「…これで終わりにしよう」

不動が鬼道と合わせていた唇を離し、抱き合っている体勢そのままにはそう呟いた。


「不動?どうしたんだいきなり」


「これ以上は鬼道くんと居られない」


泣き出す一歩手前のようなそんな不動の顔を見て、場違いにも綺麗だなんて思ってしまった。




「もう潮時だ」

そんな言葉を言いながら、不動は鬼道を抱き締める腕の力を緩めようとはしなかった。
まるでその手を離したら、どこか深みに落ちていくとでも言うように。


「どうしてそんなことを言うんだ?」

「さっきも言ったろ潮時なんだよ」


「じゃあなんでお前は俺にしがみついたままなんだ」

「うるせぇよ細かいこと言ってんなハゲ」

「それはお前だ」


頭をぽんぽんっと軽く叩くと不動がまた少し腕に力を込めた。


「別れなきゃいけねーのになあ」

本当は嫌だ。
不動の態度はきっと誰がみても明白で

その態度から体から紡がれる言葉は歪で不恰好だった。


「なぜ、別れないといけないんだ」


「鬼道くんには言わねぇ」

「俺は当事者なんだが」


それでも、嫌だ、言いたくない

そう言うと不動は
ぱっと身体を離した
そこから一歩二歩と距離をとっていく

「不動…」

「触んなっ!!!」

伸ばした手を払われた。

そして不動が顔を歪める。
なんで、お前がそんな顔をするんだ
まるで自分が傷ついたみたいな

やってしまったと、後悔するような。


「不動、理由を話してくれ」

不動の視線が宙を漂い、そしてしっかり鬼道と視線を交わした。


離れたい。
俺はこの先、きっと鬼道くんの邪魔にしかならない。
鬼道くんは、鬼道財閥を継がねーといけねぇだろ。
俺がいたら、普通に結婚することも出来ねぇ、だから俺は、俺は鬼道くんと一緒にいたらいけない。


そう悲しそうに笑った。


「鬼道の名なんて俺はいらないさ、お前を苦しめる、足枷になるような名前ならいらない」

悲しまないでくれ
泣かないでくれ
お前が笑っていてくれるなら、俺はなんだってしてやれる。

「…どこかに行こうか不動、どこか、2人で、父さんには悪いが愛する人を幸せに出来ないような奴が、大切な人を悲しませるような奴が、鬼道の名を守れるとは思わないからな」


そこで不動が手を伸ばした
鬼道に向けて真っ直ぐ真っ直ぐ


「悪い鬼道くん、足でまといになりたくないのに、なりたくないのに」

そばに居たい。


これが本音。
言わないと決めていた本当の理由。
鬼道くんの重りにはなりたくなかったのに。

「馬鹿が。お前1人のわがままで俺の足を引っ張れると思っていたのか、1人でなんでも背負おうとするな、お前の分を背負ったくらいじゃ、お前のわがままを聞いたくらいじゃ、俺は潰れない」


そう自信満々に言う鬼道を見て、自分がどれだけ鬼道のことを好きなのか思い知らされる


「鬼道くん、好きだ」

「ふっ、知っている」

そこで鬼道はいつものように人の悪い笑顔を浮かべた。

「不動、さっきは足枷になる名前ならいらないと言ったが訂正してもいいだろうか」

「ん?どういうことだよ」

「お前も鬼道の名を名乗らないか」

不動が楽しそうに声をあげて笑った

「なるほど、足枷、か」

そんな足枷なら悪かねぇな。


そう言うと、鬼道に手を引かれ強く抱き締められた。

不動は鬼道の背中にまわした手に力を込めて

「この足枷は死ぬまで外せねぇなあ」


と、大切な人へ愛を伝えた。