最年少で新潮新人賞を受賞した、伊良刹那の、まるで三島由紀夫の再来を思わせると評する中編小説、「海を覗く」の感想を述べてゆきます。



あらすじ

  1. 高校二年生の美術部員・速水圭一は、同級生の北条司の圧倒的な美貌に惹かれる。
  2. 速水は北条に肖像画のモデルを頼み、二人は次第に親しくなっていく。
  3. 北条への憧れは、単なる友情を超えた「美」への執着と恋情へ変わっていく。
  4. しかし夏休み、二人の関係を揺るがす出来事が起こり、速水の理想は崩れ去る。
  5. 少年が「美」を追い求めるなかで、耽美と絶望の境界へ沈んでいく青春小説。



まず、この小説に対して、当時17歳だった作者の伊良刹那さんに対して、私は敬意を抱いております。17歳最年少で新潮新人賞を受賞するということは文学シーンにおいての事件であり、伝説です。故に私はこの作品に真剣に向き合おうという姿勢で挑みました。

この小説は非常に複雑で、賛否両論ある作品です。肯定的な意見としては、当時高校生男子が書いた文章としてはかなりレベルの高い文学的な文章である。
否定的意見には、三島由紀夫の真似事、物語がありきたり、主人公像のリアリティのなさ、で割れています。
私が読んだ感想としての肯定意見を述べると、やはりこれは作者が三島由紀夫の影響が強い、というのもあるとは思いますが、これほどの多用な語句を高校生だった作者が自由自在に表現しているということはやはり驚くべきところがあります。しかし、これは欠点の裏返しでもあり、このわざとらしい修飾的衒学的ギラギラな文章が稚拙である、と感じてしまうのも否めません。
つまり、三島由紀夫の真似事にすぎない、と思われてしまうのも納得のことです。
物語の展開としては、速水は北条に美を思い描き、幻滅について思いを逡巡させ、結局速水は修学旅行の夜、宿泊船から海へ入水自殺してしまう、というものなのです。が、突っ込みたくなる箇所がいくつもあり、一つは、自殺までの必然性が浅い点です。速水は北条に恋していることを自覚します。紛れもない同性愛(三島由紀夫の影響にも繋がる)ですが、その恋に敗れ、入水自殺を実行。と、展開されるプロセスがまだ書けたのではないか、と思ってしまいます。そのプロセスについても、この小説全体の印象にも繋がりますが、行動や仕草の描写が少なく、人物たちの独白やセリフで独自の哲学を語り合ってるような構図になっていて、果たしてこれは小説でなくてはならなかったのか、と疑問を抱いてしまいました。
新人賞の募集要項の規定なので仕方ないとは思うのですが、中編の形式をとっている以上、やはり印象的なシーンの個々を繋ぐための日常描写が少ない、つまり、意味のある描写が多すぎる、と思います。緩急の緩が薄いので、急、が際立っていないのです。ここまでのことを高校生だった作者に求めるというのも場違いだとは私自身思うのですけれど、いささか厳しすぎると自覚はしていますが、新人賞を受賞してしまった以上、しっかりと良し悪しを分けて考えていきたいところです。