いつも群青と真紅をご愛読下さり
ありがとうございます💖✨💖
いつもは【1話】【2話】の2部構成で物語をお送りしておりますが
今回は【1話】でお送り致します😊
エピソードの関係でのことで、決して
【2話】を掲載忘れたわけではございません・・・念の為

(笑)
前回の物語
物語の続きが始まります✨✨✨
【国民の祈り】
テヒョン達四人を乗せた馬車が、馬車寄せを出て宮殿前の広場に差し掛かる。すると新聞記者達が、正面玄関前に集まっているのが見えた。先に気付いた大公が、
「おお《時の人》を待ち構えた記者達が大勢いるぞ」
と言うと、三人が馬車のカーテンから覗き見た。
「まさかこの馬車に、ジョンが乗っているとは思わないだろうな」
アンジェロが楽しそうに言った。
記者達は、審議会を終えたジョングクから、率直な話を訊きたくて集まっているのだろう。しかし、彼等はそばを通り過ぎていく馬車には、全く気付いていなかった。
「新聞記者達には、陸軍の広報担当を通じて私の意見を出しておきました」
「うん、それで充分だよ」
ジョングクは大佐としての責任をどう問われるのか、心配してくれた国民に向けて審議会終了後、陸軍の広報担当に口頭で声明を述べた。
内容は、自分がかなり無茶をして任務を遂行したこと。それがどれだけ自身や仲間に対して危険であったのか。
それらの行動が軍法に抵触した為、審議を行う必要があり、その審議の詳細を今回の戦争に関わった同盟国に、報告をする義務があること。
また最後に、今回の審議会の結果として、受けなければならない罰則は無かったこと。
更に、任務が成功し戦争終結に結び付いた功績を国王陛下から直接労われたことも付け加えた。
「君のその言葉が、明日の新聞の一面を飾るだろうね」
テヒョンは隣に座るジョングクの手を労うように叩いた。
馬車は庭園を抜けると、普段はあまり使われない西門を出て行く。ここからは下町に続く道が真っすぐ続いていく。
「街の人達の表情が明るいですね」
「我が国は直接の戦火は浴びてはおらぬが、ずっと戦争の影が付きまとっていたからな」
「《英雄》であるジョングクも無事に帰って来たし」
「皆がそう言ってくれますけれど、英雄など私には、なんとも慣れない言葉ですよ」
「相変わらず謙虚な奴だな」
「俺なら調子づいてしまうだろうがな」
アンジェロの言葉に笑いが起きる。
和やかに話をしていると、馬車は角に建つ見慣れた赤レンガの店の前に着いた。
「着いたな」
馬丁に扮した近衛兵が馬車の扉を開けた。
「さあ降りるぞ」
大公が先に降りると、テヒョン、ジョングク、アンジェロと続いて降りた。
「へぇ、、カフェですか。可愛らしい造りですね」
アンジェロが興味を示した。
「ここは、父上のロマンス発祥の店なのですよ」
テヒョンが楽しげに言うと、大公はフフっと笑い店の扉を開けた。
へぇ〜〜といったような顔で、アンジェロがテヒョンの顔を見る。『テヒョン様のロマンチストな所は、生みの親と育ての親両方から受け継いでいるのだな』と納得した。
「おお!これは大公殿下!」
馬車が着いたので、テヒョンを迎えようと入り口で待っていたデニスが声を上げた。
「デニス、久しぶりだな。すまぬな、なかなか来れなくて」
「何を申されます、恐れ多いことでございます。今日は大公子殿下のご予約ですが、ご一緒にいらして下さって、嬉しゅうございます!」
「今日は宜しく頼みますね」
「大公子殿下、ご贔屓にありがとうございます」
「こんにちは」
「チョン伯爵!!ああ・・・本当にお元気でお帰り下さったのですね___」
デニスは大喜びで大公を迎えた後、ジョングクの顔を見るなり泣き出した。
「デニス、気持ちは分かるが早く席に案内してくれ。腹が減っているのだ」
大公が急かした。
「ああ、、申し訳ありません。つい感情的になってしまいまして、失礼致しました。さあ!皆様どうぞこちらへ」
「彼はここの店主か?なんとも面白い男だな」
驚いたり、喜んだり、泣いたりと感情が忙しいデニスを見て、アンジェロがジョングクに訊いた。
「でも凄く暖かくて、いい人なんですよ」
「ふぅ〜・・ん」
アンジェロは店内のあちらこちらを見回しながら、中へ入って行った。
デニスはいつもの《特別なテーブル》に、テヒョン達を案内した。
「改めまして、ようこそいらっしゃいました!心よりお待ちしておりました。本日は貸切でございますので、心置きなくお過ごし下さいませ」
「デニスさん、今日はもう一人新しい客人を連れて来ましたよ」
「ようこそいらっしゃいました。初めてお目に掛かります、当店の主(あるじ)でありますデニス・ポートマンと申します」
「チョン伯爵の従兄弟の、アンジェロ・ディ・ソレンティーノです」
「ソレンティーノ様でございますか。・・・もしやナポリ王国の、ソレンティーノ伯爵家のお方でしょうか?」
「ええ、そうです。ご存知なのですか?」
「はい、実は私の母方の祖母が、首都ナポリ出身でございまして、ソレンティーノ伯爵家は名門貴族でございますから、よくお話を伺っております」
「なるほど、そうだったのですね」
「皆様がよろしければ、せっかくナポリからのお客様もいらっしゃいますし、今日はナポリ料理もお出しして宜しいでしょうか?」
「なんだ、デニスはナポリ料理も出来るのか」
「はい。現地の従兄弟に教えて貰ったもので、この店のメニューにはございませんが、私が好きで時々賄いとして食べたりしておりますから、材料は揃っております」
「英国に居ながら、国の料理が食べられるなんて嬉しいですよ」
「私も食べてみたいです」
「ジョングクは最近新しいメニューには目がないな」
食事が始まる前から話が賑やかに盛り上がった。
「デニスさん、いつものあのメニューもお願いしますね」
「はい、かしこまりました。ではお先にワインをお持ち致します」
「いや、今日は始めにビールで乾杯したいので、そうだなぁ、、、ポーターを持って来て下さい」
「大公子殿下、ポーターは我々庶民が飲んでいる銘柄でございますが、大丈夫でございますか?」
「だから飲みたいのですよ」
テヒョンがニコニコしながら言うので、デニスは釣られて笑い、
「はい、かしこまりました。すぐにご用意致します」
と言って厨房に急いだ。
テヒョンは、母と自分が描かれた絵が、既に幕が開かれている事に気付いた。大公もジョングクも壁に直ぐに目が行った。
「この絵画は?」
三人がじっとその絵を見つめているので、アンジェロが訊いた。
「大公妃殿下と大公子殿下の肖像画でございます」
デニスがワゴンに、ビールが入った陶器の蓋付きビアジョッキと、つまみの料理を乗せてやって来ながら答えた。
「妃殿下もきっと、今日はご一緒なさりたいのではと思いまして、、、」
「気遣いありがとう、デニス」
大公は嬉しそうだった。
「母上の食器の用意も、ありがとうございます」
テヒョンはデニスが《五人分》の食器を用意してくれていることも、ちゃんと気付いていた。
「この店は、大公ご一家の特別な場所なのだな」
「そうですよ。そのような場所にアンジェ兄さんと私も、ご一緒出来ることが嬉しいです」
「さあ、お待たせ致しました」
「おお、、、待ちかねたぞ」
大公がデニスを手伝う。
「いや、それは なりません殿下」
「いいではないか。テヒョンが今回は無礼講だと申しておったのだから」
デニスが慌てて止めようとしたが、大公がお構い無しに、ジョッキをテーブルに素早く移し、それをジョングクやアンジェロが、手渡しで各々の席に揃えていくので、何も出来ないでいた。
テヒョンはその間、母の肖像画の前にフィッシュ&ポテトチップスを乗せた皿と、フォークとビアジョッキを置いた。
「母上、お待たせ致しました。ご一緒に乾杯をしましょう」
大公はそれを見届けて号令を掛ける。
「さあ乾杯だ。デニス、お前も仲間に加われ。ほらビールを持って参れ」
先程から恐縮してばかりいるデニスは、テヒョン達が頷くのを見て、急いで自分の分を取りに行った。
デニスはジョッキを手に戻ってくると、大公に手招きされて、恐る恐るその隣の席に座った。
「よし、揃ったな。今日の主催者であるテヒョンに乾杯を任せよう」
テヒョンは徐ろに立ち上がると、テーブルに座る面々を見回し、
「ジョングクの審議会が結審し、今日で完全に戦争は終結しました。実際に戦場で戦ってきたジョングクとアンジェロに敬意を表します。これからの新しい世界に乾杯!!」
「「「「乾杯!!!!」」」」
皆がグイグイとビールを飲んでいく。
「いやぁ、、、美味いなぁ」
「ポーターも美味いな。ペールエールと互角ではないか?」
「父上、デニスさんが泣いてますよ」
見るとデニスがジョッキを持ったまま、ハラハラと涙をこぼしていた。
「どうした?デニス」
「・・・いやぁ、申し訳ございません。私は幸せでございます。私の店をご利用下さるだけでも、有り難い事ですのに、、この様な尊きお席にまで同席させて頂いて」
「何を申しておるか。長い付き合いではないか。」
「畏れ多いことにございます。今日このまま天に召されてもいいくらいでございます」
「何を馬鹿なことを申しているのだ。デニスがいなくなったら、私だけではない、この店に通う者達が困るであろう」
大公の言葉にデニスは泣き笑いになった。成り行きを見ていたアンジェロは、本当に顔の表情がよく変わるデニスに驚いていた。
「さあデニスさんのフィッシュ&ポテトチップスを食べましょう。冷めてしまいます」
「そうだな、アンジェロは初めてか?」
「はい。初めて見ました」
「アンジェ兄さん、二つ一緒に食べてみて下さい」
先に頬張っていたジョングクがアンジェロに美味しい食べ方を教えた。
「おっ、・・・こうか?」
言われた通りに、フォークにフィッシュとチップスを刺して、まじまじと眺めた後口に入れた。そして何度か頬を動かすと、
「美味いな!めちゃくちゃビールに合うぞ」
と言ってビールをゴクゴクと流し込み、一気に飲み切った。
「デニスさん、ビールのお替り!」
アンジェロがジョッキを掲げながら言う。そのあまりの速さに皆が笑った。
「なんと気持ちの良い飲みっぷりでございますなぁ!はい、少しお待ち下さいませ」
デニスはアンジェロの豪快な飲み方に驚いたが、嬉しそうにジョッキを受け取ると 厨房へ急いだ。
「フィッシュ&ポテトチップスと言ったな。ジョンこれは本当に庶民だけの食べ物か?」
「私もテヒョン様に、ここへ連れて来て頂くまでは知らなかったのですよ」
「私も父上に連れて来て貰って知ったからね」
「大公殿下におかれましては、お忍びでお越しの時に妃殿下と出会われ、その時に妃殿下から教えられ、お召し上がり頂いたのが始まりと、お伺いしております」
デニスが丁度アンジェロのビールのお替りを持って来ながら説明した。
「下町にお忍びで通われるなど、大公殿下らしいですね」
「ここに来る客達には、裏表がないからいいのだ。皆可笑しい時は豪快に笑い、悲しい時には人目をはばからず泣くし、怒りを感じれば怒り出すのだ。また、それを受け入れる懐の深い仲間が沢山いる。貴族の社交の場では見られぬ、ありのままの人間臭さが心地よくてな____ 」
大公は思いにふけるように話した。
「ここ最近では、私の店でチョン伯爵の審議会がどうなるか、よく議論がされていました。貴方様は今や《英雄》でございますからね。しかし、大公子殿下の御言葉が出された時、冷静に検証されなければならない事も改めて分かりました。」
「お前が声明を出したのは良かったということだな」
「陛下が悪者にならずに済みました」
「皆、心の中では分かっていたと思います。国民は陛下をお慕いしていますからね。ただ、言葉ではっきりと説明して欲しかったのだと思います」
「なるほど、、、ここに居ると国民の生の声が聞けるわけですね」
アンジェロは納得した。
「ではそろそろナポリ料理に取り掛からせて頂きます」
デニスは張り切って厨房に戻って行った。
デニスが料理を作っている間、手伝いに来ていたデニスの息子が、飲み物やつまみを席に運んだ。
「テヒョン様、厨房の方から何やら良い香りがしてきましたよ」
「あ、本当だ」
「これはトマトソースの匂いだ。結構本格的な料理ですよ」
アンジェロが期待を込めた声で言った。
暫くすると、大皿を抱えてやって来たデニスの顔が、出来立ての料理から上がる湯気の中に見えた。
「お待たせ致しました。ブカティーニ・アッラマトリチャーナ(※)というパスタ料理でございます」
テーブルの上に大皿が置かれると、香ばしい香りが広がった。
『わあっ!』『おお!』などの声と共に、テヒョン達が前のめりで料理を迎えた。
デニスの息子が持ってきた取り皿に、取り分けていく。
「無礼講ということですので、まずナポリの方に召し上がって頂きましょう」
デニスは一番先にアンジェロに料理の皿を差し出した。
フォークを取ると皆の注目の中、フォークをクルクルと回しながらパスタを絡ませて一口食べてみた。アンジェロは目をつぶり何度も頷きながら、
「ボーノ!」
と大きく応えた。
「故郷の味と全く同じでだ!塩漬け豚は自家製ですか?」
「ええ。自分の家で仕込んで店に持って来ております」
「トマトソースも濃厚でいい酸味だし、チーズも絡んでとても美味しい!」
「もう我慢出来ません!頂きます」
ジョングクがフォークを掴んでパスタに挑んだのを見て、テヒョンも大公も次々とフォークを掴んだ。
四人がデニスのパスタに舌鼓を打っている間に、白ワインが用意された。
皆一気に平らげてナプキンで口元を拭くと、ワインで締めくくった。
「美味いなデニス!これをメニューに加えてみたらどうだ?」
「是非そうして下さい。そうしたらまたすぐに食べに来ますよ」
ジョングクがすぐに賛同した。
「賄いだけではズルいですよ」
テヒョンがおどけたように言う。デニスは皆に言われて、アンジェロの方を向いた。
「いや、私も店に出したら喜ばれると思いますね。本場の味に引けを取るどころか、ナポリの味そのものですし、こうしてこの国の方々にも喜ばれていますしね」
「そうでございますか?・・・では、ソレンティーノ様のお墨付きを頂いたということで、張り切ってメニューに加える事に致しましょう」
四人は拍手で応えた。
テヒョン達は、沢山食べて、飲んで楽しく語りながら、満足した胃袋を珈琲や紅茶で一息つかせていた。
「ジョン、今日でやっと一区切りがついたな。あとはテヒョン様との国を挙げての結婚式だな」
「ようやく進めることが出来て、王室も我が家も伯爵家も湧いておった」
「殿下、それは国民も同じでございますよ。御子息様方の婚礼は皆の夢でもございますから」
デニスも婚礼への期待を隠せないようで、デザートを配る手が弾んで見えた。
「私のこの命があの時、生き長らえる事を諦めていたならば、結婚どころか今こうして親しい方々と食事を楽しむ事すら出来なかったと思うと、、感慨深いです」
「ジョン、お前が療養中は聞けなかったことなのだが、今訊いてもいいか?」
アンジェロが真顔であらたまって訊ねた。
「何でしょう?怖い顔をして」
ジョングクは珍しく真面目なアンジェロに少し笑って応える。
「テヒョン様が奇跡を信じて、お前に会いに走って来て下さっていたあの時、お前も諦めてはいなかったんだよな?」
ジョングクは少し空を見つめて、記憶を探るように語り出した。
「実は命が助かって目が覚めるまで、私はずっと夢を見ていたようです。ですから現実の時系列は全く分かりません」
皆、ジョングクの話を集中して聞き入った。
「夢の中の私は、人や鳥すらいない広大な大地と空の中、ずっと一人で飛んでいました。その内同じ場所にいることに気付き、出口のようなものを探しますが、何度も元に戻されて____ 」
言葉を止めてテヒョンに顔を向けた。
「何処からかテヒョン様の歌声が聞こえてきたのです。すると急に身体が何かに引き込まれ、景色が変わりました。
そこはエジンバラの離宮で、初めてお会いした時のテヒョン様が、私に紅茶のお替りを勧めて下さいました」
「命の危機に瀕している時に、そんな場面が蘇るとは、まるでおとぎ話のようじゃないか」
アンジェロが少しからかう。
「しかし、テヒョン様は《 紅茶のお替りを飲み終えたら、あなたも早く戻られた方がいい》と仰って、私を置いて行ってしまうのです。私は焦って追いかけました。___そこで現実に目が覚めたのです」
「なんと素敵なお話ではございませんか、、、それが夢の中の事とはいえ大公子殿下が、本当にチョン伯爵を連れ戻して下さったということになりますね」
デニスが感動して言った。
「ということは、現実でも夢でもジョンは、テヒョン様に助けて頂いたということだな」
ジョングクは満面の笑みで頷いた。
「チョン伯爵のご危篤の一報があってから、この店でも皆が奇跡のご生還を願う話題で持ちきりでした。
そして、大公子殿下がフランスへ伯爵をお迎えに行かれると聞いてからは、皆その愛情の深さに感動をし、絶対大丈夫だという、大きな希望を持ちました」
デニスが隣のテーブルに置いてあったチラシを取って、テヒョンとジョングクに向けて見せた。
「誰がいつ刷って配り出したものか分かりませんが、いつの間にかこの《Save the Saviors(救世主達を救え)》の言葉が我々の合言葉になりました。うちの店でも外に出掛けても、この言葉が挨拶代わりになったのです」
「国中がお前達二人の為に、日々の生活の中で祈りを捧げてくれていたのだな」
大公はデニスの手からチラシを取ると、感慨深げに文字の一つ一つに目を通しながら言った。
テヒョンとジョングクは、微笑み合うがお互いに照れたように目を伏せた。
あまりにも初々しい姿なので、この二人は本当に厳しい苦難を乗り越えた者同士なのか?というギャップで皆が驚いた。
「祈りは届くのだな、、、」
アンジェロが、テヒョンとジョングクを交互に見ながら、自分にも言い聞かせるように呟いた。
「はい、沢山頂きました。下さった祈りは、全部届いたと思っております」
ジョングクが実感を込めて応える。
テヒョンは隣で、ジョングクの横顔をじっと見つめていた。
「私は今まで、あんなに必死に誰かの為に祈り、追いかけた事はなかった、、、」
テヒョンの瞳の中に、思いの丈が溢れていた。
「大切な人を失う恐怖が、どんなに怖いものか私はよく知っている」
大公はその言葉を聞いて、絵画の中の妻の顔を見上げた。
テヒョンは言葉の振動で涙を零さないようにしているからなのか、微動だにせず静かに話した。誰もが黙ってその姿を見守った。
「ジョングクがいなくなるなんて、私の身体の半分がもぎ取られるようなもの、、、そう思ったら必死になって追いかけていた」
テヒョンの瞳がジョングクに動いた途端、大粒の涙が零れ落ちた。
「テヒョン様」
ジョングクが、腕を伸ばすと包み込むように肩を抱いた。大公は真赤に揺らいだ視線で二人を見つめた。デニスは既に泣いている。アンジェロはただじっと黙って、思い巡らせているようだった。
「はは、、なんだか酔ったみたいだな」
テヒョンは周りの空気に気付き、少し恥ずかしくなったようで、涙したことを言い訳した。デニスがすぐに水を差し出した。テヒョンが受け取ると、その手に自分の手を重ね、
「皆、貴方様が魔法の力で、チョン伯爵をお助けしたのだと申しております」
と言った。
「・・・え?魔法?」
「はい。今日、色々とお話を伺いましたら、本当にそうなのかもしれないと思いました。魔法というのは真に強い思いが成せることだと、私は感じております」
デニスはグッとテヒョンの手を握って、何度も頷いた。
「ここに来ると、何でも口から出てしまうのも、魔法の成せる技ですね」
テヒョンがフフッと笑った。
「さあ、皆さん!しんみりはここまで。お祝いですから明るく締めましょう。デニスさん最後にもう一杯、今度はワインを持って来て下さい」
アンジェロはこのままだと、自分も泣いてしまいそうだと思い、最後の注文を出した。
つづく_______
本文注記
ブカティーニ・アッラマトリチャーナ(Bucatini all'Amatriciana)
ノルチャ産塩漬け豚ほほ肉(グアンチャーレ)、ペコリーノ・ロマーノチーズ、トマトソース、唐辛子等を加えた料理
GoogleAIより
※ 画像はChatGPTコーデリア作成