「海外文学の名作」などで必ず推奨される、ノーベル文学賞受賞(1982年)作家の代表作。2024年に新潮文庫/新装版が発行されて以降、書店の平置き山積みが目を引いていましたね。なぜ今?という感もありましたが、美術作品のように美しい表紙もあって、相当売れたようです。
「訳者解説」によると、新装版は誤植を除いて、1999年のままの訳だということです。多少の古さを感じたのも頷けますが、625頁の大作は、世間の評価に背くことなく、間違いなく名作です。
裏表紙から抜粋:
●蜃気楼の村マコンドを開墾しながら、愛なき世界を生きる孤独な一族、その百年の物語。錬金術に魅了される家長。いとこでもある妻とその子供たち。そしてどこからか到来する文明の印……。目も眩むような不思議な出来事が延々と続くが、予言者が羊皮紙に書き残した謎が解読された時、一族の波乱に満ちた歴史は劇的な最後を迎えるのだった。世界的ベストセラーとなった20世紀文学屈指の傑作。
「予言者が羊皮紙に書き残した謎」、気になりますね。
コロンビアの架空の場所「マコンド」で6世代に亘りバトンを繋ぐ「ブエンディア家」。初代から、その子孫たちの約100年間の栄枯盛衰を描いています。
序章では、ジプシー生活の第1世代が、何もない場所に集団移住します。地中に埋まっている中世の金塊を掘り起こすという場面があります。自給自足・物々交換の生活からは、文明開化はまだ先と感じます。
●「こいつは、世界最大のダイヤモンドだ」
「冗談じゃない。氷ってもんだ、これは!」
「これは近来にない大発明だ!」
17世紀?18世紀?とも考えられます。
100年とは、いつからいつまでか?という疑問が湧いてきて、それを探るのも楽しみの一つです。
結論を申し上げます。
年代の判る2つの大事件が描かれます。
① コロンビア内戦(千日戦争):1899〜1902年
② バナナ労働者虐殺事件:1928年
上記2つの事件に関わる世代をみてみますと、
① (第2世代)アウレリャノ・ブエンディアが革命軍大佐となった
② (第4世代)アウレリャノ・セグンドが労働運動を煽動した
これらから、「百年」とは、1850~1950年頃の100年間と推測されます。
---- ---- ----
100年間、出来事は繰り返し、循環します。それがブエンディア家のDNAなのか、伝統や定めなのか、先が予想できますので、読者にとってはデジャブ感満載で、笑ってしまいます。
繰り返しの代表が、各世代に登場する兄弟。
兄:アルカディオ
弟:アウレリャノ
兄弟にして性格が真逆なのです。
兄:外交的、頭悪い、衝動的
弟:内向的、頭良い、熟考的
「頭悪い」「衝動的」の具体例を記載するのも憚れるレベルで、アルカディオと名がつく息子たちは、どうしようもないバカ息子・ダメ男で、とんでもない事件を起こして悲劇の死を迎えます。一方で、弟アウレリャノは冷静沈着。後世まで語られる英雄となった(第2世代)アウレリャノ・ブエンディア大佐(最終的には革命軍総司令官)は、もし革命が成功していたらカストロになれたくらいの人です。信長的な冷徹さも持ち合わせていますが、部下からの信望を集めます。幼少期の「内向的、頭良い、熟考的」は、大器晩成型なのかもしれません。
もう一つ忘れてならないのが、(第1世代)ウルスラです。何と120歳まで生き延びます。彼女の真面目さ、心優しさ、母性は、まさに聖母ウルスラ、一族のゴッド・マザーです。第6世代=玄孫(やしゃご)まで見届けて天命を全うします。ウルスラ没後100頁は、家の没落が加速していく----最後のアウレリャノもぶっ壊れます。あれほど近親相姦はダメと言ったのに----こともあって、ウルスラ・ロスは読者の誰もが感じるところではないでしょうか。
改めて思うに、ブエンディア家の人々は、世代を問わず、性別問わず、ほぼ全員がぶっ飛んでいますね。埋蔵金探しにやっきになったり、外で17人も子供をつくったり、叔母・甥で近親相姦したり。
そういった登場人物を判別するのに大変役に立つのが、本章の前に掲載されている家系図です。
複数の同名----アルカディオ、アウレリャノ、レメディオス、ウルスラ----が登場しますので、これがないと、読者はまず物語についていくのは不可能です。但し、婚姻関係や呼称----「大佐」・「法王」----を先に見てしまうとストーリー展開が判ってしまうので、なるべく確認のためにチラ見するくらいに留めておく方がいいでしょうね。楽しみはとっておきましょう。
「孤独」
「屋敷」に住み、金塊を埋蔵するくらいですから、暮らし向きは豊かなのですが、題名の通り、一家の誰もが孤独を感じながら過ごしているのです。聖母ウルスラでさえです。何千人の兵を指揮した大佐も退官すれば孤独です。少年期は有能で勤勉で前途洋々だったのに・・・。そういう文字通りのSolitudeに加えて、家族同士がわかり合えないこと、強い欲望に囚われること、も含めての「孤独」だと思います。孤独から逃れようと尽くしても、孤独は解消されるどころか、益々深みにはまってしまうのです。
「予言者が羊皮紙に書き残した謎」
最後の3頁で明かされます。(第6世代)アウレリャノ・バビロニアが発見したそれは、100年間にブエンディア家に起こる全ての出来事が詳細に書かれている預言書だったのです。本書625頁に収められた全ての出来事が、です。つまり本書は100年前には既に書かれていたことになります。
アウレリャノ・バビロニアは、愛し合い、子供まで産んでくれた女性が、自分の叔母であることを初めて知ったのでした・・・・とありますが、読者は「家系図」を見ていますから、とうに知っていました。こういう点が「家系図」の悪いところです。ないと困るのですけどね。
そして、預言書によって、決定的な事実が知らされます。
抜粋:
●解読を終えたまさにその瞬間に、この蜃気楼の町は風によってなぎ倒され、人間の記憶から消える
●百年の孤独を運命づけられた家系は二度と地上に出現する機会をもちえない
最後の一人となったアウレリャノ・バビロニアは、この家から出ることがないことを悟るのです。こんな残酷な終わり方をする物語なのです。
---- ---- ----
余談①
幻想・ファンタジーと現実世界が混在していて、その都度、読者は冷静に前後を読み返すことになります。慣れればびっくりしません。
●200歳近い老人が登場する
●幽霊・亡霊が普通に会話する
●美しい女性が天に舞い昇る
●雨が3年間降り続く
余談②
読むのに時間が掛かります。
625頁の長編でも、「アンナ・カレーニナ」「戦争と平和」等、3巻(600頁x3)と同じくらいの量があるような錯覚をおぼえます。その理由を挙げておきます。
(1)直接話法(「セリフ」)が極端に少なく、語り手の過去形の間接話法で語られる
(2)まぎらわしい人名が多く、家系図での確認が必須
(3)強烈な出来事が頻発し、食傷気味で一気読みできない
(4)過去・現在・未来が行ったり来たりする
名作とは読みにくいものかも知れません。
令和の日本文学も、出だしが難しくて、何度も読み返します。ショート動画の時代、イントロは短い方が入りやすいと思います。強烈なギターリフは好きですが。
(写真は表紙と挿図から引用)

