今宵の月
手が届くのではないかと疑った今宵の月。周りの街灯の明 かりよりも強く、僕の影の輪郭を描く。周りの霧のような雲が、月明かりに照らされて僕の視界は、幻想的な風景に包まれる。
「月に行った歴史も、宇宙論も全部ウソで、地球の周りは絵で描いたような幕で覆われてる。そして、それに関わる人たちすべてが、その事実を隠していて、みんなを騙している。こんな話あったら面白いよね。」と素直な彼は話していた。彼はロックを愛し、皆は彼を漠然と何かを変えてくれるような存在であると信じてやまなかった。かく言う自分もその一人であった。
そんな素直な彼に、僕は、不意をつかれたような言葉を突きつけられた。
「Aを治めるものはAのためのものだ。」
Aにはいる言葉は……
自分は自分を犠牲にして、皆のためにやっていると信じていた。そんな僕に投げかけられた、僕が偽善者である暗に示した彼の言葉が頭から離れない。
秋の空気の中、月明かりが僕を捕らえてはなさない。そう、僕は逃れられないのだ。
「月に行った歴史も、宇宙論も全部ウソで、地球の周りは絵で描いたような幕で覆われてる。そして、それに関わる人たちすべてが、その事実を隠していて、みんなを騙している。こんな話あったら面白いよね。」と素直な彼は話していた。彼はロックを愛し、皆は彼を漠然と何かを変えてくれるような存在であると信じてやまなかった。かく言う自分もその一人であった。
そんな素直な彼に、僕は、不意をつかれたような言葉を突きつけられた。
「Aを治めるものはAのためのものだ。」
Aにはいる言葉は……
自分は自分を犠牲にして、皆のためにやっていると信じていた。そんな僕に投げかけられた、僕が偽善者である暗に示した彼の言葉が頭から離れない。
秋の空気の中、月明かりが僕を捕らえてはなさない。そう、僕は逃れられないのだ。
ナタデココ
今日、朝、未だ月がうっすら見える空を坂道を軽快に飛ばす自転車の上から望む。思い出すか、いや、思い出る。
僕がまだ中学生の頃であっただろうか。あの早朝は五年たった今もなお、鮮明に記憶に残っている。そして僕はこれをきっかけに運命の渦に巻き込まれる。いやもうずいぶん前からかもしれない。ただ1つ言えるのはあの朝も月が微かに起きていた。
サッカー部の部活の朝練でボールを取りにいった。部室の向かいには部室棟の中でも一番大きなあの部屋がある。人の気配はなく、今まであそこで人影や明かりの付いているのを見たことはなかった。あの日、初めてあの部屋の窓が開いている光景を見かけた。それもこんな早朝に。それだけではない。あれだけ、ひとけのない部屋の窓には誰かの制服のズボンが干されていた。
「うぁ~…またやっちったよ」
僕はこの声に釣られてふと、部屋の中を覗いた。上は学ランに下はジャージというアンバランスな格好でコンビニで買ったと思われるナタデココを片手に持って誰かが立っていた。おそらく、容器を開ける際に、内容物がこぼれたのであろうか、干された学ランのズボンには、一見ネタではないかと思うくらいピンポイントなシミが広がっていた。部屋の中はダンボールの山が積み重ねられていて、内部を見ただけでは、この部屋何なのか特定することは困難であった。
このあと僕はその人と話した。なぜ話せたのだろうか。記憶を辿れど、この時以前にその人と話した記憶はないのに。
思い出せない。
確かにそのときの僕らは、面識のあるもの同士にしか為せない会話のテンポを作っていたのに。
しかし、明らかなのは僕は、その人自身とは面識があっても、あの部屋にいるその人とは初対面であったということだ。しかも、その人があの部屋にいる意味を知るのは、1年も過ぎてからだった。
その人は太陽が昇るのを導く黄昏の月のようであった。
僕がまだ中学生の頃であっただろうか。あの早朝は五年たった今もなお、鮮明に記憶に残っている。そして僕はこれをきっかけに運命の渦に巻き込まれる。いやもうずいぶん前からかもしれない。ただ1つ言えるのはあの朝も月が微かに起きていた。
サッカー部の部活の朝練でボールを取りにいった。部室の向かいには部室棟の中でも一番大きなあの部屋がある。人の気配はなく、今まであそこで人影や明かりの付いているのを見たことはなかった。あの日、初めてあの部屋の窓が開いている光景を見かけた。それもこんな早朝に。それだけではない。あれだけ、ひとけのない部屋の窓には誰かの制服のズボンが干されていた。
「うぁ~…またやっちったよ」
僕はこの声に釣られてふと、部屋の中を覗いた。上は学ランに下はジャージというアンバランスな格好でコンビニで買ったと思われるナタデココを片手に持って誰かが立っていた。おそらく、容器を開ける際に、内容物がこぼれたのであろうか、干された学ランのズボンには、一見ネタではないかと思うくらいピンポイントなシミが広がっていた。部屋の中はダンボールの山が積み重ねられていて、内部を見ただけでは、この部屋何なのか特定することは困難であった。
このあと僕はその人と話した。なぜ話せたのだろうか。記憶を辿れど、この時以前にその人と話した記憶はないのに。
思い出せない。
確かにそのときの僕らは、面識のあるもの同士にしか為せない会話のテンポを作っていたのに。
しかし、明らかなのは僕は、その人自身とは面識があっても、あの部屋にいるその人とは初対面であったということだ。しかも、その人があの部屋にいる意味を知るのは、1年も過ぎてからだった。
その人は太陽が昇るのを導く黄昏の月のようであった。
人は時代を作れない。ただひとえに時代が人を創る。
僕達は蟻を飼い始めた。東急ハンズで買った蟻の巣セットがあの部屋にやってきた。
愚かにも僕達は蟻がいない冬にそれを買った。だから、その入れ物に蟻達が入るのはそれから何ヶ月もしてからであった。
その入れ物と共に同封してある取り扱い説明書には、蟻を観察するにあたり様々な彼らの生態について記述されている。
「蟻も戦争するんだって、しかも働く蟻は全部の蟻の中で8割で残り2割はサボるらしいよ。俺達と一緒だな!笑」と彼は言う。
「しかも、サボる2割を入れ物から出しても、働らいていた蟻の中から再び2割のサボる蟻が出現するというね。」と続けざまに彼が補足を加える。
なにげなく飼った蟻達は僕らとなんら変わりがない。働く8割もサボる2割も運命から逃れることはできない。
人もまた、時代の創生から逃れられない。僕らもまた、その大きな流れを、さも自分達が作ったかのように振る舞っていた。
あれから1年がたった今も僕はその運命の渦に巻き込まれたままだ。
愚かにも僕達は蟻がいない冬にそれを買った。だから、その入れ物に蟻達が入るのはそれから何ヶ月もしてからであった。
その入れ物と共に同封してある取り扱い説明書には、蟻を観察するにあたり様々な彼らの生態について記述されている。
「蟻も戦争するんだって、しかも働く蟻は全部の蟻の中で8割で残り2割はサボるらしいよ。俺達と一緒だな!笑」と彼は言う。
「しかも、サボる2割を入れ物から出しても、働らいていた蟻の中から再び2割のサボる蟻が出現するというね。」と続けざまに彼が補足を加える。
なにげなく飼った蟻達は僕らとなんら変わりがない。働く8割もサボる2割も運命から逃れることはできない。
人もまた、時代の創生から逃れられない。僕らもまた、その大きな流れを、さも自分達が作ったかのように振る舞っていた。
あれから1年がたった今も僕はその運命の渦に巻き込まれたままだ。