前回の物語
物語の続きが始まります✨✨✨
【テヒョンとセオドラ卿】
テヒョンは時間があるときには、チョン伯爵家へ出向いてパックスの相手をしてやった。
ジョングクが不在の伯爵家では、こうしてテヒョンが訪問してくれるので、普段、主人の世話をする従僕や女中達の寂しさは幾分薄れているようだった。
それに、キム公爵家とチョン伯爵家が縁組をするという話が、両家でそれぞれ働く職員達にも、まだ内密であるという条件の元で知らされるようになったので、それだけで更に喜び活気づいていた。
「今日は殿下がお見えなのか?」
「はい。今はパックスとお庭に出ていらっしゃいます。」
昼過ぎにセオドラ卿が外出先から戻ると、テヒョンが来ている事を知ってハンスに訊ねた。
「殿下もお忙しいのに、わざわざご訪問頂くのが申し訳ないな。」
「はい、ですが、、、やはりジョングク様がいらっしゃらないのがお寂しいのではないでしょうか。」
「そうだな、、、。本来であれば心通わせた者同士、婚約発表を控えた楽しい時期であるからな。しかし二人が王族と公人の立場である為に、職務で我慢をしなければならないのは致し方ないな。」
父親の立場で考えれば、一番楽しくて幸せな時期を普通のカップルと同様に、味わわせてやりたいと思うのが親心である。
しかし、テヒョンには王族としての公務と領主の仕事があり、ジョングクには領主と特殊部隊を担う軍務がある。結婚生活が始まってもお互いに多忙な生活になるのは目に見えていた。
こうして婚姻前に二人が遠距離に置かれる経験をしておくのは、大事な事なのかもしれなかった。
セオドラ卿は中庭に出た。
「殿下、ようこそいらっしゃいました。」
パックスと戯れていたテヒョンが振り返る。
「これは、セオドラ卿。お戻りになったのですね。」
パックスがセオドラ卿の足元で飛び跳ねている。
「はい。今日の用事はすぐに片付く内容でしたので。」
セオドラ卿はしゃがむとパックスを抱き上げた。
「ジョングクが留守になってから、この仔はかなり寂しがって、大人しくなってしまいましてね。我が家にはあれほど走り回れる者がおりませんから、私も大変でございます。」
「パックスはかなりパワフルに走り回りますね。おかげで運動にはなります。」
テヒョンはセオドラ卿に抱かれてくつろいでいるパックスの頭を撫でた。
「毎度我が家にお出で下さり、恐れ多い事でございます。殿下のおかげでパックスがだいぶ元気になりましたので、私どもはとても助かっております。」
「私もこの仔に癒されておりますよ。」
にこにこと笑顔でパックスを撫でる。セオドラ卿はじっとテヒョンの表情を見ていた。
遊び疲れたパックスを飼育係に託すと、テヒョンはセオドラ卿と一緒に昼食を摂った。
二人だけでの食事は初めてだったが、食事をしながらパックスの事や、世間話で盛り上がっていた。
「あ、そうだ。セオドラ卿。」
「はい、なんでございましょうか? 」
「私はよく、小さい頃のやんちゃぶりを昔話の引き合いに出されるのですが、、、」
「はい失礼ながら、殿下の可愛らしいお話は有名でございますから、私も存じ上げております。」
セオドラ卿が笑いを含みながら言う。
「今はそれを忘れて下さい。今日はジョングクのとっておきの話を是非知りたいのです。」
テヒョンは自分についての話題に流れてしまわないよう、すぐにジョングクについての話へ切り返した。
「う〜ん・・・そうですな、、、」
セオドラ卿は顎に手を当て、しばらく考えている様子。
「元々が大人しいというか、何も言わない子でしたから、思い出に残るようなエピソードは無いに等しいのでございますが、、、」
テヒョンはじっとセオドラ卿を見て、一つくらいは何かしらエピソードはあるだろうと、出てくる言葉を期待して待った。
「ああ、、一つございました。」
テヒョンはパッと顔を輝かせ聞く体勢を整えた。
「とっておき、、とまではいかないのでございますが、、、。まだ就学する前だったと思います。
貴族の子ども達だけで結成された聖歌隊がございまして、ジョングクも入っておりました。」
「聖歌隊ですか?」
この話は初耳だった。
「ええ、特にジョングクの歌声には定評がございまして、独唱を任されておりました。」
すっかり父親の顔になって話していた。
「しかし、ある時仲間の一人を殴って怪我をさせてしまったのです。」
「え?、、、あのジョングクが、、ですか?」
突然の話の展開にテヒョンはびっくりした。
「これが、うちに帰ってきてからも、頑なに口を閉ざし殴った理由を答えようとはしなかったのですよ、、、。」
「本当にジョングクが殴ったのですか?信じられない、、、」
「私も最初は信じられませんでした。息子は理由もなく他人を傷つけるような真似は致しません。」
「そうですよ。逆に暴力的な事は嫌いなはず。」
セオドラ卿は深く頷いて話を続けた。
「あれはかなりの頑固者でして、何度理由を訊いても頑として口を割りません。その代わり両目一杯に涙を溜めているのです。」
テヒョンは、微動だにもせずまるで何かを守るかのように、口を閉ざしたままでいる少年のジョングクを想像した。
「しかし、私には大体の見当はついていました。」
ーーセオドラ卿と少年ジョングクーー
『母の事を言われたのだろう?』
ジョングクはハッとして顔を上げた。その拍子に涙が溢れて頬を伝い転がり落ちた。膝の上の両手がギュッと拳を握る。
『もうよいから、この父に話してみなさい。』
ジョングクの幼い瞳から、ポロポロと涙が溢れて止まらなくなった。
セオドラ卿がしゃがみ込んで、ハンカチーフで涙を優しく拭いてやる。
『・・・母、、上を、、』
やっと口を開いたが、言葉を発する度にしゃくり上げてしまう。
『うん、ゆっくりでいいぞ。』
セオドラ卿が両手でジョングクの腕を支えると、擦ってやった。
『母上が、、、僕を、、棄てて、、死んだと、、、母上を、、酷い親みたいな言い方をされて、、、許せなかった、、、』
ジョングクはそう言ってセオドラ卿にしがみつくと、わんわん泣きじゃくった。
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「自分が何かを言われるよりも何よりも、母親が侮辱された事がどうしても許せなかったのでしょうなぁ、、、」
テヒョンは当時の虚勢を張ったジョングクの背中を想像し、胸が締め付けられるような気持ちになった。
「そんなことがあったのですね・・・私も母を亡くしているので、ジョングクの気持ちは痛いほど分かります。」
テヒョンは少し涙目になっていた。
「聖歌隊の中では、ジョングクは何をおいても上位におりましたので、それに敵わない者達が、あの子の弱点が《母親がいない》ことだと踏んだのでしょう。それを持ち出していじめに走ったのが間違いでした。」
セオドラ卿が苦笑いをした。
「そうですね、、、妬んで虐めに走ることは子どもにはよくある話ですが、自分にではなく母に矛先が向いた事が、ジョングクには許せなくて悔しい事だったのですね。」
テヒョンは言いながら、子どもながらに言い訳をしようともしなかった彼を《ジョングクらしい》と思わずにはいられなかった。全て自分一人で背負おうとするところは本当に彼らしかった。
大人になった今も変わらない性格に、少年ジョングクへの愛着も湧いた。
そして更に、母親を早くに亡くした寂しさをじっと我慢していた所への攻撃に、小さい心は耐えられなかったであろう事もテヒョンにはよく理解出来た。
「私の昔話とは違って、真面目なジョングクが際立ったエピソードですね。」
テヒョンがため息混じりに言うと、セオドラ卿がニッコリ笑った。
「殿下のご幼少時代のお可愛らしい数々のお姿は、厳格な宮廷の中でもほっとする話題でございましたよ。そのお子様らしいエピソードは、宮廷に出入りする者達の癒しになっておりましたからね。」
「私はよくは覚えていないのですけどね。」
「いや、ですが貴方様の毅然としたお姿や、人々に対する優しいお気遣いや、時折お見せになる愛らしい笑顔は、あのお小さい頃の本質のままでいらっしゃいます。」
テヒョンは少し照れた。
「我が息子がお慕いし、心を奪われるのは無理もありませんな。」
おもいもよらない言葉に、テヒョンの顔が紅くなった。
「勘弁してください、セオドラ卿!」
本当に恥ずかしくなって、両手で顔を隠すと、
「やはり殿下はお変わりなく素敵なお方でいらっしゃる。」
と言ってセオドラ卿は笑い出した。
大きな笑い声に、ハンスや他の従僕達がテーブルにいる二人を振り返った。
「セオドラ様が大きな声で笑われるのは珍しい。」
ハンスは驚いた。そして、それはやはりテヒョンの人柄のおかげなのだと実感した。
「いや、、、失礼致しました。」
セオドラ卿はまだ口角が上がったままだった。
「あなたの大きな笑い声を初めて聞きましたよ。」
テヒョンは恥ずかしさを通り越して、一気に素に戻っていた。
「久しぶりに声を出して笑いました。このように楽しいと感じられるのは、殿下のおかげでございますな。」
テヒョンはセオドラ卿へじっと目線を向けて、
「なにやら素直に喜べないのですけれど、、、」
と冗談交じりに言った。今度は食堂に二人の笑い声が響いた。
チョン伯爵家の職員達は、早くも目の前で未来の親子の親しさを目撃したことになった。
スコットランドの古戦場で、ジョングク率いる師団は最新鋭のアームストロング砲(後装式大砲)の実践訓練を進めていた。
午前中の訓練を終えて昼食休憩の時間になった。
「チョン大佐、王室より私信が届いております。」
訓練所の司令官室で昼食を摂っていたジョングクは、伍長が持ってきた書簡を受け取った。
裏を見るとテヒョンの封蝋がされている。ナフキンで口を拭うとすぐに席を立って、暖炉の前の椅子に座って開封した。
そこには懐かしい愛しい人の文字が並んでいた。読み始めからクスクスと笑いながら文字を追う。
テヒョンの手紙には、仕事の合間に時間を見つけては、チョン伯爵家に行ってパックスと遊んでいる話、セオドラ卿と一緒に食事をした時に、大きな笑い声を初めて聞いた話など、心がほっとする内容ばかりで楽しめた。
手紙は更に続き、調印式の話やニールとゲインズ親子の話にまで及んでいた。
文面を見ると、テヒョンの沢山話したいことが盛り込んであって、離れていてもなんでも共有したい想いが伝わってきた。
会いたいとか、寂しいなどの言葉は書かれてはいなかったが、《くれぐれも身体には気を付けて》とか《無理をしないように》などの労りの言葉の中に、寂しさを紛らわしている思いが感じられて、そのいじらしさに胸がぎゅっと締め付けられた。
それに、テヒョンが何かと実家を気に掛けてくれている事がとても嬉しかった。
最後にジョングクは、Yours Taehyung と書かれたサインに口づけると、手紙を胸に当てしばらく想いに耽った。
テヒョンからの手紙を受け取ってから3週間後、ジョングクは20日間の休暇を迎えることになった。
責任者としての引き継ぎを大尉にすると、実家にもテヒョンにも通達は出さずに、スコットランドを馬車で出発した。
【 プロポーズ〜愛の告白〜】
季節は秋を終え初冬を迎えていた。この頃に降る雨は氷水のように冷たい。
テヒョンの部屋の窓ガラスに、そんな冷たい雨がいくつも当たって濡らしていく。
暖炉の前で読書をしていると、ノックの音がした。
「入ってよいぞ。」
扉が開く音がする、、、だが誰かが入ってくる気配がしない。不思議に思って振り返った。
「お久しぶりでございます、テヒョン様。」
見覚えのある優しい笑顔の持ち主が、テヒョンを真っ直ぐ見つめてそこに立っていた。
「なんだ?、、、え?いつ、、」
「さぁ、おいで下さい。あなた様のジョングクでございます。」
驚いて目を丸くしているテヒョンに、ジョングクは両手を広げて言った。
「なんなのだ、、、知らせもよこさずに、、、」
テヒョンは嬉しいやら、悔しいやら感情がまとまらないまま、ジョングクの腕の中に包まれた。
「ずっとあなた様をこうして、腕の中に閉じ込めておきたかった、、、」
テヒョンの身体を包み込み抱きしめる。
そのまま顔を首筋に近づけて、愛しい人の香りを確かめた。
テヒョンも同時にジョングクの香りに包まれて、幸せな一時に身を委ねた。
久しぶりに感じるお互いの温もりを確かめ合う。
しばらくそうしていたが、テヒョンが思い出したかの様にパッと顔を上げた。
「食事はどうした?いや、先に伯爵家には帰ってきたのか?いつまでこちらにいられるのだ?陛下の所には・・・」
「シー・・・黙って、、、」
低い静かな声で言いながら、テヒョンの唇の前に自分の人差し指を当てる。
言葉を遮られて上目遣いにジョングクを見ると、ゆっくり口角を上げて煽った。
その表情にすっかり上気したジョングクが、テヒョンをそのまま抱き上げてベッドまで行くとそのまま沈めた。
「そのうちスミス達が来るぞ。」
「それは大丈夫でございますよ。しばらくテヒョン様と二人きりにして下さいと、ちゃんとお願いをして参りましたから。」
「本当にそんな事を言ったのか?」
「はい。」
恥ずかしげもなく満面の笑みで答えた。テヒョンは思わず吹き出した。
「今からあなた様を・・私が独り占めに致します、、、」
『いつからジョングクは、こんなに大胆で甘い言葉が言えるようになったのだろう、、』とテヒョンは思いながら、待ち望んでいた想い人からの熱い口づけに身も心も委ねた。
お互いの衣服を次々と脱がしていく。服さえもこの二人の間には介在させたくないものなのだ。
離れていた間の、恋焦がれた切ない想いを共有し合うように、何度も何度も口づけ抱き合った。
「ねぇ、、僕に歌を歌ってよ。」
テヒョンはジョングクの腕を枕に話し掛けた。
「歌、、、ですか?」
「前に二人で歌ったことはあっただろう?今度は君の歌が聴きたい。」
「・・・歌えますかどうか、、」
「昔、君は聖歌隊にいた事があったんだよな?」
ジョングクはびっくりして上体を上げて、
「どうしてそれを?」
と訊き返した。
「セオドラ卿に聞いたのだ。君が少年だった頃に聖歌隊にいた事をね。」
「そういう事ですか、、、」
ジョングクはじっとテヒョンの横顔を見ていた。その視線を感じて応える。
「前に言っていただろう?君の小さい頃のとっておきの話を訊くつもりだって。」
「では私の話をお訊きになられたのですね。」
「うん。しっかりとね。」
テヒョンは優しい笑顔で答えた。だが何の話を聞いたのかは語らなかった。
「小さい頃の君は、、、」
言いかけて何かを思い浮かべる。フッと笑顔がほどけると、
「僕が知っているままの君だったよ。」
そう言って手を伸ばして、優しく指で髪をすいた。
ジョングクはテヒョンが、何の話を訊いたのか思い当たった。それほど本当に印象深い話が他に無いということでもある。
それも、テヒョン自身の幼少期に似ている話だけに、敢えて話さないという姿勢が思いやりとして胸にしみた。
こうして心が通じ合うテヒョンのそばにいる事が、ジョングクにとっては最大の癒しなのだ。誰とでもこのような気持ちになれる事ではない。改めて《運命》という言葉を心に刻んだ。
腕枕でまだ余韻に浸っているテヒョンの柔らかい髪に口付けると、ジョングクは静かに歌を歌い始めた。
世の全てを光で包んでしまう
輝きとはあなたの心
私に降り注ぐ煌めきは
崇高なあなたの慈愛
その愛に酬いるために私は
剣を天に捧げ神の雷光を受ける
この人生の使命とは
あなたに繋ぐため
その為に私は天から命を賜った
私の宝のあなたよ
その愛に酬いるために私は
剣を天に捧げ神の雷光を受ける
テヒョンがジョングクの美声に酔いしれていた。
「・・とても良い歌だ。素敵な歌声ではないか。だけど聴いた事がない歌だな、誰の作品なのだ?」
「・・恥ずかしながら、この歌は私が作りました。」
「君が?凄いではないか!」
「成人を迎えた際に、自身の記念として作詞作曲を致しました。どこにも披露したことはありません。今こうしてあなた様に聴いて頂いたのが、初めてのことでございます。」
ジョングクは照れたように答えた。
「君にこのような才能があったなんて、、、ありがとう、最初に聴かせてくれて。」
「大切な人が現れたら、、、そう思って大事にしまっておいたのですよ。」
テヒョンは嬉しくなってジョングクに口づけた。
二人はようやくベッドを出て着替えを始めた。
鏡の前でブラウスのボタンを留めながら、テヒョンは何かに気付いた。喉仏の下の方の胸骨辺りに愛跡が着いていたのだ。
「ジョングク、、、これ。」
「はい。」
ジョングクはテヒョンに近付いて後に立った。
テヒョンは鏡越しにそれを指差して見せた。するとその愛跡に後から手を当てて、
「私の痕跡を着けさせて頂きました。
他の方々からは分からない所でございます。あなた様がお着替えをする度に、鏡を通して私を思い出して頂きとうございます。」
と言った。
「ではこれが消えるまでは、スミスやデイビスに見つからないように着替えなくてはならないな。」
テヒョンは、いじらしい事をするジョングクが可愛いと思って笑った。
着替えを終えて身なりを整えると、テヒョンは机の所まで行き、引き出しを開けて何かを取り出した。
「ジョングク。」
「はい。」
改まった表情で呼ばれてジョングクは背筋を伸ばすと、テヒョンは指輪ケースを差し出して開き、
「僕の公婿(こうせい)になってくれますか?」
と申し出た。ジョングクは直ぐ様跪くと一瞬間を置いて、
「はい、謹んでお受け致します。」
と応えた。
テヒョンは指輪ケースからダイヤモンドの指輪を取り出して、ジョングクの左手を取るとその薬指に婚約指輪を通した。
ジョングクがゆっくりと立ち上がる。
「私が先に求婚をしたかったです。」
「ここは伝統に則って、王室の求婚をさせてもらったよ。」
王族の結婚は、王族側からの求婚がしきたりとなっていた。
「では、個人的に私からも申し入れをさせて下さいませ。」
ジョングクはまた跪き、上着のポケットから指輪ケースを取り出した。そして開くと、
「テヒョン様、私の伴侶になって下さいますか?」
と求婚した。テヒョンはにっこり微笑んで、
「勿論、喜んで受けよう。」
と応えた。
ジョングクは立ち上がり、指輪ケースからこちらもダイヤモンドの指輪を取り出して、テヒョンの左手の薬指に婚約指輪を通した。
「テヒョン様、あなた様にお伝えしたい大切な事がございます。」
ジョングクは指輪を通した手を掴んだまま、もう片方の手を取ってテヒョンを見つめた。そして1言1言に想いを込めて、
「私はあなた様を心から愛しております。」
と伝えた。それは、愛に満ち溢れた《抱擁する言霊》だった。
テヒョンはまるで魔法がかかったように動けなくなってしまった。
お互いにずっと秘めながら、育てるよう大切にしてきた愛の言葉だからだ。
「僕も、、君をとても愛しているよ。」
テヒョンの瞳からは左の薬指にはめているダイヤモンドのような、キラキラとした涙が次から次へと零れ落ちた。
「あなた様は本当にお美しい、、」
ジョングクは恍惚とした表情で涙に濡れるテヒョンを見た。
感極まった二人はしっかりと抱き合うと、深い深い口づけをした。
テヒョンとジョングクは大公の部屋の前にいた。二人は顔を見合わせて頷くと扉をノックする。
扉が開くとオルブライトが深々とお辞儀をして二人を迎え入れた。
大公の部屋にはスミスもいて、オルブライト同様にお辞儀をした。どうやら二人からの《報告》を三人で待ちかねていたようだ。
「随分と待たされたな。」
大公が笑いながら言った。
「父上、先程ジョングクに求婚を致しまして、彼の同意を得られました。」
「そうか。やっと決意したか。」
「おめでとうございます!テヒョン様、ジョングク様。」
オルブライトとスミスが声を掛けた。
二人は顔を見合って嬉しそうに笑った。
「さて、国王陛下にご報告をせねばならぬな。ジョングクの屋敷にも使いを出せ。」
「かしこまりました。」
大公はスミスに書簡を渡した。
「さぁ、どうぞグラスをお取り下さい。」
オルブライトがシャンパーニュを開けてグラスに注いだ。もうすっかり何もかも準備が整っていたようだ。
「前祝いだ。オルブライトもスミスも一緒にグラスを取れ。」
五人はグラスを取ると、大公が乾杯の声を掛ける。
「未来の花婿たちへ!乾杯!」
大公の部屋は幸せの美酒で湧いた。
貴族の婚姻には、先ず国王の許可を必要とした。縁組で生じる爵位の継承や相続などで、後々争いが懸念される事案がないか調査する必要があるからだ。
王族の婚姻の場合には国王の許可は絶対であった。
この度のテヒョンとジョングクの場合は、テヒョンが王族である事と、二人ともヴァンティーダである為、歴代ご法度とされてきた王族とヴァンティーダ族の縁組が審議に掛けられた。
しかし、テヒョンは先の王太子の実子である。産みの親がヴァンティーダであっても、正当な王族の血を受け継いでいるのは事実で、今回の婚姻が同士婚であることで、ヴァンティーダの子孫は残せない事が分かっている。結果この二人の婚姻は問題なしとされた。
大公はテヒョンとジョングクが心を通わせている事を知った時、すでに国王に打診をしていて、早目に許可を取り付けていた。
大公とテヒョンは、婚姻についてテヒョンとジョングクの《同士婚》の意思が整った事が記された書類を持って、国王の元へ参内した。
親子は国王の執務室に通された。書類を受け取った国王は、
「ようやく婚約までこぎつけたか。待っておったぞ。」
と、しびれを切らしたような言葉を向けた。
「陛下には早目に許可を頂いておりましたので、大変お待たせ致しましたと申し上げた方が宜しかったですね。」
大公が笑いながら言った。
「ま、それでもこうして婚約にまで辿り着いたのだからな。めでたいということだ。テヒョン、おめでとう。」
「ありがとうございます、陛下。」
「どうだ?今は幸せか?」
「はい、おかげさまで。」
「ジョングクが今忙しい最中であるから、寂しい思いもしているのだろう?今の休暇中は二人でゆっくり過ごせ。」
「はい。そうさせて頂いております。」
テヒョンは満面の笑みで応えた。
テヒョンとジョングクの婚約の発表が公式に出されると、国中が沸きに沸いてお祝いの声が沢山上がった。
しかし、その反面テヒョンやジョングクの、妻になる事を夢見ていた淑女達の落胆は大きかった。
ある者は嘆き悲しみ、ある者は寝込み、またある者は他の誰に嫁ぐのも嫌だと、修道女になる道へ進んだりと大騒ぎになった。
二人はそれだけ世間から注目をされる貴公子であったのだ。
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