「別れて」

ずぷり。
と言葉が突き刺さった
彼女の、一言が。

痛い
痛い。くるしい。


なんで言葉はこんなに鋭くなるのか
下手な刃物より絶対これ痛いよな、と僕は僕の胸に爪をたてた。

それでも痛みは誤魔化せず、僕は僕は痛みを少しでも和らげようとした。

「僕は、君が好きだよ」


「それでも私はあなたと一緒にいられない。私はあなたの言葉に押しつぶされそうなの」


彼女は鈴を鳴らしたような声でいう。
悲しそうに言葉を紡ぐ。

どうして僕は気が付かなかった。
好きだ。といいながら
どれほどの言葉で彼女を傷つけた。
時間は…戻せないのに…


「ごめん、1からやり直すことはできないかな、君は関係を終わらせようとしてるよね」

「出来ないよ、私はあなたを知ってしまったもの、知ってしまったことを忘れたふりをして過ごすなんで無理」


そうだろうな。
僕だって無理だ。
彼女と過ごした時を忘れるなんて、楽しかったこと嬉しかったことを忘れるなんて
無理だ。


だからこそ、僕は彼女といたい。
彼女と離れたくない、放したくない。


「僕は、どこから間違えた?」

「間違えてはないよ、あなたの言葉は確かに私にとって不愉快にさせるだけの要素をもっていたけど」

それでも、と彼女は言葉を続ける。

「あなたは私を傷つけようとしたわけじゃないでしょ?」


彼女は微笑んだ。


僕は、馬鹿な人間です
大切な人を傷付けるしか出来なかった人間です。
彼女への愛を伝える為の口で、彼女を傷付けることしか出来ませんでした。

それでも、もし
まだ彼女との縁が切れていないのだとしたら

「悪いのは私」

と最後まで僕の非を認めさせてはくれなかった彼女に
今度こそは
史上最上級の愛をつたえよう。







―――――――――
七夕なのに何でこんな話、って私も思うよ。
明日にはバダ円の小説を…!!


守りたいものがあるのです

この命に変えても、
とは言えませんが

それは私にとって
とても大切なものなのです。


「それは何ですか?」

風に声を流しながら男が聞いた。
砂漠のような声。
擦れきった声。
それでも聞き取りずらくはない。


「なんでしょう、なんなのでしょう、分かりません。ですが、大切なのです」

女は風を遮るように話す。
叫んでいる訳ではないが固く、意志の通った声。
とても、とても聞き取りやすい。


「あなたはそれを守れますか?」

男は問いかける

「…守りたい、と思います。守れたらいいな、と」


そこで女が笑った。
男は女の笑顔を見て、風が、流れていた風が止まるのを感じた。


人は弱い。
強くあろうとすればするほど、己の弱さに気付いてしまう。

強さ。
理想の自分。


女は男に共通点を探し、男は女のか弱さを探した。

見つからない、見つかる訳などないのに。


「守れるといいですね」

「はい」


男はそこで口を閉ざし、女もまた口を閉ざした。



風は動かない。
変わりに女は足下の砂を指の先で少しだけ動かした。







「恋人とはなんですか?大切な人のことですか?」

長い髪の女は問い掛けた。

「一緒に居たい人のことじゃないかしら」

向かい合うように座っている髪の短い女が応える。


「愛していなくても、一緒に居たければ恋人にしてしまうの?」

「私は一緒にいて楽しければ、それでいいわ」

「私は大好きな人、愛している人と一緒にいたい。そういう人との関係に恋人という名前をつけたい」

長髪の女は言う


短髪の女は微笑む


「大好きじゃなくても、愛していなくても、人間は嘘がつけるのよ」

「貴女は今、愛している人と一緒にいないのね?」


短髪の女は答えない。

短髪の女は応えない。



「虚しくはないの?相手に失礼だとは思わないの?」

「…それでも彼のことは嫌いじゃないの、大切だとは思うし愛しいとも思うのよ」

まるで言い訳のように短髪の女が声を出す。


「愛しいと思っても愛してはいないんでしょう?」

「それでも私は、私は」


顔はお世辞にも格好いいとは言い難いし
大人なのにどこか子供っぽい彼に
別れの言葉を言おうとは思わないの
それは、私が弱虫で嫌われたくないからかもしれないけど

私は言おうとは思わないの。


短髪の女はそう言った。








――――――――――

堂々巡り。





「…これで終わりにしよう」

不動が鬼道と合わせていた唇を離し、抱き合っている体勢そのままにはそう呟いた。


「不動?どうしたんだいきなり」


「これ以上は鬼道くんと居られない」


泣き出す一歩手前のようなそんな不動の顔を見て、場違いにも綺麗だなんて思ってしまった。




「もう潮時だ」

そんな言葉を言いながら、不動は鬼道を抱き締める腕の力を緩めようとはしなかった。
まるでその手を離したら、どこか深みに落ちていくとでも言うように。


「どうしてそんなことを言うんだ?」

「さっきも言ったろ潮時なんだよ」


「じゃあなんでお前は俺にしがみついたままなんだ」

「うるせぇよ細かいこと言ってんなハゲ」

「それはお前だ」


頭をぽんぽんっと軽く叩くと不動がまた少し腕に力を込めた。


「別れなきゃいけねーのになあ」

本当は嫌だ。
不動の態度はきっと誰がみても明白で

その態度から体から紡がれる言葉は歪で不恰好だった。


「なぜ、別れないといけないんだ」


「鬼道くんには言わねぇ」

「俺は当事者なんだが」


それでも、嫌だ、言いたくない

そう言うと不動は
ぱっと身体を離した
そこから一歩二歩と距離をとっていく

「不動…」

「触んなっ!!!」

伸ばした手を払われた。

そして不動が顔を歪める。
なんで、お前がそんな顔をするんだ
まるで自分が傷ついたみたいな

やってしまったと、後悔するような。


「不動、理由を話してくれ」

不動の視線が宙を漂い、そしてしっかり鬼道と視線を交わした。


離れたい。
俺はこの先、きっと鬼道くんの邪魔にしかならない。
鬼道くんは、鬼道財閥を継がねーといけねぇだろ。
俺がいたら、普通に結婚することも出来ねぇ、だから俺は、俺は鬼道くんと一緒にいたらいけない。


そう悲しそうに笑った。


「鬼道の名なんて俺はいらないさ、お前を苦しめる、足枷になるような名前ならいらない」

悲しまないでくれ
泣かないでくれ
お前が笑っていてくれるなら、俺はなんだってしてやれる。

「…どこかに行こうか不動、どこか、2人で、父さんには悪いが愛する人を幸せに出来ないような奴が、大切な人を悲しませるような奴が、鬼道の名を守れるとは思わないからな」


そこで不動が手を伸ばした
鬼道に向けて真っ直ぐ真っ直ぐ


「悪い鬼道くん、足でまといになりたくないのに、なりたくないのに」

そばに居たい。


これが本音。
言わないと決めていた本当の理由。
鬼道くんの重りにはなりたくなかったのに。

「馬鹿が。お前1人のわがままで俺の足を引っ張れると思っていたのか、1人でなんでも背負おうとするな、お前の分を背負ったくらいじゃ、お前のわがままを聞いたくらいじゃ、俺は潰れない」


そう自信満々に言う鬼道を見て、自分がどれだけ鬼道のことを好きなのか思い知らされる


「鬼道くん、好きだ」

「ふっ、知っている」

そこで鬼道はいつものように人の悪い笑顔を浮かべた。

「不動、さっきは足枷になる名前ならいらないと言ったが訂正してもいいだろうか」

「ん?どういうことだよ」

「お前も鬼道の名を名乗らないか」

不動が楽しそうに声をあげて笑った

「なるほど、足枷、か」

そんな足枷なら悪かねぇな。


そう言うと、鬼道に手を引かれ強く抱き締められた。

不動は鬼道の背中にまわした手に力を込めて

「この足枷は死ぬまで外せねぇなあ」


と、大切な人へ愛を伝えた。



現実はあまりに大きくて
自分はとてもちっぽけで
潰されて息も耐え絶え絶えに

それでも僕は愛を叫んだ。




そんなことを考えて

考えていた自分が馬鹿らしく思えて、僕は



僕は自分の物語に終わりの言葉を書き込んだ。







「望みなんて希望なんてない。だって僕は僕の世界は、始まりと共に終わることが決まっていたのだから」