七果は集団ストーカー被害に遭っていた。鶴ヶ峰バスターミナルでダブルバインドの攻撃を受ける。四番乗り場乗客は順路組と隙間組に別れ、七果が選ぶ並びはいつもマナー違反で間違っていることになった。ターミナルを見渡せるマンションから主犯の佐竹と下働きの八木が彼女を監視していた。
友の会……集団ストーカー行為に手を染める。被害者の拷問データを各国の学者に売って財源にする。
樹七果(イツキ・ナナカ)……二十代、統合失調の烙印を押され、集団ストーカー被害に遭う。バスでクリーニング屋に通勤している。
佐竹……三十代、友の会鶴ヶ峰支部代表
八木……友の会の新人、二十代、佐竹の下働き。
【四番乗り場3】
七果は後から来た老人に訊ねた。「次のバスに乗りますか?」ここまでくるのに七果は何度も辛酸をなめた。『並んでいますか』と聞いたのでは攻撃を受けるのだ。相手は『はい』と答えるが、次のバスが来て七果が進もうとすると『私が乗るのはこのバスではない』と七果の障害になる。
彼女の質問に老人は「はい」と答えた。彼女は続けた。
「並んでください」
「あなたがベンチをまたいでこっちに来ればいでしょう」
「後から来たあなたが私の後ろに並ぶのが筋です」
「でもみんな隙間側に座ってるじゃない。数からいってあなたの方がおかしいよ。こっちに来たらいいじゃない」
七果は仕方なく隙間組に入った。
「馬鹿だな。やられる本人が悪いんだぜ」
八木は佐竹が面白そうにしているので訊ねた。
「どうしてですか」
佐竹は四番乗り場の監視画像を見ながらソファでコーヒーを飲み、エアコンで涼んでのびのびと羽根を広げていた。八木は新人で仕事も上手ではなかったが、佐竹に個人的に気に入られ、下働きの他に話し相手もしていた。
「考えて反撃しないターゲットが悪いんだよ」
「なるほど。つまり犯罪と戦えば被害に遭わないのですね」
佐竹は八木にあきれたようだった。
「手向かってきたら攻撃受けて当然じゃないか。自分が悪いことも知らないで手向かうからいけないんだ。やられて当然なんだよ」
「じゃあ、やられて反省してたら被害に遭わないのですね」
「やられて黙っていたら攻撃を受けるに決まってるだろ。戦わない本人が悪いんだ」
「佐竹さん矛盾してますよ」
佐竹は湿度の高い恍惚とした笑みを浮かべた。
「当たり前だ。ターゲットが悪いから矛盾するんだよ。あいつが考えたら攻撃の理由になる、考えなかったら攻撃の理由になる。行動したら攻撃の理由になる、行動しなかったら攻撃の理由になる。理由は本人が悪いからだ」
「へえ、知らなかった。暴力って原因はいつでも被害者のせいなんですね」
「そうさ。だから自動的に解決する分担は被害者にあることになる。加害者は常に考えてもらう権利を満喫できるんだ。暴力っていつもしてくれる方のお母さんをでっちあげて、支配するゲームなんだよ」
八木は知恵を回して考えた。
「ターゲットが解決しないから悪い。でも加害者に不利な解決を考えたら全力で潰す」
「そうだ。じわじわいじめ殺してやる。心理学者様々だ。社会のゴミを掃除してやってるんだよ。みっともないお母さんの替えなんかいくらでもいるんだ」
「加害者が欲しいのはやられてくれるおもちゃみたいなお母さんじゃなくて、守ってくれるお母さんですからね」
「でもおもちゃってやめられないじゃないか」
「そうですね」
(続く)
【中間の後書き】
組織犯罪に造詣の深い読者様と、実際に集団ストーカー被害に遭われている読者様は今回の3章で「んっ、これはいただけない!」とアレルギーを起こされたと思います。前回2章の友の会メンバーは組織犯罪幹部的な考え方をしていましたが、3章の彼らは組織犯罪末端かいじめ加害者、それ以外の単独の犯罪者、支配者の考え方をしています。後半に仕掛けを用意しているわけではなく、とにかく終わらせるためにキャラクターを歪めています。
詳しいことは最後の後書きで説明します。3章まで暗い話でしたが、次回と次々回に救済展開があります。お楽しみに。ご覧くださった方に感謝。