取るだけで賞賛される恵まれた環境の下、日本酒を封印してリハビリとパソコンの勉強に励む事にしよう。そう今日の俺は気分がいいんだ。数少ない親友とコミュニケーションが取れたんだ。歪んでしまった歯車を修正するには 膨大な時間とエネルギーが必要となる。将棋に例えたら序盤の中飛車と矢倉のバランスが絶妙にハマった感じに似ている。本日の勝利は多分決定だろう。
先ずはアジトとなるべき場所を捜す事からスタートしよう。テーマを絞って橋を渡った。帰り道の目処だけ 確保しながら ただ歩いた。上通りから下通りへ向かう途中長崎屋(現在のパルコ)を地下街から屋上まで徘徊して階上のゲームコーナーをチェックして下通りのアーケ一ドを北へと上る。そして当日最も印象に残ったポレ一ルに辿り着いた。幼少の頃に施設で眺めていた絵本の中のオモチャの国を見つけ出した。そんな第一印象だった。多分 5階建のビルだったと思う。その広い建物内に所狭しとオモチャが陳列されていた。天草のデパートほどの敷地面積がオモチャ箱なのである。驚きとも喜びともつかない感動が在った。 閉店間際だった。二階のテレビゲームの体験コーナーで彼と出会った。自身と似通った人物だと感じた。目が合った瞬間に仲間になった。少年の頃は そんな不思議な感覚が 何故だか、当然のように備わっていたような気がする。彼も同種の匂いを俺に感じたらしかった。その瞬間から今までの日常はリセットされ新生活が始まる事となった。店仕舞いする ポレ一ルに別れを告げて 二人して上通り方面へ歩き出す。初対面にしては エラくフレンドリーな自己紹介をしながら彼の住んでいる場所へ歩を進める。彼の姓は王。年齢は俺の2歳上の13歳。だが学年は同級生らしかった。色んな事情が有るのだろう。俺は 王君を同級生の仲間として付き合っていこうと決めた。ただそんな気がした。でも2年のギャップと生活習慣のギャップは確かに感じた。例えば ポケットから煙草を出して当たり前のように火をつける仕草。周囲の大人達の視線など お構い無しに ショッポの煙を上手そうに吸い込む。そして肩で風切ってアーケ一ドのど真ん中を ガッハッハと大声で笑いなから流れて行く。多分、その時の俺はオドオドしてたろう。王君の住んでいる場所は上通りのアーケ一ドを通り越してすぐのラーメン屋を左に曲がり数分歩いた雑居ビルの2階に在った。約2ヶ月間の家出生活が始まった。