あらすじ
七果は集団ストーカー被害に遭っていた。鶴ヶ峰バスターミナルでダブルバインドの攻撃を受ける。四番乗り場乗客は順路組と隙間組に別れ、七果が選ぶ並びはいつもマナー違反で間違っていることになった。
設定
友の会……集団ストーカー行為に手を染める。被害者の拷問データを各国の学者に売って財源にする。
登場人物
樹七果(イツキ・ナナカ)……二十代、統合失調の烙印を押され、集団ストーカー被害に遭う。バスでクリーニング屋に通勤している。
【四番乗り場4】
ある朝、七果は隙間側に座っていた。すると彼女の後続は全員順路側になり、バスが来た。七果は叫んだ。
「順路はこっちだよ。並ばないで休んでいたあなたが悪い」
順路組は七果を追い越し、バスに乗車する。七果は順路組の前列、隙間組としての権利を行使するべく進もうとしたが、いくら待っても隙間組先頭は地蔵のように動かなかった。彼らは休んでいるのをアピールするかのようにおしゃべりを展開。七果は結局マナー違反者とされ、順路後続の最後尾に並んだ。
順路後続に並んでいた壮年男性が片耳に手を当てた。
「ターミナル封鎖」
四番乗り場の乗客はバスに乗り切れていないところで、どよめいた。運転手がバスドアを全開にして降りるように指示したからだ。ターミナルから出ていくバスも入るバスもなくなり、七果が変だなと思っていると、周囲に通行止めの三角スコーンとポールが次々と設置された。
「おはようございます! ハーメルン報道部、有吉小夏です」
四番乗り場、順路組先頭の若い女性がカバンの中からカメラを出した。四番乗り場を撮影。
「樹さんいじめの証拠は取りましたよ。楽しかったですか?」
乗客は顔色を変えた。
「そんなの知らない」
「知らなければいいのです。ハーメルンに協力していただきます」
ハーメルン――警察に対抗できる武装組織といわれるーー。
四番乗り場乗客は蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。すると乗り場後続の中の先ほどの壮年男性が突然懐から拳銃を出して発砲した。七果は一瞬、人が死んだと思ったが、狙い撃ちに遭った乗客は負傷しない代わりにインクまみれになった。
拳銃を持っているのは壮年男性だけではない。四番乗り場乗客の中の男女数人が銃を出し、次々と逃走者を射撃した。しかしバスターミナルは狭くないので銃撃の網を抜ける逃走者も出た。その時ターンと銃声が反響し、同時にいいところまで逃げた者がインクまみれになった。七果はつぶやいた。
「一体どこから」
「ターミナル周辺の街路樹と、近くのマンションに狙撃手、スナイパーがいるんです」
有吉はいつの間にか七果のそばに立っていた。
「四番乗り場の乗客と言ったらターミナルの中の一握りですが、数か月にわたってカメラで監視させていただきました。容疑者自宅はすべてマークしています。樹さんも協力してくださいますね」
「どこから見ていたんですか」
「正面のマンションです」
有吉は花が咲くように微笑した。
「ブログ書いてたの、存じていますよ。頑張りましたね」
ハーメルンの壮年第三部隊長、雨風塔吉郎はバスターミナルの主要な出口の一つを封鎖して展開を静観していた。今回の集団ストーカーは四番乗り場の一握りの乗客なのでハーメルン機動隊が出るほどではないが、とにかくターミナルが広く、脱出口が多い。このため、四部隊が合同で封鎖している。インクまみれの老婆が公衆トイレ前を突破して塔吉郎がいる方のターミナル出口に突進してきた。彼女は塔吉郎の部下に抑えられ、周囲に叫んだ。
「助けて! ハーメルンに犯人にされる」
「おばあさん、一般人はそういうこと言わないんだ。不思議だね。みんな協力してくれるよ」
そうめったにあることではないが、大柄な塔吉郎がキレると一般人はあまりの怖さで攻撃を受ける前に具体的なダメージを受けたみたいになる。こわもてに生まれたわけではないのに、大きい身体のもそれなりに厄介なのだ。塔吉郎は彼女にやさしく引導を渡した。
(続く)