強く強く | 祖母、南タカ子<下杉正子

祖母、南タカ子<下杉正子

思い出と、今と、これからと。


「あのライオンの絵、見たときは、ヤベェと思った」と、兄が言った。

二十歳くらいの頃描いたものだった。

今日は兄が倒れてから2回目の面会へ。

ずいぶん前の絵のことなのに、そんなふうに覚えていてくれてありがたく思った。

たくさん悩んでいた時期の作品

いろんなことがあり、このタッチで描くことができなくなった。

当時体調も崩して、絵をかけなくなったりもした。
人生にそして自分自身にも絶望し私は生きていく自信が持てなくなっていた。

食欲もなくなった。

固形物を口にいれることができなかった。

すべてのことに絶望していた私はいつも近くの川を見つめていた。

どうしようもなく川の中に入りたくなる衝動にかられる日々がつづいた。

これは変だと思い、まず浮かんだ顔は兄だった。

兄に電話をした。

「おまえ、電話を切るな!そのままはなして!すぐに行く!」と。

振り向くと兄が自転車で走ってきた。

私は、兄に救ってもらった。

あの時は、照れくさいような気もしてありがとうも言えなかった。

今日、面会に行って「お兄ちゃんにはお世話になってる」と、言ったら「俺はたいしたことはしてないよ」と、言った。

もしも、このライオンの絵をもう一度描くことができるならば、描きたい。

これから兄はリハビリが待っているから。

どんな困難にも負けないこの立ち向かうライオンのように強く強く。