ニーチェといえば、真っ先に思い浮かべるのが、「超人」、「神は死んだ」、「永劫回帰」。高校倫理の教科書に載っているくらいですから、一般常識といっていいでしょう。

 

哲学者の思想を断片的に知っているだけ、という状態を脱却して、系統的に学んでみたいという願望があります。勿論、素人レベルで。高校生の頃には教科書以上は理解できませんでしたが、成熟した大人の理解力がもし私にあるのなら、トライしてみようと思い立ったのです。

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さて、本作。

全563頁は、80編の「教説」、つまり平均7頁の短い説話で成り立っています。大きな流れは↑上述の3つのキーワードの通りなのですが、(たぶん)関係してない説話もたくさん混じっています。説話というくらいですから、ツァラトゥストラが第三者に対して演説します。「見よ」「聞け」「やれ」と命令口調で、説教くさいのはちょっとご勘弁、という方には不向きかも知れません。。。私は嫌いじゃないです、とんがった人。

 

「序説」から抜粋します。

●この老いた聖者は、森の中にいて、まだ何も聞いてはいない。神は死んだ、ということを・・・

 

●聞け、私は諸君に超人を教える。超人は大地の意義である。君たちの意思はこう言うべきだ。超人よ、大地の意義であれ、と。

 

「序説」から↑こんなこと言われると、ゾクゾクします。早く先が読みたくなります。

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山の洞窟での思索、町での説法を繰り返し、徐々に3つのキーワードの核心に迫っていきます。

 

まずは「超人」。

真逆が「最後の人間」。家畜のように不満も希望もなく、ただ惰性的に’小さな幸福’を求めて小利口に生きている人。ニーチェは、「最後の人間」を脱し、「超人」になれ、と説きます。

 

「超人」になるには、「精神の3つの変化」と呼ばれるステップを踏まなくてはなりません。

(1) ラクダ 辛い負荷を我慢する忍耐力

(2) 獅子 自ら支配者になるべく、自由を獲得せんとする

(3) 幼子(おさなご) 自由に価値創造する権利を持つ

 

幼子は無垢です。新たな遊びを創造します。世界は自分のためにあります。「超人」とは、自由意志で生きる人間、と私は思いますが、「超人」の定義は、文中では最後まで明確には説明されません。文中に散りばめられた、たくさんの教えから、読者は自分なりの定義を見つけていくことになります。そもそも、「超人」は自主性が基本になりますから、与えられるものではないのかも知れません。

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そして、「神は死んだ」。

●ああ、我が兄弟たちよ。この神はわたしが創ったものであり、人間の作り上げたものであり、人間の錯乱の産物だった。すべての神々と同じように。人間だったのだ、神は。しかも人間と自我のみじめな一かけらに過ぎなかった。

 

●ヘブライ人イエスは、死への憧れに襲われた。(中略)わが兄弟よ。私を信じよ。彼(イエス)はあまりに早く死んだ。私の年齢まで生きていたら、自らその教えを撤回しただろう。彼は高潔だった。だがまだ未熟だった。青年というものは、未熟に愛し、未熟に人間と大地を憎む。その心情と精神の翼はまだ縛られていて、重い(第一部 自由な死について)。

 

↑ここでいう「大地」は、人が死んだ後に土に戻るという意図で、人間そのものを表していると理解しました(飽く迄私見です)。

 

神への冒涜に感じるのは仕方ありませんが、神を否定すること自体が主眼ではなく、神の価値観(隣人愛、死の不自由など)に左右されずに、自由意志で価値を創造できる「超人」になれ、と説いているものと思います。そして、第一部の最後に決定的な一文が登場します。

 

●すべての神は死んだ。今われらは、超人が生まれることを願う。ツァラトゥストラはこう語った(第一部 贈るという徳について)。

 

改めて読むと、教説というよりも啓蒙・啓発書のイメージです。

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そして、「永劫回帰」。

「瞬間」と名前がついた門があります。二つの道が門で合流しています。

 

●この長い道を戻れば、それは永遠に連なっている。あちらの長い道を行けば、別の永遠に通じている。(中略)すべて既に一度はこの道を通った事があるのではないか?(第三部 幻影と謎について)

↑ここから「永劫回帰」理論が始まっています。

 

そして「永劫回帰」が決定的となります。弟子(蛇と鷹・・・人間ではないのです)のセリフです。

 

●万物は永遠に回帰するのだ。我々自身も万物と共に。そして我々は無限の回数に亘って現に存在していたのだ。万物も我らと共に。(第三部 快復しつつある者)

 

●見よ、あなたは永劫回帰を教える者だ。いまやこれがあなたの運命なのです。(同)

 

ここで疑問に思うのは、生命・モノの両方が永劫回帰するのか、もしかしたら生命だけかも?という可能性もあると感じています。というのは、「生」が繰り返す、と何度も云っているのですが、一方で「万物」とも云っています。無機物は考えにくいので、生命のみと理解しておきます。どなたか教えてくださいませ。

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ニヒリズム(虚無主義)----すべての価値や意味を否定する思想----と云われます。本作から感覚的にそれに触れたような気もするのですが、読んでいる最中に、’ああ、ここにニヒリズムが表現されてるな’、みたいな発見があった訳ではなく、そういう意見もあるわね。。。と性格が素直なもので、ニュアンスを感じたくらいに留まっています。

 

理解できました、なんて恐れおおくて、とても申せません。

ニーチェ先生、なんとなく面白いです。疲れましたが。

(写真は表紙から引用)