大河が家に入る時に、はじめに気づかなかったカレンダーに目を向けた。花のブーケの柄のカレンダーは一年以上前のものであった。柄を気に入って貼ってあるのか大河は思った。
文也と貴子は食べていた。
「葉山さんは」
大河が聞いた。
「おっちゃんは食べたい時に食べるから。和泉くん食べて」
貴子は笑顔で言う。
「大河くんの仕事は何?」
文也が食べ物をほおばりながら聞いた。
「アルバイトしている。最初に就職したところは思っていたのと違ってやめました」
「ふうん。でも思い通りなとこなんてないでしょ。自分で起業でもしないとね」
文也が大河の目の奥を見るようにして言った。
「起業。考えたこともない」
「ふふ。和泉くん失敗してもいいからやってみたら。もんもんとしているよりいいと思うわよ」
貴子が起業をけしかけてきた。
「何がしたいの」
文也が言う。
「何って、とりあえず山に関していれば」
「山小屋なら夏は仕事があるが冬場はほかを探さないとな」
「夏は山小屋。ほかの季節は町か。それもいいなあ」
大河は目線を天井に向けた。
「決まり。ここから帰ったら山小屋の仕事を探したらいい。不満を持ち続けるよりいい」
文也が頷きながら言った。
「決定ですか」
「和泉くん、失敗してもいいのよ。実行することよ」
貴子が言いお茶を飲んだ。
葉山が眠そうな顔で部屋に入ってきた。
「おっちゃん今ご飯をつけるね」
立ち上がったのは文也だった。
「何の話をしているんだ」
「和泉くんの仕事。山が好きっていうから山小屋の仕事にチャレンジするのもいいよと勧めていたの」
「チャレンジするのはいいことだ。老いてからやっとけばよかったと後悔するよりはな」
葉山から言われると、そうかもしれないと考える大河だった。