「本屋大賞ノミネート作品」というカテゴリーに関心が向いた私。フレッシュな芥川賞作品もいいけど、中堅・ベテラン作家による話題作こそが読むべき現代日本文学ではないかしら?と思い至り、今更ながら接してみることにしました。
2023年本屋大賞第9位。
社会問題に関して賛否両論ある中で、賛否を決めつけず中立性を保っているところ、大人だなと感じます。読者に考えさせる作品で、読んでいて気持ちいいですね。
●裏表紙から引用:
カフェの若き店長・原田清瀬は、ある日、恋人の松木圭太が怪我をして意識が戻らないと病院から連絡を受ける。松木の部屋を訪れた清瀬は、彼が隠していたノートを見つけたことで、恋人が自分に隠していた秘密を少しずつ知ることに――。「当たり前」に埋もれた声を丁寧に紡ぎ、他者と交わる痛みとその先の希望を描いた物語。
幼なじみで日頃から仲の良い29歳の親友二人が、揃って意識不明の重体となります。二人は殴り合って、歩道橋から階段を転げ落ちた、という証言があり、二人はなぜそんなことになったのか?もしくは第三者が介在するのか?という謎解きストーリーが、本作をミステリー小説のような仕立てにさせています。
謎が少しずつ解けていく過程で、<「当たり前」に埋もれた声>、<他者と交わる痛み>、つまり、障害に悩む人々の声、苦しみ・・・が本作のストーリーに大きく関わります。
(1) 発達性読み書き障害
(2) 注意欠如・多動症(ADHD)
(3) 心的外傷後ストレス障害(PTSD)
加えて、真面目で頑張り屋という長所をもった健常者が、時には他人に狭量という短所を見せてしまうことがあります。「障害のある人」というバイアスでしか相手を見られなかったり、発達障害者を怠け者扱いしたり、つい短所に目が行ってしまったり。作者はそれらに警鐘を鳴らしています。
その文脈で、実は障害を持つ子にとって、最も毒になり得るのが親だと云います。
●親というものは時々平気な顔で、人前で自分の子供をけなす。謙遜のつもりなのだろうか。自分の子供を自分という人間の一部みたいに思っているのかも知れない。
その通りです。「自分の一部」は「所有物」と言換えることができます。親だけが知っている子供の恥ずかしい秘密を気軽に喋ってしまうのも同じです。子供は傷つきますし、一番身近な親に裏切られたトラウマや恨みが残ります。謙遜が目的なら、自身の自虐ネタでも披露すべきです。障害が背後にあるのならば、尚更でしょう。これを堂々と問題提起してくれた作者に拍手を贈りたいです。小説って素晴らしいですね。
また、(1)(2)の障害を持つ人物は、克服しようと賢明に努力しますし、よき協力者に恵まれます。そういうストーリー展開に、作者の愛情を感じます。
さらに、
本作のキーワードと思われること:
① 「ずるい女」の存在
男性を渡り歩き、ずる賢く利用して生きていく女性(『BUTTER』みたいです)、「女の子がそんな悪いことするわけがない」という大人たちのバイアスを利用する女の子、息子の「男性」を暴力的だと決めつけて嫌悪する母親。
男であるというだけで加害者であり、女性は常に被害者である、という偏見や先入観もあります。かわいそうな女を演じて男を利用してやろうという女性も登場します。男の立場からすると、そういう女性にはとにかく近寄らないこと(そうできないから小説になるのですが)です。
「ずるい女」とは若干異なりますが、↓これも登場します。
暴力的な男を自分が産んでしまったという母親の自己否定。息子は辛すぎます。中学生にもなれば、男の子は母親の身長を越して、声変わりもして、可愛いかった男の子の面影は最早ありません。正義のためのケンカを母親が理解してくれないのは、辛いですね。
「ずるい女」が本性をあらわします。
●かわいそうな女に手を差し伸べたい男っていっぱいいるの。なんでかわかります?自信がないからですよ。
●人に知られたくない弱点がある男の人って利用しやすい。自分に酔ってる男って、本当に嫌い。
保身のために、警察にウソの証言をする女。
女性の魂胆を知った上で女性を守ろうとする男性が登場します。判らなくもありませんが。私(男性)は女性は男が守るべき存在などと考えたことはありません。周囲の女性たちも守って欲しいとは全く思っていないという自信があります。
② 「本当の自分」なんて存在しない。人は単純ではない。
「あなた、私のこと、どれだけ知ってる?」
この一言は、背筋をピーンとさせてくれます。「本当の自分」なんて、そう簡単ではないから。
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題名の『川のほとりに立つ者は』について:
●アメリカ文学作品『夜の底の川』(読み書きができない男性が、消えた恋人と手紙をやり取りするというストーリー)から抜粋:
川のほとりに立つ者は、水底に沈む石の数を知り得ない。僕は一枚ずつ、便箋を破いて、空中に放った。(中略)それらは一度川岸に落ち、また風に浮いた。(中略)僕はそれを見ながら、ニーナは死んだんだと思った。
水底の石の数は知り得なくても、石がそれぞれ違っていて、名前もそれぞれなのですね。怒り、痛み、悲しみ、希望、といった名前なのです。人の気持ちも然り。
本屋大賞入賞作品、いいですね。追いかけてみます。
(写真は表紙から引用)
