お待たせ致しました🙏
兼ねてから予告をしておりました通り
ここから
群青と真紅 は最終章に入ります✨✨
え❓️最終 章❓️
と思われた方も多かったのではないでしょうか
はい。今回は最終章① でございます
あと一話で終わると思いましたよね❓️
書き出したら・・・めちゃくちゃ長くなりました😅(笑)
というわけで、最終章として分けて書いております
是非、最後の章までお付き合い下さいますよう、宜しくお願い致します🩷
前回の物語
物語の続きが始まります✨✨✨
【兄と弟】
「陛下、大公子殿下がお見えでございます」
「よし通せ」
侍従と入れ替わり、テヒョンが国王の私室に入ると、国王と侍従長が待っていた。
「ご機嫌麗しゅうございます。陛下」
「忙しい所悪いな。お前も体調は大丈夫か?」
「はい」
「ではそこに座って」
国王はテヒョンにソファをすすめた。
国王も向かいのソファに座り、ラフな感じで話を始める。
「同士婚認定に付随する、お前達の後継者選定の《保留》処置についてだが」
「はい、この件につきましては、陛下にご迷惑お掛け致しております」
「そんな事はよい。大した手間でもなかったからな」
侍従長がトレーを国王に差し出すと、そこにある書類を取り出した。
「私の国王大権と貴族院によって《保留》を受け入れる事にした」
「ありがとうございます」
「子を親の策略の道具にしないという、お前達の考え方に賛同したのだ。本来であれば元から厳格に法を定めておくべき事だがな」
「はい。今、養子を公言してしまうと、自分の子を養子に出そうとする貴族が増えると思っております。《地位》の為に子を儲けようとする考え方には異議を唱えます」
「その通りだな。近い内に閣議へ提議されるはずだ」
テヒョンとジョングクは、跡継ぎをどう選定するかという事を、保留にしていた。
テヒョンが王位継承権を持つ以上、後継者について無視できない。通常であれば世襲制が取られるので、現王朝の誰かに順位が引き継がれる。しかし、この国では王位継承権は第二位が結婚をすると、第三位以降の権利が消滅することになっていた。
しかし、今回、テヒョンが同士婚をすることになり、元々後継者選定をしなければならなかった上に、王位継承権第二位で世継ぎが途絶えると分かった時点で、養子を取るか、国王を選定制度に委ねるか決めなければならないという、二重の選択に迫られていたのだ。
結婚後も、保留のままにしておきたいと打診していた理由は。今国王に話した内容の通りなのだが、まだ国王が結婚をしていない以上、世継ぎが完全に途絶えるとは限らない。その為、王朝を変えてしまう選定制度に委ねるわけにもいかないと考えていた。
国王自身もテヒョンとジョングクが、その事を考慮して保留を提示したのだという事も、充分に承知していた。
だが世の中がいくら進んでも子を駒にして、より高位の地位を狙う者達が相変わらず多いことに、テヒョン達は辟易していた。
「そういえば、お前が所領する所のニールの一件もあったから、尚更考えてしまうのも分かる」
「はい。陛下にはこの思いは通じて頂けると確信致しておりました。また今回は貴族院の理解が得られたのも安心しました」
「昔のように、頭が硬い者も減っている筈だからな。何事に於いても、時代を読めなければ国益にも影響するのだと、分かってきておるのだろう」
国王は国内の改革に着手し始めていたので、テヒョン達の同士婚のおかげで、貴族院にも理解者が増えてきている事が分かって安堵した。
「もう食事の時間だな。テヒョン、久しぶりに食事に付き合え」
「はい。喜んで」
国王はテヒョンを伴って部屋を出ると、食堂へ向かった。
「お前達のバチェラーパーティーは、随分賑わったと聞いている」
「ははは、随分飲まされましたよ。ジョングクは軍隊のコミュニティもありますから、私より飲まされたでしょうね」
「そうであろうな」
「私は皆がとても。楽しく盛り上げて祝ってくれたので、凄く嬉しかったです」
「社交界ではかなり話題に上がっていたからな。皆自分の事のように喜んでいただろう」
「私も充分に楽しませてもらいました」
「では今日は私が、独身最後の《弟》を祝わせてもらうぞ」
「はい。しかしお酒はお手柔らかに」
国王は笑うとテヒョンの肩を叩いた。
「しかし、、、」
肩に手を置きながら、自分とさほど背丈が変わらないテヒョンに、慈しむ目線を向けながら言った。
「私のジャケットの裾を掴んで《お兄ちゃま、お兄ちゃま》と、後をトコトコ付いてきていたお前が、家庭を持つまでになったのだな」
「陛下よりお先になってしまいまして、申し訳ありません」
「バカもの」
国王はケラケラ笑った。
「従兄である前に、お前に対しては私はいつも保護者の心境だ」
食堂では、二人は向かい合って座る。この時は上座などは関係なく、従兄弟同士で食事をした。国王もテヒョンも二人だけで食卓に座るのは久しぶりだった。
テヒョンが気取った所なく、美味しそうに食べる様子を国王は頬杖をついて見ていた。
「素の部分では、お前は子どもの頃と変わっていないのだな」
テヒョンが『え?』というような視線で応えた。
「プライベートでは食欲旺盛なのに、貴族達の前では殆ど食事に手を付けなかったな」
「あの者達の《残す作法》が嫌いでしたからね。ならば手を付けずにきれいなまま、誰か困っている者に、食べてもらった方が宜しいではありませんか」
「まぁな。私も儀礼的な公式の宴卓は苦手だ」
「いっそのこと、食べ残しは処罰の対象にして頂きたい位です」
「なるほどな。検討しよう」
「絶対でございますよ」
二人は笑った。
「陛下は私のお願い事は、今までほぼ全て受け入れて下さいましたね」
「そうか?」
「はい。一番の難関であった、覚醒したいという願いも受け入れて下さいました」
国王は自分の手元に視線を落とす。
「お前の願い事は、殆どが人の為だったからだろう。お前自身の我儘を言われたことはなかったからな」
「我が家のスミスにも、同じような事を言われました」
「見た目よりも大人ぶるお前が、いじらしくてな・・・」
国王は視線をテヒョンに向けると、力を抜いたように笑みを見せた。
「物分かりのいい、手の掛からない子どもになろうとする健気なお前が、私には余計に子どもらしく見えたわ。だから尚更一番可愛い弟なのだ」
テヒョンもにっこり笑うと、自分の皿から料理を取って国王の皿へ移した。
「給仕係へ言えばお替りは貰えるのに、いつも陛下はこうして、ご自分のお皿から私にお替りを下さいました」
「よく覚えていたな」
「どの王族の皆様より、特別に可愛がって頂き、有難き幸せにございます」
「私に一番に懐いてくれていたからな、あの頃のお前は本当に可愛かった」
「あの頃は、、、でございますか?」
「うん?大人になったお前は、時々私の揚げ足を取るからなぁ」
「それは陛下に隙があるからではございませんか?」
「こいつめ!それよ、その言いぐさよ」
二人は思い切り笑った。
「・・・しかし、ここぞという時には私を助けてくれて、気苦労が多い時には支えてくれる頼もしい紳士になってくれた」
「そう思って下さって、とても嬉しく思います」
「お前はこれからも、ずっと私の大切な可愛い弟だ」
国王はそう言うと、ぐいと腕を伸ばしてテヒョンの髪をくしゃくしゃと撫でた。
国王は、自身が王として即位するまで、テヒョンの事は本当の弟のように可愛がっていた。しかし、即位して早々に国の重要機密事項として、可愛がっていた弟の出生の秘密を知らされた。
小さい弟が、生まれながらにして背負っていた宿命にショックを禁じ得なかった。
ましてや当の本人は何も知らず、あどけない笑顔を向けてくるのだ。
幸いにして大公の嫡男《王子》として育てられていたが、もしかしたら国の監視下で育てられたかもしれなかった。
例え王族として生まれてはいても、その違いは雲泥の差だったであろう。
テヒョンの秘密を知ってからは、どうしても誰よりも幸せになってもらいたい、ずっとそう願い続けていた。
国王自身も辛い体験を経験して《国の父》としてここまでやってきている。
テヒョンもそれらを近くで見てきているだけに、同じように頼もしい兄には幸せになってもらいたいと、常日頃から切望していた。
テヒョンのそういう優しさも、国王にはしっかり通じている。
食後のデザートを食べながら、紅茶を飲んでいるテヒョンを国王は感慨深げに見ていた。
「既にお前は充分に幸せであるのだろうが・・・」
そう言いながら、自分の皿から焼菓子をテヒョンの皿に移すと、
「幸せにおなり」
と言った。
超多忙を極まる国王と、束の間の食事の時間を楽しんだテヒョンは、『では結婚式で』と挨拶を交わして公爵家に帰った。
【結婚式の朝】
この日を迎えるまで、国中がテヒョンとジョングクの婚礼の為に、あらゆる所に入念な準備をしてきた。
ロンドン中に騎馬警官が配備され、治安に目を光らせている。
街のあちらこちらや、パレードのコースになる通りは、テヒョンとジョングクが、揃って描かれた肖像画が旗となって、沢山の国旗と共に飾られ、その下を毎日騎馬警官が、通りの警備チェックに勤しんでいた。また、商売人達は早くも出店を沢山出していて、既に観光客相手に商いを始めている。
政府の方も外交に関する官庁は、国賓の対応に追われていた。なにせ結婚式に招待された諸外国の王族達が、次々とロンドンに到着していたのだ。間違いがあっては国の威信に関わる。
また、国王や大公はその各国の王族達からの謁見に連日忙しかった。
更に、結婚式で二人が並ぶ姿を自分の目に焼き付けようと、テヒョンとジョングクの熱狂的な支持者が国の内外からロンドンに集まって来ていた。
こうして英国は、首都のロンドンを中心に世界中から注目されている《美しい王子》と《美しい英雄》の婚礼を待つだけの準備が全て整った状態となっていた。
結婚式当日の英国は、珍しく朝から輝くような晴天だった。そのロンドンの煌くような空に号砲が鳴り響く______
「さぁテヒョン様、祝砲が鳴りましたぞ。そろそろお衣装にお召し替え下さいませ」
テヒョンの目の前に、あの婚礼衣装が運ばれてきた。
ミセス・ブラウンや衣装を手掛けた職人達が、テヒョンが袖を通すまで、丁寧にメンテナンスをしてくれていたおかげで、仕上がった時と全く変わらない輝きを放っている。
「ミセス・ブラウン、やっと今日きちんとお披露目する事が出来るよ。メンテナンスを続けてくれてありがとう」
テヒョンの前に衣装を掲げながら、ミセス・ブラウンは涙を堪えきれずにいた。
「勿体ないお言葉でございます。前回お袖を通された時も、サイズは変わらずぴったりでございましたし、お直しがなくて宜しゅうございました」
ミセス・ブラウンは、衣装の上着をスミスに託して横に移動した。そして、既に従僕用の正装をしたデイビスがテヒョンのドレスシャツへの着替えを手伝った。
クラバットをしっかり形よく結ぶと、スミスと入れ替わりそこにサファイアのブローチを着けた。歴代の王位継承権を持つ王子が、結婚式に着ける慶事専用の宝石だ。
ドレスシャツの支度が整うと、スミスは上着を持ってテヒョンの後ろからゆっくりと着せた。更に前に回るとゴールドのチェーンボタンでジャケットの前を留めた。そしてガーターブルーのサッシュを肩から掛けると、ガーター勲章を着けた。
全ての動作が、格式を持っていて主役の主人を敬う厳かな場面となって進んだ。
この時テヒョンはジョングクから貰った、あのロケットペンダントを衣装の上から手でつつみ込んだ。
出征前夜に二人で交換した指輪は今日はそのロケットペンダントのチェーンに通してある。この大切な《お守り》に、今日まで導いてくれた事への感謝を手の中に込めた。
そして最後の支度として、スミスとデイビスが二人でロイヤルマントを持つと、折り畳まれたマントを支える為に、もう一人の従僕が真ん中に立った。
スミスとデイビスが、其々テヒョンの左右の肩にマントを掛けると、真ん中の従僕がゆっくりと裾を後ろに引いていく。
テヒョンの後ろに美しいシルエットが現れた。その美しさに、見守っていたミセス・ブラウンや他の従僕達がため息を漏らした。
最後にデイビスが靴を履かせて、全ての着替えが終わった。
「テヒョン様、全てのお支度が整いました。とても凛々しく、お美しゅうございます」
スミスはそう言うと、ステッキを手渡した。
テヒョンは頷いて受け取りながら、
「では参る」
と言うとスミスを伴って、部屋の出口に向かった。その後ろに二人の従僕が付いてロイヤルマントの裾を持った。
宮殿の公爵家の職員達が、皆総出でテヒョンが目の前を通り過ぎて行くのをお辞儀をしながら見送る。
階段を降り玄関口まで来ると、先回りしていたデイビスが立っていて、テヒョンにグレーのシルクハットを手渡した。笑顔でそれを受け取ると静かに前被りで頭に乗せる。
外には、キム公爵家の慶事用の四頭立ての馬車が停まっていた。
18世紀の正装をした御者に、フットマンが二人いて、その一人が馬車の扉を開けた。
もう一人がテヒョンのステッキを受け取り、乗車を手伝う。その後にデイビスも乗り込んだ。
「ではテヒョン様、後ほどお式の時に」
「うん。宜しくな」
「デイビス、頼んだぞ」
「はい!」
スミスが馬車から離れると、扉が閉められフットマンが揃って馬車の後ろに就いた。
そして馬車は出発する。
走り出した馬車は、宮殿の前の通りを走り庭園に続く道に差し掛かった。
庭園には、いつもなら手入れをしている庭師が、そこここで作業をしているのだが、今日は国全体が祝日となったので、作業をしている者はなく、逆に仕事着ではない服装で集まった庭師達が、並んで馬車の見送りをしていた。テヒョンが手を振るとお辞儀で応えた。
庭園を抜けて暫く進んでいくと、公爵家の居住区と一般が入れる区域の境にあたる場所まで来た。そこの境にある柵の向こう側に、沢山の市民の姿が見えた。
「殿下、あのように沢山の市民が、お祝いに駆け付けてくれています」
テヒョンが窓越しに言われた方向を見る。
市民達はテヒョンが乗った馬車が見えてくると一斉に歓声を上げた。
やってくる馬車を迎える為に、門番が出入り口の門を開いた。
ここには近衛騎兵連隊が、テヒョンが乗った馬車の警護の為に待ち受けていた。ここから先は式場の大聖堂まで馬車にはしっかりと、近衛騎兵連隊の近衛騎兵が就く事になる。
馬車が門の中で一旦止まると、近衛騎兵連隊の連隊長が挨拶に来た。
フットマンが馬車の扉を開けると、連隊長は脱帽し頭を下げた。
「本日、大公子殿下の御婚礼の儀式に護衛の役目と共に付き添わせて頂きます、トーマス・ジョンソンでございます」
「トーマス!君が就いてくれるのか」
「はい。この事はずっと内緒にしておりました。驚いて頂けて光栄でございます」
「相変わらずだな」
テヒョンとトーマスは笑った。
「しかし、友でもある君が就いてくれているなら安心だ。ありがとう」
「テヒョン様とジョングク様の新しい門出でございますれば、しっかりお守りさせて頂きます」
トーマスは姿勢を正すと敬礼をした。
「ではすぐにご出発だ」
トーマスが御者に命令を出して、自身の馬に跨った。続いて近衛兵達をそれぞれの持ち場に就かせると、馬車の先頭に就いて出発の号令を出した。
テヒョンの馬車は、前後左右に近衛騎兵の警護がしっかり就いた。
成り行きを見守っていた市民達が、馬車の出発と共に再び歓声を上げる。
『おめでとうございます!殿下!』『殿下〜〜!』『テヒョン様〜〜!』など、思い思いに声を掛ける。
この市民達の歓声は宮殿を出ると、式場がある大聖堂まで続くことになる。
市民が集まった沿道には、騎馬警官達が等間隔で警備に就いていた。
テヒョンを乗せた馬車が、市民達が振るそれぞれの小旗の波と、大歓声の中を進んで行く。
「ジョングクも支度は済んでいるのだろうか」
チョン伯爵家______
「祝砲が鳴ったな。殿下はもうそろそろお式の会場に向かわれる頃だ。さ、我々もジョングク様のお支度を急ぎますよ」
ハンスがジョングクの支度に取り掛かろうと、従僕達と式で着用する衣装を着せる順に整えていた。この衣装はテヒョンの婚礼衣装を作る時に一緒に作らせた、フルドレスの軍服だった。結婚式が延期になった後、伯爵家でも定期的に手入れがされていたので、美しく維持されていた。
ジョングクが肌や髪等を整えて、部屋に戻ってきた。
「いよいよでございますね、ジョングク様。お支度を始めさせて頂きますよ」
「うん。宜しくなハンス」
ハンスは深々とお辞儀をすると、すぐに切り替えて従僕達に指示を出した。
下着を整え、ドレススラックスを履くと従僕がシャツを着せる。ボタンを留め身体に合わせてシャツを整える。
次にハンスがジャケットを着せた。
ジョングクの正装用軍服は、立襟でそこには金糸で刺繍が施され、肩章飾りには太い金のフリンジが着いている。肩章自体には軍隊での階級章がピンで留められており、陸軍近衛師団の大佐章の図柄になっていた。
ハンスがボタンを留めていくと、左肩からはサファイアブルーのサッシュが掛けられ、王族との結婚により、国王から授けられた最高位のガーター勲章が着けられた。
胸には伯爵章と新たに授かった、公爵章と王位を継承する王族の伴侶を表す記章が着いている。
またジョングクは先の戦争に於いての功績により、数々の記章が授与され、それらも胸元に飾られた。
続いて右肩には、金糸で編み込まれた飾緒が飾られた。
上着自体には、あらゆる場所に金糸で刺繍がされていて、袖口には厚みのある刺繍が施され、背中側の裾の切れ込みには、左右にスカートオーナメントが金糸のモール刺繍で施されていた。
最後に腰回りにベルトが着けられて、それはそれは凛々しい姿となった。
ハンスは更に、念入りにチェックをして勲章や記章等が曲がって着いていたり、シワになるようなよれがないか見て回った。
「完璧でございます、ジョングク様。まことにご立派な出で立ちでございます」
「そうか、ありがとう」
ジョングクは壁の鏡に向かい、自分自身を改めて眺めた。そして軍服の胸元に掌をあてて、中に着けているテヒョンから授かった、ロケットペンダントと、そのチェーンに通してある指輪が共にある事を確かめた。二人の愛の証でもあり、離れている時には心の拠り所になってくれた。
ジョングクは今日までの道のりを改めて思い起こし、感謝をするのだった。
「支度は終わったのか?」
アンジェロが部屋に入ってきた。
ジョングクの結婚式に参列するために、父であるソレンティーノ伯爵と、今回は兄も一緒に数日前からやってきていたのだ。アンジェロ自身も自国ナポリの軍服で正装していた。アンジェロは新郎であるジョングクのベストマンとして、前々から依頼を受けていて、今日は式に付き添う役割があった。
また、今回は同士婚である為新郎の入場は、ベストマンと共に新郎の父親も一緒に入場することになる。
丁度、セオドラ卿も部屋に入ってきた。
セオドラ卿も軍服で正装していた。
「そろそろ時間だ」
セオドラ卿の掛け声で、ハンスや他の従僕達が動き出す。
セオドラ卿とアンジェロを伴い、ジョングクが部屋から出る。
生まれてから、長年暮らしてきた自分の部屋と別れることになるのだ。部屋から出る際にそっと手を壁に当てて心の中で礼をした。
廊下を歩き玄関口まで向かう。玄関にはジョングクの直属の部下が一人立っていて、姿を見ると敬礼をした。彼に会釈で応えると手にしていた、白い羽飾りが美しい二角帽子(※)が差し出された。それを受け取ると被って外に出た。
玄関の外では、伯爵家の職員達が総出で見送りの為に並んでいた。皆、立派なジョングクの姿に感嘆を隠せなかった。
その先に、宮廷から手配された、王室の紋章が入った四頭立ての馬車が待っている。
ここでも軍務で見慣れた近衛兵の顔が二人、馬を降りて待っていた。
「本日は誠におめでとうございます」
そう言って敬礼をした。
ジョングクも『ありがとう』と笑顔で応えた。
「お手伝い致します」
近衛兵は馬車の扉を開けて、乗車を手伝った。その後にセオドラ卿とアンジェロも乗り込む。再び扉を閉めると、そこで車内に向けて最敬礼をした。
馬車の準備を確認すると、フットマンが二人その後ろに立ち、近衛兵の二人は騎乗すると出発を待った。ジョングクは窓を開けると涙目になって見送るハンスに声を掛けた。
「今日まで本当にありがとうハンス」
ハンスの顔が歪んで涙をこぼした。
「申し訳ありません、、、お祝いの日に涙など」
「いや構わないよ。でも、昨日あんなに色々話しているのに、、、」
「そんなにすぐに、切り替えられるものではありませんよ。大切に大切にお育て致しました、伯爵家の可愛いご子息だったのでございますから、、、」
ハンスは言い終わらない内に泣き出した。
「ジョングク、もうこれ以上ハンスを泣かすな。埒が明かなくなるぞ」
「いや、ジョンお前も泣きそうになってるじゃないか」
アンジェロが笑った。
「ハンスとは、どうせまた後で顔を合わせるのだ。もう出発だ」
セオドラ卿はそう言って中から御者に合図を出した。
「いってらっしゃいませ、ジョングク様」
ハンスがやっとの思いで言葉を発した。
「うん、、、」
ジョングクは窓を閉めた。
馬車が走り出した。
近衛兵が乗った馬が、馬車の両側を護って並走する。
後ろから歓声が聞こえた。振り返ると見送るハンスの後ろに、チョン伯爵家の職員達が手を振りながら見送る姿が見えた。
もう二度と帰ることがない《家》が段々と小さくなっていく。とうとうジョングクの頬を涙が伝った。
「あーあ、結局泣いているじゃないか」
アンジェロがハンカチを差し出した。
「式の間、目を腫らしたままでいるわけにはいかないぞ。今のうちになんとかしておけよ」
セオドラ卿が静かに諭した。
ジョングクは頷きながら涙を拭った。
「まったく、うちの者たちはやたらと涙もろいのが揃っていて、事あるごとに号泣されるので目も当てられぬわ」
セオドラ卿は呆れたように笑っているのだが、それだけ心根の優しい者が多い事を分かって言っている。
貴族の中には、腹の中では何を考えているか分からないような人間が多くいる。
人として分かりやすい素直な者が、どれだけ頼りになり、信頼出来るのか承知しているからこそ言えるのだ。
「叔父上が仰るように、特にハンスはいいキャラクターをしている」
「確かに」
ジョングクが泣き笑いをした。
馬車が門の所まで来ると、外には沢山の市民が集まっているのが見えた。市民達は、ジョングクが乗った馬車が見えると大きな歓声を上げた。
「おお!こんなに沢山の人々がお前の為に集まってくれている」
セオドラ卿の言葉に、ジョングクが外に目を向ける。敷地の柵の間から市民達の笑顔が見えた。
門には馬車を先導する騎馬兵が待機していて、車体を確認すると馬上で敬礼をして迎えた。
門にはきちんと従僕服の正装をした門番達が並んでいる。
ジョングクは窓を開けて彼らに声を掛ける。
「ありがとう。皆元気で、、、」
「本日はおめでとうございます。《殿下》もどうぞお元気で」
門番達は挨拶を返すと、深々と頭を下げた。
ジョングクは彼等のお辞儀姿に、テヒョンの不意な訪問で、何度も走って連絡に奔走していた姿を思い出していた。
すると、また熱いものがこみ上げてくる。
「駄目だ、早く馬車を出さないと、ジョンの涙腺はこのまま決壊してしまう」
アンジェロは窓を閉めた。
馬車はいよいよ門を出ると、通りを走り出した。市民達から沢山の祝福の声が上がった。
「おっと、叔父上まで・・・」
アンジェロが言い掛けて、涙が零れ落ちそうになっているセオドラ卿が、手で『大丈夫だ』と制した。
「私一人だけ冷静では、まるで冷たい人間のようではないですか」
ジョングクとセオドラ卿が笑い出した。
でもおかげで親子二人は、気持ちを落ち着かせる事が出来た。
ジョングクは生まれてから今日まで、自分を育んでくれた場所を振り返る。そして徐々に遠くなるその景色に、心の中で『ありがとう』と礼をした。
ジョングクの生家から式場までの通りにも、国旗やロイヤル・カップルの旗が掲げられていた。ここも通りを挟んで両側には馬車を見送る市民達が集まり、ジョングクの馬車が近付いてくると、大きな歓声が上がり、小さな小旗を振って見送った。
こうして、テヒョンとジョングクは、公の面前で二人の永遠の愛を誓い合う為の場所へ、沢山の祝福を受けながら向かって行った。
つづく________
(※)二角帽子






























