前回のブックレビューでは、実父からの性被害にあわれた女性が書いた本を取り上げさせて頂きました。性被害にあった方々は、その後も「トラウマ」に長期間苦しみ続けます。
そして今回は「性犯罪者」にスポットをあてた一冊について読んでみました。著者はNHK報道番組著者ディレクターの鈴木伸元氏です。
実の娘に対して長期間に及ぶ性暴力を繰り返す父親や、出所後も性犯罪を繰り返す人物にはどのような特徴があるのか。我々には強制わいせつを犯してしまう人間の気持ちを到底理解出来ないと思います。何故ならそれは尋常な行いではないからです。
強制わいせつを繰り返した元受刑者の言葉
本書p85引用
「正直に言うと、また性犯罪を繰り返してしまうのではないか、と常に不安な状態で暮らしています。1日24時間のうち、8時間は働いていて、8時間は寝ている。とすると、残りの8時間はずっと性的なことを考えてしまうのです」
「毎日8時間はずっと性的なことを考えている」の衝撃。
性犯罪を繰り返してしまうことは「性依存性」と捉えられます。このような依存性に陥る人物像は、我々がイメージするようなオタク像とは全く異なるそうです。
著者が取材を通して会った小児性犯罪者たちの印象は、小ざっぱりとした格好をしていて、普通に働いて社会人としての生活を営んでおり、結婚をしている場合も多く、会話を極めて通常のやり取りが成り立つ、性犯罪者という言葉が持つイメージとは全く異なるギャップがあったそうです。
性犯罪を犯したA受刑者は、普通の人には"性犯罪を犯す人間の気持ちがわからない"という著者の問いかけに対して、「それが理解出来ないのは普通のことで、ある意味では幸せなんだ」としながらも、「性犯罪は例外の人たちの犯罪と扱われがちだが、現代社会がはらむ典型的な問題」であると指摘しています。誰しもが性犯罪・性依存症者になりうるリスクを抱えており、それは紙一重なのだというのです。
アルコール依存症患者は喉が渇くから酒を飲みすぎる訳ではなく、クレプトマニアが物が欲しいから万引きするのではないのと同様に、性犯罪者も本当の根本的な原因は他にあるのだそうです。
刑務所の保護司さんのお話によると、性犯罪者は発達障がい的な「認知の歪み」を抱えていることが多いそうです。(性犯罪者が全て発達障がいを持っていると言っている訳ではありません)
~性犯罪者に見られる認知の歪み~
①人目を気にすることなく犯行に及ぶため逮捕されてしまう(自分以外が見えていない)・・(実父による娘への犯罪など人目にわかりにくい犯罪もあります)
②反復されるわいせつ行為(少女の体の特定部分にのみ 関心を持ちわいせつ行為を繰り返す→極度の細部へのこだわり)
③漫画やビデオなどの模倣(漫画やビデオなどの映像を 現実と混同してしまう)
④性行為において相手の合意を得ることに関心がなく、 相手の合意という事象を理解できない(相手がどれだけ 傷つくのかという、相手の気持ちを理解しない)
⑤相手の気持ちが理解できないため、嫌だと言われているのに、本当は喜んでいるのだと認知してしまう(漫画やビデオなどがそのようなストーリーになっているため、女性とはそういうものなのだと思ってしまう)
⑥家族の存在はストッパーにならない(家族に迷惑がかかることなど想像もしない)
性犯罪者にお話を聞くと、性犯罪に陥ってしまうきっかけは、社会生活の中で孤立しストレスが溜まったことがきっかけとなり性への依存度が強まってしまうのだそうです。
孤立やストレスが「支配」「優越」「復讐」「依存」などの欲求を増大させ、犯行がうまくいくことでその欲求が一時的に充足され、習慣化されていくとのこと。
性犯罪者は他の依存症中毒者と同様、「どんなに辞めたくても、ストレスがかかってしまうと、また自分が罪を犯してしまうのではないか」という苦しみに常にさらされているそうです。
孤独やストレスを感じた時に何かに「依存」したくなるという気持ちは、ある人に存在し、ある人には存在しないというものではないのだと思います。
例えば匿名のネット掲示板に人の悪口を書き込むのも不健全な依存症だし、アルコール中毒やギャンブル依存、ストーカーやクリプトマニアなども「依存性中毒」です。
A受刑者が述べた「誰しもが性犯罪者に陥る可能性がある」という言葉は、我々が生きるストレス社会においては、決して「人ごと」だと決めつけるべき問題ではないのだと思いました。
次回は刑務所での受刑を終えた出所後、受刑者の再犯を防ぐために、日本や各国ではどのような対策をとっているのかをまとめてみたいと思います。



