弁護士で国際人権 NGO ヒューマンライツナウ理事長の、伊藤和子さんの書かれた本を読了致しました。

 伊藤和子氏


2023年7月13日(今から約8ヶ月前)、刑法一部改正により「不同意性交罪」が 新たに適用されるようになりました。( 性犯罪に関する刑法改定は 110年ぶり)

では、改正前まではどのような理不尽ことが起こっていたのでしょうか。この本が書かれたのは2019年です。伊藤氏は今回の刑法改正に向けて、先頭に立って活動されてきました。

1980年代までは女性の性被害は世界的にも「恥ずかしいこと」とされ、黙殺されてきました。女性に対する暴力が許されないというムーブメントが起こり始めたのは、1990年代に入ってからです。

2023年の同意性交罪が制定されるまでには、レイプ被害者の人権を踏みにじるような無罪判決も数多くありました。

① 2019年 3月26日 名古屋地裁での無罪判決
「娘が中学2年生の頃から性虐待をし続け、19歳になった娘に性交をした父親に対する判決で、性交には娘の同意はなかったと裁判所も認定していながら、娘が抗拒不能の状態にまで至っていたと断定するには、なお合理的な疑いが残る」として父親に無罪を言い渡しました。

こちらの↓ブログ記事にも書いたように、性被害を受けている時にはあまりの恐怖により「フリーズ」してしまう事があります。父親は抵抗する娘に激しい暴力を振るったそうです。


父親からの性交(週3~4日)が積み重なった結果、父親に対して心理的に抵抗できない状況が作り出されたにも関わらず、「抗拒不能の状態にまで至っていたと断定するには 疑いが残る」という理由で父親は無罪となったのです。(父親は性交には娘の同意があったと主張)

改定前はこれほどの犯罪ですら無罪になってしまう時代でしたから、性虐待やレイプの起訴率は驚くほどの低さでした。(図表本書P 59より引用)

日本では被害者が勇気を出して訴えても、性犯罪と認められるためのハードルが高すぎるため、警察は「不起訴になるよ」と被害届を受理してくれないのだそうです。(改正前の2023年以前は被害者の6~7割が不起訴にされてしまっていました)

2014年の福岡高裁の判決 無罪
「18歳の女子高生が通っていたゴルフ教室の指導者に、 "お前は度胸がないのだから俺とエッチをしたら お前のゴルフは変わる"などと言われ、ホテルに連れ込まれ性交を受けた。加害者は被害者からの必死な反応がないことを、同意と誤解したのであり無罪」

加害者の優位的な立場を利用した性犯罪ですが、激しく抵抗しなければ同意を得たものとして無罪となるケースがあとをたちませんでした。ジャニー喜多川氏による性加害事件なども、自分の力のある立場を悪用した事件です。


日本では客観的な状況を見れば 明らかに有罪であったとしても、被疑者が「同意があった」と、それを認めない限り有罪にはなりにくいという現状がありました。

2014年 東京高等裁判所 無罪判決
「千葉県内の小学校校庭で夜の8時半頃に、当時15歳の少女に対し25歳の男性が 肩を押してコンクリートブロックの際に追い込んで、背後からレイプをした。被害者の少女はやめてと抵抗をしたが、被疑者は暴力を振るっておらず、被害者の少女は性交を容易に妨げることができたはずと無罪」


警察での取り調べ中に書類を破っただけで現行犯逮捕されてしまうのに↓、夜の校庭で少女をレイプしても犯罪にならないという不思議。


以前のブログ記事にも書かせていただきましたが、性犯罪を犯す者の思考は、本当の相手の気持ちをかなり歪んだ状態で認知してしまうケースが多々あります。


アダルトビデオなどは女性が一方的にレイプをされたあとに、最後には満足そうな表情になっているという、男性に誤解を与えるものも多く、そのようなものを見続けた結果「無理やりの性交を女性は喜ぶ」という誤解すら持っているのだと思います。

2023年の「不同意性交罪」の適用により、「被害者が抵抗を示さなかったとしても、同意をしていなければ有罪」という法律のもと、今までのような納得のいかない無罪がなくなることを祈っています。